シーメンスのSimcenter 3Dで風力タービンの高精度シミュレーションを実現したSANY Heavy Energy
2008年に設立されたSANY Heavy Energy (旧SANY Electric) は2013年に現在の社名に変更されました。SANY Heavy Energyは現在、風力タービン・メーカー上位8社に入り、中国から輸出される設備容量ではトップ3に入ります。昌平 (北京) に本社を置き、研究開発 (R&D) センターを中国、米国、ドイツに展開し、2,000名以上の専門技術者を雇用しています。風力タービンの製造・サービス企業である同社は、中核となる風力タービン技術と、完全な「フル産業チェーン」の生産・品質管理システムを保有しています。
風力発電は、世界で最も急成長している再生可能エネルギー源の1つです。しかし、過去10年間の急速な発展の後、風力発電業界は解決が困難なエンジニアリング上の課題に直面しており、その経済性が疑問視されています。業界で認められた新しいエネルギー効率指標であるLCOE (levelized cost of electricity: 均等化発電原価) は、さまざまな発電方法を統一された算出方法で比較しようとするものです。LCOEは、発電資産のライフサイクル全体にわたる構築と運用のコストをライフサイクル期間中の電力出力で割った値です。このコストを削減するため、風力タービン・メーカーには継続的な革新に努め、より大型で軽量、かつインテリジェントな風力タービンを開発することが求められます。目指しているのは、生産、運用、保守のコストを削減し、1基あたりの発電量を増やすことです。
風力発電業界にとってもう一つの課題が、風力発電所です。過去20年間、従来の高速風力発電所システムが使用されてきましたが、限界に達しつつあります。そのため、最小風速が毎秒約5〜5.5メートルの低速風力発電所システムを開発することが急務となっています。
風力発電業界は新たに低速の時代に突入しました。新製品の開発ではこれらの要因を考慮する必要性があるため、多くのエンジニアリング上の課題が生まれています。
風力タービンは柔軟性のある大型の構造物で、ランダムな過渡空力励振を受けます。中核コンポーネントには、ブレード、タワー、ダイレクト・ドライブ・モーター、ギアボックスが含まれます。コンポーネントは複雑な動的荷重が原因で故障することがあり、この故障率がライフサイクルコストに最も大きく影響します。、風力タービンの設計プロセスにおいて、信頼性は常に重要な要件です。
従来、風力タービンのコンポーネントは別々に開発され、相互の信頼性に悪影響を及ぼしてきました。一つには、設計プロセスで風荷重解析が構造設計から切り離されているため、エンジニアは多くの仮説に頼ることを余儀なくされ、その仮説が不正確な場合もあります。また、制御プログラム設計プロセスも構造設計プロセスから切り離されています。制御プログラムの設計者は、特定の荷重の下での構造応答について仮定を立てなければなりませんが、技術的なリソース不足により、構造設計者が真の構造応答を速やかに得られないこともよくあります。
低速風力発電市場ではブレードがはるかに長く、タワー構造体が高さ120〜140メートルにも達するため、タービンが動的荷重の影響を受けやすく、構造応答の迅速な解明はさらに困難です。しかしながら、風力タービンの動的応答を正確に予測することは、製品開発に不可欠です。機械全体の高精度デジタル・シミュレーション・モデル作成は、動的応答を予測する際の基本的なタスクです。
大型風力タービンは構造的に非常に複雑で、多くの部品と複雑な表面があります。従来の有限要素シミュレーションでは、モデリングや計算効率の面で迅速な開発への要求を満たすことができません。したがって、機械全体の動的性能シミュレーションに使用できるように、モデルをパラメータ化して簡略化する必要があります。
個々の風力タービンを設計するという課題に加えて、メーカーは複数のタービンを備えた風力発電所の全体的な制御も考慮しなければなりません。LCOE (均等化発電原価) をできるだけ抑えるには、風力と風向をリアルタイムで監視するセンサー技術を使用した後、最適化アルゴリズムによって発電所内のすべてのタービンを調整し、最適な発電効率と安全な運用を実現します。「デジタルツイン」(物理的な製品の実際の特性とパフォーマンスを正確に複製してシミュレーションするインテリジェントな仮想モデル) の使用により、物理システムの最適なシミュレーションとスマートな制御が可能です。
2016年以来、SANY Heavy Energyの製品開発チームは、動的荷重を予測するための新しい方法と製品プラットフォームのデジタル設計手法を開発し、既存製品の機械的性能と制御戦略を最適化することで運用と保守をサポートしてきました。
彼らは成熟した効率的なデジタル・シミュレーション・プロセス一式を確立し、外部風荷重の計算と風を受けた部品の構造強度解析にソフトウェアを使用しています。このプロセスの重要なステップは、機械全体の動的応答の予測です。この目的のために、SANY Heavy Energyはいくつかの利用可能な技術ソリューションを比較し、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenter™ソリューションを選びました。このソリューションには、デジタル・シミュレーション・モデリング用のSimcenter Samcef™ Wind Turbinesソフトウェアや、機械全体の動的応答を予測するためのSimcenter Samcefソルバーが含まれています。
Simcenter Samcef Wind Turbinesは、風力タービン・システムの開発に特化したソリューションです。SANY Heavy Energyはこのソフトウェアを使用して、開発サイクル全体 (概念設計、詳細設計、試作と修正モデルの開発、認証、トラブルシューティング、その他のタスクを含む) をサポートする高精度シミュレーション・モデルを作成し、従来は別々だった設計プロセス間を調整しています。
機械全体の高精度モデルは重要な価値を提供します。まず、インザループ・シミュレーションをサポートすることで、シミュレーション品質を向上させます。SANY Heavy Energyは実際の風力発電所の荷重をインポートし、動的応答を迅速かつ正確に計算して、風力タービンの構造と制御システムの最適化を実行できます。さらに、制御システムのコマンドからモデルを駆動し、関連するパラメータを調整して制御応答を迅速に取得することもできます。
風力タービンのシミュレーションは非線形性であるため、より複雑です。風力タービンのように柔軟性のある大型の機械は、大きな回転や変形によりシミュレーションが不正確になる可能性がありますが、SANY Heavy Energyは、Simcenter Samcefソルバーの非線形マルチボディ・シミュレーション機能を使用して、より正確な動的荷重を計算しています。
Simcenter Samcef Wind Turbinesの重要な機能に、タービンのパラメトリック・モデリングがあります。パラメータ化されたモデルにより、複雑で時間のかかるモデルの再構築を行うことなく、さまざまな設計案を簡単に比較および検証したり、既存の設計案を変更したりできます。その結果、開発サイクルが短縮され、コストが削減されます。このソフトウェアには風力タービン認証を合理化するツールも含まれており、SANY Heavy Energyは規制当局が要求する標準的な計算とレポート作成を迅速に実行できます。
SANY Heavy Energyは、風力タービンの運用・保守プロセスにもインテリジェント制御を実装しています。気象条件が悪化したり、遠隔監視システムからリアルタイムでメッセージが送信されたりすると、SANY Heavy Energyの運用・保守チームが状況を迅速に予測し、最適な制御戦略または保守計画を策定できるため、風力発電所全体の効率を向上させながら、風力タービンの故障を回避し、発電時間を延長することができます。このインテリジェントな運用と保守により、LCOEが大幅に削減されます。
SANY Heavy EnergyはSimcenterソリューションの使用で、よい成果を達成しました。最先端のシミュレーションを通じて得られた知見により、同社は風力タービンと発電所の効率を50%改善し、予測されるLCOEを10%以上削減しました。
SANY Heavy EnergyでCAEシミュレーション・マネージャーを務めるWu Shengfei氏は、次のように述べています。「多数の大手企業がひしめき、急速に変化している風力発電業界において、SANY Heavy Energyが成功するための鍵は、デジタルツインなどのスマート技術を十分に活用して開発効率と製品の信頼性を向上させることによって、LCOEを低下させ、超低風速製品戦略を後押しすることです。このプロセスで重要な価値を発揮するのが、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenter 3Dです。」