レーシングカー開発は、時間との闘い。 CFDがターンアラウンドタイム短縮に貢献
トヨタ自動車株式会社
- 本社:
- Susono
- 製品:
- Simcenter, Simcenter STAR-CCM+
計算精度対ターンアラウン ドタイムの短縮という、背反 する事象の両立とバランスを とるということは非常に難し いです。
トヨタ自動車株式会社
車両開発はターンアラウンドタイムとの 戦い
トヨタ自動車株式会社のモータースポ ーツユニット開発部は長年に渡り、さま ざまなモータースポーツのトップカテ ゴリーでのレース車両の開発にシーメ ンスPLMソフトウェアのSimcenter STAR-CCM+™ソフトウェアやSimcenter STAR-CD™ソフトウェアを利用しており、 富士山麓の恵まれた地形を利用し作ら れたテストコース場を備える同社の東 富士研究所にて、日々レーシングカー の研究開発に取り組んでいます。モータースポーツユニット開発部の役 割の一つは、ル・マン24時間レースで有 名なWEC(世界耐久選手権用)の車両開 発です。この他に、日本国内向けSuperFormulaやSuper-GT用のエンジンおよ び車両の研究/開発を行っています。
モータースポーツユニット開発部のグル ープ長である加藤 裕一郎氏と北條 哲平 氏は、レース車両の設計にはCAE(コン ピューター支援エンジニアリング)と CFD(数値流体力学)が欠かせない存在 だと語ります。

チームを導く、3つのスローガン
モータースポーツユニット開発部の業 務は、次の3つのスローガンを基にレー ス用車両やエンジンに対しCAE/CFDを 適用し、お客様やファンに“速い”や“か っこいい”と思われる車両を開発するこ とです。
(1)競争の中で技術開発を促進し、自 動車の進歩に寄与すること
(2)未知で困難な領域に挑戦すること で、レースファンの共感を呼び起こす
(3)自動車が本来持つ“夢”や“操る楽 しさ”に接して頂く機会をお客様に提供 し、車ファンを広げること
加藤氏のグループの役割は、エンジン、 ハイブリッドコンポーネントの性能や 信頼性といった領域を担当しCAE/CFD 活用してパワートレイン開発や新規解 析技術開発を行っています。北條氏の グループは車両空力を主に担当してお りCFDを活用した車両空力開発を行っ ています。</p><p >モータースポーツユニット開発部での CAE/CFDは約15名のグループであり、 それぞれ半分ずつの人員構成です。限 られた時間とリソースの中で、レースと いう厳しい世界で戦うには、解析業務 の優先順位付け、後工程(設計、実験、 風洞)とのスケジュール調整、解析結果 に対し個人差がでないようにするため の技術の標準化が非常に重要となりま す。
車両開発はターンアラウンドタイムとの 戦い
レーシングカーは、次年度に向けた開 発や次のレースに向けたセッティング、 そして頻繁なレギュレーション変更へ の対応といった業務が非常に重要で す。その中でCFDは、開発工数などのタ ーンアラウンドタイムを大幅に短縮で きるようにすることで大きく貢献するこ とができます。
「レーシング車両は量産車が数年かけ て熟成してくるのとは違い、姿や形が前 年度と同じように見えても中身は基本 的に全て違っており、1年間で毎年新車 を開発しているのと同じことになりま す。その際、高いレベルの初期性能が 求められるため、車両完成前に空力や エンジンなどの信頼性や性能を確保す る必要があります。従来は、モノを製作 し、評価するというプロセスを繰り返す スタイルだったのですが、現在は、製作 前の解析的な評価を徹底的に実施す るスタイルに変わってきました。」と加 藤氏は語ります。</p><p >ル・マン車両の空力設計はドイツに拠 点のあるToyota Motorsport GmbH (ドイツ:トヨタ・モータースポーツ有 限会社。以下、TMG)と共に開発されて います。以前のF1の時代は風洞が開発 の中心であり、CFDは補助的な存在で した。 しかし、今日CFDはコンセプト検 討に欠かせないものとなり、流れを可 視化して車両設計のコンセプトを決め るという意味では非常に重要な役割を 担っています。 CFDは開発のターンアラ ウンドタイムに対してだけではなく、近 年は実際の開発プロセスの中で重要 な役割を負っています。
また、「レース間での車両調整に対して も風洞にかける時間がなく、走行テス トの機会も限られているため、CFDから いきなり実車へというプロセスも生ま れてきており、よりCFDからのアウトプッ トの重要度が増しています。試作の1回 目で決める必要性が増しています。シェ イクダウン車の性能がそのシーズンの 競争力を決めます。」と北條氏は語りま す
今日、非常に重要なことは車両性能お よびコンポーネント性能をモノが無い 段階(設計開発段階)で高める技術、す なわちCAE/シミュレーション技術の活 用が必須だということです。この非常に 厳しい開発スケジュール/プロセスに対 し、CFDが非常に重要な役割を担って おり、シーメンスPLMソフトウェアの Simcenter STAR-CCM+が有効に活用 されています。
レーシングカーの技術を量産車へ
自動車メーカーにとってモータースポ ーツに参入する大きな目的は、プロモ ーションの他に最新技術の開発や蓄積 です。特に技術面では、レーシングカー の開発で得たノウハウの社内展開およ び情報共有や量産車開発への転用とい った重要な側面があります。
モータースポーツユニット開発部のミ ッションとして「レース活動を通じた技 術開発とその量産車適用」が掲げられ ており、継続的に解析技術や実際のモ ノや空力の考え方などを社内展開して います。社内で量産部署と定期的に集 まり、互いのノウハウの共有を話し合う 場が設けられており、解析技術だけで はなく流れの制御方法といった空力技 術などについても共有されています。</p><p >モータースポーツにおいて空力開発 は非常に速いペースです進みます。こ れは言い換えると、最善の成果を可能 な限り短い期間で達成しなければなら ないということです。例えば、1つの開 発部位に対する開発ループは非常に 短く、CFDによる開発ループは約2週間 という単位です。その間にいかに多く の計算を行い、良いアイテムを見つけ るかが鍵となります。このため、定常計 算を中心とした解析を行っています が、実際の車両空力現象は非定常現象 であり、流れは非常に複雑です。解析 の安定性や収束性を重視し、計算精度 はある程度妥協しつつ、解析ケース数 を増やして開発を実施しており、精度と 計算速度のバランスが非常に重要とな ります。
「この、計算精度対ターンアラウンドタ イムの短縮という、背反する事象に対 しての両立及びバランスをとることが 非常に難しいです。我々は非常に厳し いところで戦い続けているので、この辺 りが難しいところです。我々としては2 週間の開発スケジュールに非定常が使 えるようになると解決するのですが。」 と北條氏は語ります。</p><p >「エンジン側では以前は精度に対し て、厳しいところがありました。しかし、 改善により管路内の流れなどは実験と の相関がきれいに取れるようになって きました。現在では自分達が提案した ものがほぼ実機でも効果が出るように なっています。今は、Simcenter STARCCM+を使って非常に満足しています。 また、更なる効率化を進め、最適化と組 み合わせた自動化等もやっていけたら と考えております。」と加藤氏は付け加 えました。
リアルとバーチャル間の検証
ル・マンレースではF1と違い、風洞試験 の時間制限といったレギュレーション はありません。最終的な判断には風洞 試験件結果が用いられますが、限られ たコスト・期間の中での効率的な開発 には、CFDが不可欠です。</p><p >CFDを中心に設計開発を行っていく際 の重要な問題として、CFDの確実性、い わゆる精度の問題が生じます。このた め、風洞試験とCFD間のコリレーション を採るということが非常に重要なこと となります。モータースポーツユニット 開発部では、形状毎に風洞実験とCFD の評価を実施し、空力値、表面圧力分 布やPIV(風洞実験の可視化)を用い て、比較・評価を実施しています。風洞 は実現象に近いため、これを正として 解析のメッシュ解像度や計算設定の見 直しを行い、合わせ込みを行います。評 価する計算ケース数は、膨大な数とな ります。
また、空力では実車の評価も行ってい ます。ダウンフォースなどの空力値は実 走行時に計測することができ、風洞や CFDとの比較評価を行うことができま す。結果が合わない場合は風洞やCFD 各々での改善検討が実施されます。こ のため、CFDの精度向上も、超短期間 で実施する必要がある場合と、中長期 的な改善の部分があり、次のレースま での期間ではまず短期的な改善が要 求されます。</p><p >エンジングループでは、実車に搭載す る前にしっかり評価されており、効果が 出たものが搭載されています。このた め、レース中の評価はあまりなく、イレ ギュラーなトラブルに対し、即対応が必 要か中期的に改善する問題かを、非常 に短時間で判断し、実施しています。
全てスクリプトで記述し使いやすく
シーメンスPLMソフトウェアの製品や サービス、要望に関して加藤氏より次 のようなご意見をいただきました。「今 までに、いくつかの流体ソフトを使って 来た経験から言うと、Simcenter STARCCM+やSimcenter STAR-CDソフトウェ アは全てスクリプトで表現できるため GUIを開く必要がなく、バッチで実行が できます。このため、最適化や他のソフ トとの連携が非常に実行しやすくなっ ています。現在は、もう流体単体での計 算だけでは足りなくなってきています。 シーメンスPLMソフトウェアのアプリケ ーションは上流/下流側のさまざまなア プリケーションと連成させることがで き、かつ非常に使いやすくなっていま す。また、スクリプトも誰が見ても読む ことができる記述になっているのが良 いところです。」</p><p >また、空力側も解析モデル作成などを すべてスクリプト化しており、慣れると 非常に使い易いと評価されています。 空力では、Simcenter STAR-CDをご利 用いただいていたころから完全にマク ロで自動化しており、現在のSimcenter STAR-CCM+も既に全て自動化されてい ます。これは、解析を行う際に非常に重 要な点です。解析結果に対して個人差 によるバラツキが発生しないように、す べてが標準化されています。これによ り、グループの新しいメンバーが解析 を実施しても、解析結果に差が出ない ようになっています。また、スクリプトで 完全自動化されていますが、スクリプト がブラックボックス化しないように、メ ンバーがスクリプトを理解できるよう に、社内教育を施し、メンバーのスキル アップが図られています。
「サポートはレスポンスも早く対応し てもらっています。外資系だと日本のオ フィスは単なる中継地点みたいな感じ で、内容も未消化のまま訳されたもの が送られてくることもありますが、国内 のベンダーと遜色ないレベルで対応し てもらっています。」と加藤氏は長年の シーメンスPLMソフトウェアのユーザ ーとして、技術サポートの満足度に関し て語られました。 北條氏は続けます。「解析手法が完全 に確立してしまっているのですが、今後 より開発ループを速くするための技術 開発などを一緒に実施したいと考えて います。」 </p><p >*本インタビューは2014年に行われま した。2014年当時のご部署、役職です。
従来は、モノを製作し、評価 するというプロセスを繰り返す スタイルだったのですが、現在 は、製作前の解析的な評価を 徹底的に実施するスタイルに 変わってきました。
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