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ユーザー事例

最高性能のF1マシンを開発するスクーデリア・アルファタウリ

NX、Simcenter、Fibersimを活用して、F1ドライバーにとって理想的なシャーシとシートを開発

スクーデリア・アルファタウリ

スクーデリア・アルファタウリ (旧トロロッソ) は、セバスチャン・ベッテル氏やマックス・フェルスタッペン氏などのドライバーが、世界選手権で成功するよう支援するために2006年に設立され、パートナーであり親チームであるレッドブル・レーシングをサポートしています。今日、このイタリア・チームはF1のイノベーターであり、コンストラクターであり、真剣なコンテンダーであります。

https://scuderia.alphatauri.com/en/
本社:
ファエンツァ, Italy
製品:
NX, Fibersim, Simcenter Products
業種:
自動車 / 輸送機器

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CAD部品から生産ラインにいたるまで、すべてを計算してくれる同じ1つのソフトウェア・スイートを使用することで、最終的にサーキット上で優れたパフォーマンスを発揮する高品質のパーツが仕上がります。
ラファエル・ボスケッティ氏, ITおよびイノベーション責任者
スクーデリア・アルファタウリ

スクーデリア・アルファタウリの新たな出発

2022年2月23日、バルセロナでプレシーズン・テストが始まり、新しいF1 (フォーミュラ・ワン) マシンが全世界に披露されました。これに続いて、2022年3月初旬にはバーレーンでプレシーズン・テストが行われ、ドライバーたちは2022年3月21日のレースシーズン開幕に向けて、新しいF1マシンの運転調整に入りました。

プレシーズン・テスト中とレース開幕後の数日間で、スクーデリア・アルファタウリの若手ドライバー、ピエール・ガスリー氏と角田裕毅氏は、スクーデリア・アルファタウリのエンジニアとともに新しいマシンのパフォーマンスを確かめ、不具合を修正しました。

2022年3月にバーレーンで行われたプレシーズン・テスト中、ピエール・ガスリー氏はサーキット脇でこのように話していました。「このマシンはコースに出るたびに新たな発見があるので、毎回のセッションを大切にし、最初のレースまでにできる限り多くのことを体得しておく必要があります。感覚はとても素晴らしいです。この新しいマシンを運転し、コース上でどんな感じか確かめられるのを楽しみにしていましたから。」

スクーデリア・アルファタウリの新たな出発

サーキットでの一体感に不可欠な重要なパーツ

F1レースでは、ドライバーとマシン (車) が一体となります。サーキットでのこの一体感は、通常は注目されることのない車のパーツ、つまりドライバーの座席 (シート) から生まれます。

「シャーシは、安全性と性能の観点で、車両のなかでも特に高度なパーツです。シャーシの設計は、すべての情報が揃う前から取り掛かる必要があります。シーメンスと提携する前は、優れたシャーシを製造するのに3か月かかっていましたが、シーメンスのソフトウェアを使い始めると、1か月に短縮することができました。その結果、時間を大幅に節約できて、多くのメリットが生まれました。」スクーデリア・アルファタウリの情報技術 (IT) およびイノベーションの責任者であるラファエル・ボスケッティ氏はこのように述べています。

シャーシだけでなく、シートもドライバーの安全と全体的なパフォーマンスを左右する重要なパーツです。シート全体のデザインは、安全性やクラッシュ・テストに関するF1の規則によって厳しく規制されています。何か問題が起きたら、ドライバーは迅速かつ安全に車から脱出できなければなりません。また、安全担当マーシャルおよび医療チームは、衝突で負傷したドライバーを効率よく車から降ろせることが重要です。ボスケッティ氏は、F1マシンのシートには安全性以外にも重要な役割があることを指摘します。

「シートはマシンの性能を発揮するのに欠かせない重要なパーツです。ドライバーは、振動や加速、操作感のすべてをシートを通じて感じ取ります。サーキットに出たら、ドライバーのニーズをもとにマシンのセッティングを調整し、改良します。F1では、通常2月か3月に何度かテストが行われます。このとき、シーメンスが提供するソフトウェアとプラットフォームが、シートの開発・製作に不可欠でした。」とボスケッティ氏は言います。

ワンサイズですべて対応とはいかない

F1マシンのシートはどれも同じではありません。複合設計エンジニアに言わせると、課題の半分はシートというより、ドライバーをいかにマシンにフィットさせるかなのです。

「F1マシンは言わばテーラード・スーツのようなものです。ヘルメットの位置や背中の位置に注意しながら、できるだけ姿勢を低く保つ必要があります。」スクーデリア・アルファタウリのシニア複合設計エンジニアであるフランチェスコ・ダリオ・ピシエロ氏は説明します。

これらの重要な性能要件が満たされていることを確認するために、ピシエロ氏と彼の同僚は独自のシート設計プロセスを開発しました。まず、少し大きめのシートを設計してから、特殊な樹脂を適量加熱し、ドライバーを理想的な位置にした状態で体の物理的な型を取りました。その樹脂型をベースに、NX™ソフトウェアを使って完全なスキャン像を作成し、シートを設計しました。NX、Fibersim™ポートフォリオ、およびSimcenter™は、ソフトウェア、ハードウェア、サービスを統合したビジネス・プラットフォームであるSiemens Xceleratorに含まれています。

「簡単そうに見えるかもしれませんが、シーメンスの製品のおかげでスマートなプロセスになったのです。」とピシエロ氏は付け加えます。

ワンサイズですべて対応とはいかない

F1で成功するためにデジタライゼーションを活用

2022年モデルで設計とシャーシを全面的に変更したため、全体的な視認性から、ドライバーをいかにシャーシのデザインにフィットさせるかまで、CAD (コンピューター支援設計) で細部にわたってシミュレーションする必要がありました。

ヘルメットや安全規制、新しいシャーシと車両の設計を考慮しながら、ドライバーを座席に押し込み、ペダルに足が届くようにし、視界を確保できることは、まさにエンジニアリングの偉業です。今日のF1で成功するには、デジタライゼーションしかないことを同チームは理解しています。シーメンスのデジタライゼーション・ツールを使用することで、設計、エンジニアリング、製造の各サイクルで生じる手間のかかる作業をほぼ軽減できました。

「NXは、デジタライゼーションへの取り組みを後押ししてくれました。例えば、ドライバーのカメラを使って正確なハンドルさばきや視界を再現することができます。また、ドライバーの寸法に応じて、デジタル・マネキンを拡大縮小することもできます。」とピシエロ氏は説明します。

F1で成功するためにデジタライゼーションを活用

時間との戦い

複合設計エンジニアがドライバーのシートを個別調整している間 (このプロセスは個々のドライバーのニーズに応じてシーズン中に数回発生)、スクーデリア・アルファタウリのエンジニアリング・チームのほかのメンバーは、レース当日に合わせてドライバーがパフォーマンスを発揮できるように、新しいマシンの設計を最適化します。

厳格な納期のほかに、F1エンジニアを悩ませている共通の課題が重量です。F1の各エンジニアリング・チームは、ドライバーを含む車両の最低重量795kgを達成するのに苦しみました。特に、新しい安全規制やグラウンド・エフェクトへの対策が求められるなかでは容易ではありません。最終的に、シーズン開幕直前に最低重量を798kgに増やすという妥協案で合意されました。

「もちろん、容易なわけはありません。まったく新しいレギュレーションですから。F1マシンは複雑なので、重量要件を満たしながら、すべてを設計することは至難の業です。ご覧のとおり、ほとんどのチームが重量オーバーです。そのうえコストも考慮しなければならないのです。軽量化するには費用がかかります。私たちのチームはコストキャップ (予算上限) を考慮しながら、なんとか妥協点を見出すことができました。」と説明するのは、スクーデリア・アルファタウリのチーム代表であるフランツ・トスト氏です。

通常のF1レースで時速300kmを超える速度で走り続けると、ブレーキングやコーナリング、また長い直線コースでの加速など、ドライバーには常に最大4Gや5Gの横Gが加わります。

通常のF1レースで時速300kmを超える速度で走り続けると、ブレーキングやコーナリング、また長い直線コースでの加速など、ドライバーには常に最大4Gや5Gの横Gが加わります。

1つのプラットフォームが成功の秘訣

トスト氏が説明したように、設計パラメーター間のバランスをいかに取るかが、エンジニアリング・チームにとっての課題です。同じ1つのデジタル・プラットフォームとソフトウェア・スイートを使用し、車両の実際の挙動をチーム全体で検証できれば、レースに向けた正しい判断を下せるようになります。

スクーデリア・アルファタウリのシャーシ・グループ・リーダー兼構造エンジニアであるジュゼッペ・スティシア氏は次のように説明します。「私たちの仕事は、パーツの強度と剛性を評価することです。ドライバーが座るシートは、加速度荷重を支えるのに十分な強度と、ドライバーやシャーシ、車両のその他の部分との間に生まれる相互作用に十分耐え得る剛性を備えている必要があります。シーメンスのSimcenterを使うことで、有限要素モデルを生成し、荷重モデル条件を生成することができます。」Simcenterは、構造物の標準剛度をカラーストリップで明確に示します。各色で、パーツの応力や変位の状態が分かります。

スティシア氏は、「構造エンジニアはこの情報をもとに、構造物の実際の挙動を把握します。私たちの目標は、パーツの強度と剛性をできるだけ高めることですが、その前に重量を最適化しなければなりません。Simcenterによって、パーツの計算が早くなり、プロジェクトにかかわるすべての人が同じプラットフォームを使えるようになりました。」と話します。

1つのプラットフォームが成功の秘訣

時は金なり、開発時間を浪費してはいけない

研究開発 (R&D) デジタル・レイアップ・グループのエンジニアであるアンドレア・リッツォ氏も、この同じプラットフォームを同僚とともに使用しています。そしてFibersimのツールを使って、実際のパーツを仕上げます。

リッツォ氏は次のように話します。「Fibersimを使ってFEA (有限要素解析) の結果と実際の積層品を完全に連携させています。この材料を使って、プライを必要な形状にカットして金型に積層していきます。余分な材料や不要な材料を金型に使用すると、追加コストになります。時間とお金を節約するために、できるだけ少ない材料で積層するように努めています。」

スクーデリア・アルファタウリのエンジニアリング・チームも、Fibersimを使って、カスタマイズしたパーツの一貫性を保っています。F1マシンは市販車と異なり、手作りのカーボン・ファイバー製パーツを多く使っています。このようなパーツは、ラミネート内部に複合プライを丁寧に積層して作られています。各パーツにはそれぞれ独自の構造特性があります。これは競合チームの手前、明かされることはないと思いますが、アルファタウリのチームはスペアパーツや交換パーツは必要に応じて作成しているのでしょう。

データが非常に重要です。チームが解析するあらゆる情報が、新しいマシンの性能挙動を把握するうえで役立ちます。

データが非常に重要です。チームが解析するあらゆる情報が、新しいマシンの性能挙動を把握するうえで役立ちます。

「カーボン製パーツはどれも積層品なので、最初のパーツと最後のパーツが同じであることを確認する必要があります。Fibersimを使用しているのはそのためです。Fibersimの包括的なシミュレーション機能により、製造プロセスの時間を短縮できます。そして、すべての積層でプライが同じになるように準備することができます。」

「Fibersimを使えば、コンポーネント内部で何が起きているのかがわかります。プライの品質基準を把握し、プロセス中にプライの1層1層をチェックできます。NXからSimcenter、Fibersimまで、すべて同じプラットフォーム上で使用しているため、問題が発生する前に防ぐことができます。そしてさらに重要なことは、時間を節約できることです。」とリッツォ氏は語ります。

「一般的な乗用車でもそうですが、特にF1では、同じパーツを同じ品質で同時に作らなければならないという難しさがあります。CAD部品から生産ラインにいたるまで、すべてを計算してくれる同じ1つのソフトウェア・スイートを使用することで、最終的にサーキット上で優れたパフォーマンスを発揮する高品質のパーツが仕上がります。これこそ目標としていたことです。」こう語るのはボスケッティ氏です。

NXやSimcenter、Fibersimなど、Siemens Xceleratorツールのおかげで、複合プライを何層も重ねて優れた性能を発揮する超軽量ラミネートを作成し、各ドライバーに合わせてシートをカスタマイズして、スクーデリア・アルファタウリの新しいマシンの安全性と設計仕様を満たすことができました。 これにより、ピエール・ガスリー氏と角田裕毅氏は、好成績を出すために欠かせないF1マシンとの理想的なつながりを得ることができます。イタリアのファエンツァを拠点とするチームによる素晴らしいエンジニアリング作業と、Siemens Xceleratorポートフォリオのおかげで、スクーデリア・アルファタウリのチームは次のF1シーズンに向けて準備を万全に整えています。

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NXは、デジタライゼーションへの取り組みを後押ししてくれました。例えば、ドライバーのカメラを使って正確なハンドルさばきや視界を再現することができます。また、ドライバーの寸法に応じて、デジタル・マネキンを拡大縮小することもできます。
フランチェスコ・ダリオ・ピシエロ氏, シニア複合設計エンジニア
スクーデリア・アルファタウリ