Plant Simulationを使用して、自己注射装置の製造ロジスティクスの自動プロセスを最適化したSHL Medical
SHL Medicalは、自動注射器やペン型注射器などの高度な薬物送達デバイスと大容量・高粘性製剤向けの革新的な特殊送達システムの設計、開発、製造を手掛ける世界有数のソリューション・プロバイダーです。
Plant Simulationは、自動化への移行、戦略的意思決定のガイド、正しい投資判断において強力なツールであることが実証されました。
世界的にみると、成人の3人に1人が肥満、心血管疾患、糖尿病など、複数の慢性疾患を抱えています。こうした方々は、継続的な医療とサポートを必要とします。スイスのツークに拠点を置くSHL Medicalは、自己注射器のパイオニアであり、薬物送達システム領域のグローバルリーダーでもあります。同社は、自動注射器、ペン型注射器、大容量・高粘性製剤向けの特殊な注射システムを提供しています。これらの注射器は患者自身が安全かつ効果的に投薬することを目的としています。SHL Medicalの自己注射器を使用することで、たとえ病気を患っていても生活の質を大幅に向上させたり、ある程度の自立を維持したりすることが可能です。しかも、適切に管理された自主投薬は、医療システム全体の負担軽減にもつながります。
SHL Medicalは、競争の激しい市場を生き抜くグローバル企業として、高品質の医療製品の設計、開発、製造に取り組んできました。医薬品市場の需要は増加の一途を辿っており、生産能力の有効活用が求められています。さらに、コンビネーション製品用デバイスの製造には厳しい規制が適用され、そのためのコストも負担しなければなりません。
SHL Medicalで生産プロセスの最適化を担当するオペレーション・エンジニアリング部門は、こうした状況に対応するため、Tecnomatix®ポートフォリオのPlant Simulationを使用して、実生産ラインの生産性に影響を与えることなく、最適化シミュレーションを実施しています。シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのPlant Simulationは、ソフトウェア、ハードウェア、およびサービスのSiemens Xceleratorビジネス・プラットフォームの一部です。
SHL Medicalでは、シニア・ファクトリー・シミュレーション・エンジニアのLuigi Fumagalli氏とシニア・プロセス・エンジニアのYi-Chi Lu氏がAS/RS (自動倉庫) のイントラロジスティクスを手動にすべきか、自動にすべきか、どちらがより効果的かを判断する責任を担っていました。この答えを求めてPlant Simulationによる解析を実行しました。
Fumagalli氏は言います。「手動プロセスから自動化への移行は、自動注射器製造のオペレーションに大きな変更をもたらします。Plant Simulationでシミュレーションと解析を実施し、生産効率や在庫管理のどの部分を改善できるか、全体的なプロセスのどの部分を統合できるか、検討しました。この段階の目標は、比較解析によって実用的な洞察を得ること、自動化へのスムーズな移行を保証することでした。この取り組みは、すべての戦略分野で製造パフォーマンスを継続的に向上させるという当社の大きな目標と方向性を同じくしています。特に重視したことは、現行のアプローチを最適化することで、材料の輸送、保管、制御の観点からイントラロジスティクスの運用プロセスを管理できないかということでした。ターミナル物流のオペレーションを手作業に依存していては限界があります。特に大量でサイクルタイムが短い場合はなおさらです。たとえば、部品をピックアップまたは保管するときの予約プロセスは、在庫レベルとリアルタイムの材料不足検出に直接影響します。」
これらの限界を克服すべく、自動化が医療技術業界の生産性をいかに向上させるか、在庫管理がいかに改善されるのかを実証するためにPlant Simulationを使用しました。目指したのは、さまざまな自動注射器の生産エリアをシームレスに接続し、緊密に統合されたプロセスを立ち上げることでした。
自動化にあたっての3つの主な課題は、データ品質、機器メーカーの関与、必要な試運転の回数でした。
Fumagalli氏は次のように述べています。「新しい機器の設計は、既存の工場から提供されるデータセット頼みになることが多く、機械のスループットなどのパラメーターが変わると正確性が損なわれます。自動装置メーカーの協力を得るためには、自動化システムの運用要件を正確に理解し、それを満たさなければなりません。正しく理解していなければ、すぐに効率性に影響してしまいます。また、本番製造ラインの試運転を最小限にとどめることも重要です。生産ラインの中断は時間とコストがかかり、投資収益率を低下させるからです。
「Plant Simulationでさまざまな生産パラメーターをシミュレーションすることで、これらの重要なポイントに対処できました。シミュレーションを通じて、生産施設を再設計するうえで必要な多くのデータを得られました。オペレーション要件を正確に自動装置メーカーに伝えることができれば、誤解もなくなり、本番製造ラインでの試運転も最小限で済みます。」
SHL MedicalがPlant Simulationで使用するシミュレーション・モデルは、生産施設の詳細なデータと仕様、施設と生産環境の正確なレイアウト、生産内および生産周辺の運用プロセス、および部材フローの保管戦略という4つの柱に基づいています。
Lu氏は言います。「データモデルに対する私たちの期待は、倉庫のスペースと人員数を削減しながら、運用効率を高め、イントラロジスティクスを改善することでした。シミュレーション・モデルが現実に即したものであればそれだけ比較解析結果の信頼性が高くなり、情報に基づいた意思決定の根拠にしやすくなります。」
SHL Medicalは、すべてのパラメーターを入力した後、生産エリアAとBの間の相互作用を考慮して、手動生産のケースと自動生産のケースの両方をシミュレーションして比較しました。手動生産はボックスとパレットに多数のバッファエリアが必要であり、材料とオペレーターの行き来が多く、広いスペースを占有していました。
SHL Medicalは、Plant Simulationの自動化モデルを使って生産エリアAの機械を部材フローの自動化システムに接続しました。この結果、この部分のオペレーターが不要になりました。一方、生産エリアBを自動化システムに接続したところ、材料を他のエリアに搬送する前の最終工程では依然として、手動によるサポートが必要でした。しかし、搬送経路が大幅に短縮され、多くのバッファが不要になったため、大幅な省スペース化を実現しました。
Plant Simulationの解析結果は、SHL Medicalにいくつもの良い影響をもたらしました。たとえば、自動装置メーカーの既存の生産プロセスから抽出した正確なデータを使ってシミュレーション・モデルを作成することで、現在の自動化システム要件を満たす方法をカスタマイズできます。または、自動化システムの実装前に、既存の生産データを使用して、オペレーションをシミュレーションできます。これにより、自動化の実現可能性、期待される効果、安定性の評価に向けた初期段階のデータが得られ、確固とした判断材料が得られました。Plant Simulationから提供される高精度のデータを使用して、SHL Medicalは医薬品製造システムと自動化システムの統合に必要な調整を行い、全体的な製造効率と有効性を向上させています。
Lu氏とFumagalli氏はPlant Simulationの解析結果に満足しています。Fumagalli氏は言います。「私たちは、自動倉庫 (ASRS) とイントラロジスティクスを統合させた自動ソリューションに切り替えた場合のメリットを正確な数字として経営陣に示すことができました。Plant Simulationは、自動化への移行、戦略的意思決定のガイド、正しい投資判断において強力なツールであることが実証されました。」
Lu氏はこう述べています。「その結果は自ずと明らかです。Plant Simulationにより、必要な人員を60% 削減し、在庫を15~20%削減し、オペレーション効率を25%向上させ、イントラロジスティクスを25~30%向上させることができました。」
Fumagalli氏はこう付け加えました。「最適化された自動ワークフローにより、マテリアル・ハンドリングの合理化、遅延の削減、生産性の向上につながりました。さらに、AS/RSシステムの限られたスペースを最大限に有効活用し、容量を最大化できました。競争の激しい医療技術業界に身を置く当社にとって、Plant Simulationは、戦略的な製造に関する意思決定に欠かせません。」
SHL Medicalは、Plant Simulationによる詳細なシミュレーションによって、情報に基づいた意思決定を可能にし、自動化がイントラロジスティクスと在庫管理の改善に有効であることを実証しました。シミュレーション・モデルの実装が成功したことは、高度なツールが生産の最適化に果たす役割を明確にするとともに、効果的なシミュレーションは医療機器製造セクターの効率化に役立つことを如実に示しています。
競争の激しい医療技術業界に身を置く当社にとって、Plant Simulationは、戦略的な製造に関する意思決定に欠かせません。