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ユーザー事例

血行動態モデリングによって透析患者の転帰を改善

ストラスクライド大の研究チームがSimcenterを使用してAVF手術前後の血行動態を比較

血行動態モデリングによって透析患者の転帰を改善

ストラスクライド大学

ストラスクライド大学は、影響力の大きい起業的研究で知られる工科大学です。パートナーとともに、グローバルな課題に対する技術的および社会的に進歩的な解決策を提供したことを称えられ、2012年と2019年に英国の大学で初めてTHEのユニバーシティ・オブ・ザ・イヤーを2回受賞しました。

https://www.strath.ac.uk/
本社:
グラスゴー, United Kingdom
製品:
Simcenter Products, Simcenter STAR-CCM+
業種:
医療機器 / 製薬

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インシリコ・モデリングは、臨床研究を変革するものであり、将来的には外科医が個々の患者に特化した介入を行えるようになるでしょう。
Asimina Kazakidi博士, 生体医工学部生体流体力学研究グループ主任講師兼リーダー
ストラスクライド大学

手術結果の改善

血行動態モデリングによって、患者の動静脈瘻 (AVF) 手術結果をよりよく理解できます。この手術では通常、腕の静脈を動脈に接続します。手術の目標は、静脈を大きく、太くすることで血流と堅牢性を高め、腎疾患治療に必要な透析で、定期的に行われる穿刺に耐えられるようにすることです。 先ごろ、ストラスクライド大学 (ストラスクライド) の生体医工学部の博士課程に在籍するGeorge Hyde-Linaker氏、同学部の生体流体力学 (BioFLM) 研究グループの上級講師兼リーダーであるAsimina (Melina) Kazakidi博士、クイーン・エリザベス大学病院の医師による共同研究がJournal of Medical Engineering & Physics (MEP, Hyde-Linaker G., Hall Barrientos P., Stoumpos S., Kingsmore DB, Kazakidi A. (2022). Patient-specific computational hemodynamics associated with the surgical creation of an arteriovenous fistula. Med. Eng. Phys. 105, 103814, doi: 10.1016/j. medengphy.2022.103814) に発表されました。この研究は、シミュレーションによって、AVF手術後の血管の変化を予測できることを示しています。

Simcenter™ STAR-CCM+™ソフトウェアを使用して手術前後の血流をモデル化することで、臨床医は血行動態環境を理解し、AVFに最適な部位を決定できます。Simcenter STAR-CCM+は、ソフトウェア、ハードウェア、サービスのビジネス・プラットフォームであるSiemens Xceleratorに含まれています。

ストラスクライド大学は、影響力の大きい起業的研究で知られる工科大学です。2012年と2019年に英国で初めてTHEのユニバーシティ・オブ・ザ・イヤーを2回受賞した大学であり、パートナーとともに、グローバルな課題に対する技術的および社会的に進歩的な解決策を提供しています。同大学はヘルステック分野の重要なテーマを研究し、知識を変革するためのヘルステック・クラスター (HTC) があります。生体医工学部は、工学と生命科学の間の革新的で学際的な研究プログラムで知られています。ストラスクライド大学は、生体医工学研究の最先端拠点であるウォルフソン・ビルの改修に1600万ポンドを投資しました。

前述の研究の一部を支援したのは、ストラスクライド大学の国際戦略的パートナー奨学金と、 イギリス研究技術革新機構 (UKRI) の工学・物理科学研究評議会 (EPSRC) が授与した変革的ヘルスケア技術スキーム (EP/W004860/1)、およびマリー・スクウォドフスカ・キュリー助成金契約No 749185に基づくEU H2020研究およびイノベーション・プログラムです。 この研究は今後、患者のデモグラフィック・データバンクを構築し、数値流体力学 (CFD) スタディを完了して、患者の良好な転帰を予測する生物学的パラメーターおよび血行動態パラメーターを決定していきます。

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動静脈瘻形成前後の振動せん断指数 (OSI) のコンター図 (画像提供: Hyde-Linaker et al. Med Eng Phys 105(2022)、103814)

シミュレーションを使用して禁忌に対処する

従来の造影剤は、医用画像において体内の構造や体液のコントラストを高めるために使用される物質です。こうした薬剤には、末期腎疾患患者に禁忌だという問題があります。AVF手術で患者の転帰を改善するために、研究者や医師は、AVFに人体がどのように反応するかを正確に予測する手段を必要としています。ここで、シミュレーションがプロセス全体に対して価値を発揮します。

AVF手術では、静脈と動脈を接続する吻合が作製されます。これにより、血流が静脈に高速で流れ込み、静脈から血液を取り出して体外血液透析を行うことができます。

この処置のなかで、これまで見過ごされていた側面は、接続点の近くで血液がどのように流れるかを理解することです。AVF手術後に起こり得る問題として、AVFによって手への十分な血液供給が妨げられることによるスチール症候群があります。ストラスクライド大のBioFLM研究グループの研究者は、吻合のある腕以外の体の血流減少が、もう一つの問題であると指摘しています。

BioFLMの研究者は、Simcenter STAR-CCM+を使用して、シミュレーションが吻合側の手や体の他の部分への悪影響を防ぐのに役立つことを明らかにしました。また、Simcenter STAR-CCM+によって、時間平均壁せん断応力 (WSS) (流れている血液が血管の固体境界に加える単位面積あたりの力) も予測できました。MEPで発表された研究には、吻合における他のフローパターンも記載されています。CFDによってモデル化されたWSSレベルは、AVFが正常に成熟していることを示し、今後のAVF手術と術後の患者管理の成功率向上につながることを目指しています。

ストラスクライド大のBioFLMの研究は、AVFが長期間持続することの保証に役立ちます。AVFはバスキュラー・アクセスのゴールド・スタンダードですが、AVFの30〜70%は失敗しています。失敗の主な原因は、新生内膜過形成と、不十分な外向きのリモデリングの2つです。新生内膜過形成は、静脈または動脈の内膜における平滑筋細胞や細胞外マトリックスが増殖することで発生します。AVF近位の腕の血管に対する動脈リモデリングの影響は、心血管疾患やスチール症候群などの他の合併症の素因を増大させ、患者に有害となる可能性があります。BioFLMグループによるこの研究は、最終的にAVFの機能を確保し、血液透析を継続可能にするために役立ちます。

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AVF前とAVF後で共通の血管系をシミュレーションし、 (5回目の) 心周期解析でシミュレーションされた血管系の出口での誘発されたRemax値の箱ひげ図 (画像提供: Hyde-Linaker et al. Med Eng Phys 105(2022), 103814)

CFDでのFeMRAデータセットの使用

ストラスクライド大BioFLM研究グループのHyde-Linaker氏とKazakidi博士は、患者集団から動脈血管系を3Dで再現しました。MEPに掲載された研究では、医師が以前に取得したフェルモキシトール増強磁気共鳴血管造影 (FeMRA) のデータを使用し、手術前後の動静脈瘻までの近位血管系全体を再構築するという先駆的な取り組みも行いました。FeMRAは、医師が高解像度の患者固有のデータを取得できるようにする方法です。ストラスクライド大の研究チームは、Simcenter STAR-CCM+を使用して、確立された有限体積を実装し、複数のFeMRAスキャンから血行動態の高忠実度シミュレーションを生成しました。

ストラスクライド大学生体医工学部の博士課程に在籍するGeorge Hyde-Linaker氏は、次のように述べています。「Simcenter STAR-CCM+を使用してスケール分解能ハイブリッド・モデルをシミュレーションしましたが、これは非常に有用であることが証明されました。流量に応じてRANSまたはLESが選択されます。

スケール分解能ハイブリッド (SRH) 乱流モデルは、レイノルズ平均ナビエ・ストークス (RANS) とラージエディ・シミュレーション (LES) のハイブリッド・モデルであり、RANSモデルと計算コストを比較しながら、非定常大規模乱流構造を計算できます。SRHモデルは、問題のメッシュと時間ステップをキャリブレーションするため、ユーザー側の課題が少なくなります。これにより、ユーザーは所与のメッシュとタイムステップを最大限に活用でき、SRHモデルからは、妥当な計算コストと所要時間で十分な精度を得られます。

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(a~c) (a) T1 (収縮期ピーク)、 (b) T2 (中間減速)、および (c) T3 (拡張期ピーク) における手首の動静脈瘻の速度流線と流れ方向 (矢印)。 (d) 正規化されたTAWSS、(e) OSI。(画像提供: Hyde-Linaker et al. Med Eng Phys 105 (2022), 103814, doi: 10.1016/j.medengphy.2022.103814)

さらに、CFDとFeMRAを組み合わせることで、AVFの成熟とその心臓への影響をより詳細に解析できる可能性が示されています。「CFDシミュレーションの結果は、吻合後の左橈骨動脈の位相差FeMRAで得られたデータに基づいて検証されました。」とHyde-Linaker氏は述べています。その結果、橈骨 (栄養) 動脈におけるCFDと位相差FeMRAの平均パーセンテージ差は2.52%であることがわかりました。

Hyde-Linaker氏によると、「AVF後のシミュレーションで出口の情報を得るために使用したFeMRAスキャンから流量を取得できました。ここで観察された橈骨動脈の流量は、かなりよく一致していることがわかります。これを、患者の血流状態を再現するマーカーとして使えるでしょう。」とのことです。

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Simcenter Star-CCM+で生成した患者固有の大動脈の多面体メッシュ。

シミュレーションと医療の統合

ストラスクライド大の生体流体力学のMSc/MRes課程のディレクターでもあるKazakidi氏の目標は、Simcenter STAR-CCM+のシミュレーションなどのシミュレーションで医師を支援し、有用な血行動態情報を提供して、患者の転帰を予測することです。これにより、臨床医は貴重な知見を得て、診断と介入計画を明確化できます。

BioFLMチームは、経験豊富なユーザーの場合、最初の画像セグメンテーションからCFD後処理までのワークフローを、Simcenter STAR-CCM+ソフトウェアを含めて完了するのに、約6時間かかることを発見しました。彼らの説明では、FeMRAに加えてCFDを使用する利点は、生体内での測定が困難な血行動態指標のプロファイリングだということです。Kazakidi氏は次のように語りました。「インシリコ・モデリングは、臨床研究を変革するものであり、将来的には外科医が個々の患者に特化した介入を行えるようになるでしょう。われわれはSimcenter STAR-CCM+を、AVF手術前後の血行動態CFDスタディに使用し、臨床医が詳細な血行動態パターンを知り、情報に基づいた意思決定を行えるようにしました。」

Hyde-Linaker氏とKazakidi氏は今後の研究として、AVF吻合構成や転帰が異なる患者のコホートにおける、さまざまな血行動態環境を調査しようと考えています。 これには、上腕部および手首の動静脈瘻が含まれます。また、流体構造連成 (FSI) シミュレーションを調査に組み込むことにより、動脈壁の動きも考慮します。ストラスクライド大の研究チームは、Simcenter STAR-CCM+を使用してAVFの血行動態を検討できることは、AVFの機能障害と機能不全の理解に役立つ有用なツールであると考えています。

「臨床試験のいくつかの側面を患者固有のモデル、または仮想データセットと 集団に置き換えることで、外科的介入のエビデンスを蓄積できます。 このエビデンスは、認定と認証の際に参照資料として使用されます。その目的は、臨床試験のコストはもちろんのこと、臨床試験に必要な患者数を減らし、期間を短縮することです。」とKazakidi氏は語りました。

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FeMRAマルチスタック画像とその後のCFD解析に基づく患者固有の形状のセグメンテーション、再構成、形状の統一、体積抽出に使用したフレームワーク(画像提供: Hyde-Linaker et al. Med Eng Phys 105(2022), 103814)

われわれはSimcenter STAR-CCM+を、AVF手術前後の血行動態CFDスタディに使用し、臨床医が詳細な血行動態パターンを知り、情報に基づいた意思決定を行えるようにしました。
Asimina Kazakidi博士, 生体医工学部生体流体力学研究グループ主任講師兼リーダー
ストラスクライド大学