医療機器メーカーの材料リリースを数日単位から数分単位に短縮したOpcenter
Terumo Medical Corporation (TMC) はテルモ株式会社の子会社であり、東京に本社を置く親会社の米国進出に伴い、1972年に設立されました。同社は約50年間にわたり、医療従事者や患者に対して、できる限り最善のソリューションを提供するというテルモのミッションを引き継いでいます。
2021年に創業100周年を迎えたテルモは、東京に本社を置く、医療技術の世界的リーダーです。最大の子会社であるTerumo Americasは、この50年の間に血管内治療システムや、注射/輸液療法の機器、ドラッグ・デリバリー機器など、4部門で膨大な製品ラインを持つまでに成長しました。これらは生命維持/延命に関わるクラス3医療機器です。ニュージャージー州サマセットに本社を構える同社は、北米と南米に生産拠点を展開しています。
10年前、Terumo Americasは最初の製造実行システム (MES) であるCamstar Medical Device Suiteを、マサチューセッツ州アシュランドにある心臓血管部門に導入しました。その目的は品質および製造プロセスの合理化と、製品リリース・プロセスの効率化でした。生産性の大幅な向上と、NCRや苦情の40~60%削減を達成し、同社はメリーランド州エルクトンの設備にも導入を広げました。
2018年には、ビジネス・ロジスティクス・レイヤーと製造オペレーション管理 (MOM) レイヤーも対象にした、大規模なデジタル・トランスフォーメーションを開始しました。エンタープライズ・リソース・プランニング (ERP) システムとしてSAP S/4HANAを選択していた同社の経営陣は、MOMの戦略的パートナーとしてシーメンスを選び、シーメンスのCamstarソリューションの進化版、Opcenter Executionを導入しました。以上が同社のデジタル・ファクトリーの主要なエンタープライズ・システムです。
Terumo Americasのバイス・プレジデント兼最高情報責任者(CIO)を務めるKalyan Balsubramanian氏は、「当社は未来のデジタル・ファクトリー構築を目指しています。この取り組みは技術がテーマではなく、業務方法の変革を重視しました。」と語ります。
Terumo AmericasはTerumoで最も成長している地域です。Terumo Americasの経営陣は、単に新しいアプリケーションを導入するのではなく、製造のあり方を未来のスマート・ファクトリーに変革したいという明確な意図を持っていました。その目標は、ビジネス・ロジスティクス・レイヤー (ERP) と製造オペレーション管理 (MOM) レイヤーを統合し、自動化機能およびセンサーと接続して、最終的にインダストリー4.0の枠組みを構築することです。
それと同時に、製品の生産規模だけでなく、品質プロセスの規模も拡大する必要がありました。特に米国食品医薬品庁 (FDA) の要求事項の遵守は、途方もなく複雑な作業です。材料バッチのリリースごとのレビューに必要な書類の山は、高さ約13cmにも達していました。このレビュー・プロセスは何日もかかり、リリース遅延の原因になっていました。
同社はさらに、ほとんどの製品不適合が、製品ではなく申請書類の不備に起因するものだと気づきました。製品に問題はないにもかかわらず、書類にデータ入力ミスなどの人的エラーが発生していたのです。Terumoは品質および生産のプロセスを合理化し、効率を高めると同時に、不適合件数を削減しようと考えました。
Terumo Americasの経営陣は、将来への道筋をつけるために多大なリソースを投資しました。ERPスタンダードとしてSAP S/4HANAを選択し、MOMソリューションにはシーメンスの医療機器向けOpcenter™ Executionを採用しました。Opcenterは、ソフトウェア、ハードウェア、およびサービスのSiemens Xceleratorビジネスプラットフォームの一部です。
Balsubramanian氏は、こうも述べています。「社員、ソフトウェア、そしてパートナーがクラス最高でなければならないと認識していました。成功の秘訣は社内でナレッジベースを作成することです。当社が選んだのは、その結果に到達するために協力してくれるパートナーです。」
シーメンスには、Terumo Americasの経営陣が認める多くの利点がありました。医療機器業界での経験と、FDAとの関係性、そしてコンピューター・システム検証に関するベストプラクティスの知識です。シーメンスはまた、SAPシステムとの統合の実績があり、Terumo BCT/Cardioで製造実行システム (MES) の導入を成功させていました。さらに、経営および実務のレベルで戦略的パートナーシップと密接な関係性を築いていました。
Terumoはプエルトリコの設備にOpcenterを導入し、SAPソリューションと同日に本番稼働させました。同社はeDHRの生成をMESの究極目標だと考えていましたが、これを達成しました。最大の拠点であるメリーランド州エルクトンでも、このシステムが同時に稼働開始しました。
エルクトン事業所の規模を考慮し、段階的なアプローチをとり、バリュー・ストリームによってシーメンスのOpcenterを導入しました。Opcenterを社内の完全自動化倉庫アプリケーションとも統合しました。Terumo AmericasのグローバルITアプリケーションおよびインフラ担当バイス・プレジデント、Rick Larrieu氏は次のように述べています。「両方の導入はきわめてうまくいきました。シーメンスの専門知識に助けられ、ロードマップと導入計画を作成しました。この経験から多くを学びましたので、将来的な導入への対応や、自動化装置との統合に役立てていきます。」
Larrieu氏はこう述べます。「eDHRへの移行が最も重要でした。以前は、材料バッチのリリースごとに約13cmもの分厚い書類をレビューする必要があり、それに丸一日以上を費やしていました。Opcenter導入以降は30分以内にバッチをリリースできます。」
Opcenterが実現するペーパーレスな製造環境は、生産性を飛躍的に改善するだけでなく、品質プロセスも合理化しました。Terumoは以前の製品不適合は、書類作成やデータ入力のミスが原因だったと気づきました。MESによってあらゆるデータ入力箇所が制御されているため、不適合を大幅に削減できました。
デジタライゼーションは社内の文化にも良い影響をもたらしました。Balsubramanian氏は、次のように語ります。「これは技術についての取り組みというよりは人やプロセスに関する取り組みなのです。MESはほかのエンタープライズ・システムの導入と異なり、監督者と作業員のワークフローに組み込まれます。システム設計の最初から彼らに参加してもらい、効率的で、社内に受け入れられるシステムにする必要がありました。
工場内を歩くと、クリーンルーム内のデータ入力に、予期していなかった課題が見つかりました。作業員が防護服を着ているなど、製造現場の物理条件に対応する必要があるとわかりました。シーメンスのチームがこうした環境への対応を支援してくださいました。」シーメンスのチームはTerumoのチームとともに、マテリアル・ハンドリング・システムとの統合に関する問題も解決しました。
監督者と作業員が毎日作業するやり方を考慮したソリューションが設計、構築されました。大量の情報を入力するので、生産性に影響することがないように、直感的で効率的なソリューションが求められます。すぐに利用可能な機能と、わずかな設定操作によって、作業員だけでなくシフトの監督者にとっても快適なソリューションが誕生しました。Opcenterの柔軟性と使いやすさは、この分野で非常に大きな利点だと受け止められました。
Terumo Americasはインダストリー4.0の枠組みを工場に導入しています。このロードマップには、4段階の変革が含まれています。ビジネス・ロジスティクス・レイヤーでは、アメリカ地域のすべての事業所がSAPのインスタンスを1つ使用する計画です。MOMレイヤーでは、アメリカ地域の全工場でOpcenterを単一プラットフォームとして標準化します。自動化レイヤーでは、ビジネス・ロジスティクス・レイヤーとMOMレイヤーを、装置やセンサーを含めた生産管理レイヤーに統合する計画です。最終的に、物理的な工場を完全にデジタル領域で表現したデジタルツインのビジョンを実現します。
Balsubramanian氏は、「Terumo Americasの全事業所でスマート・ファクトリーを実現する、シーメンスのOpcenterプラットフォームを戦略的に選択しました。次は、生産管理と生産エンジニアリングのシステムです。シーメンスと戦略的関係を結べたことに感謝しています。今後とも支援を期待しています。」と話しました。
Siemens Xceleratorのポートフォリオは、ライフサイエンス企業が製品、生産、および出荷後の性能のデジタルツインを作成することを可能にします。オープンで柔軟性の高いエコシステムという手法によって、SAPなどのエンタープライズ・システムと接続し、デジタル製造インフラが完成します。その結果、複数の工場や、拠点、オペレーション、部署が1つの密接なデジタル・スレッドでつながり、品質と業務効率が向上します。このデジタル・トランスフォーメーションは、企業のイノベーション効率化、規制準拠、および急速な成長を助けます。