Simcenter AmesimとSimcenter Reduced Order Modelingを使用して開発時間を25%短縮させたPlastic Omnium
Plastic Omniumは、将来のクリーンなモビリティにおいて水素が大きな役割を果たすと確信しています。この技術をリードしているPlastic Omniumは、2015年以降、水素バリュー・チェーン全体で専門知識を強化するために2億ユーロを投資してきました。ヨーロッパと中国に研究開発センターを有しています。
https://www.plasticomnium.com/en/
Plastic Omniumは1946年から自動車業界のイノベーションを推進してきました。当初は、プラスチックを使用した車両部品の改良によって総重量を減らすことから始め、その後75年間にわたり世界が直面する課題に対応しながら進化を続けてきました。
最も新しい動きは新エネルギー事業部の設立です。同事業部は、水素モビリティを推進し、自動車メーカーの二酸化炭素排出削減を目指しています。
Plastic Omniumのシステム・エンジニアであるJurgen Dedeurwaerder氏は次のように説明します。「この新技術の成功の鍵となるのは、水素の貯蓄と低温の燃料電池です。」
「Plastic Omniumは、燃料電池システムの開発と生産にすでに取り組んでいる企業を買収しましたが、この企業が開発する燃料電池は主にデモ用モデルで使用するものでした。
当社は、実際に自動車産業に応用し、高品質の燃料電池システムを大量生産したいと考えていました。
そのため、開発プロセスと生産プロセスを改善する必要がありました。」
どの新規事業でも、成功するには費用対効果が鍵となりますが、同社の新エネルギー事業部も例外ではありません。
「シミュレーションはプロセスを改善するだけでなく、コスト削減にも役立つことが分かっていたため、最初から重要視していました。」とDedeurwaerder氏は言います。
そのため同社は、ソフトウェア、ハードウェア、サービスを包括したビジネス・プラットフォーム、Siemens Xceleratorの一部であるSimcenter™ソフトウェアを導入しました。Dedeurwaerder氏はまずSimcenter Amesim™ソフトウェアを使用して、燃料電池システムとそのすべてのコンポーネントの完全なモデルを作成しました。ただし、このモデルは、アーキテクチャや生産コストの最適化には役立ちましたが、モデルの詳細度が高すぎて、すべてのオプションを比較検討するには長い時間がかかりました。
そこでDedeurwaerder氏は高速化を目指して、Simcenter Reduced Order Modelingソフトウェアを活用することにしました。Dedeurwaerder氏は次のように話します。「最初に作成したモデルを、アクチュエーターの制御条件や環境条件を変えて、さまざまな変数を使って学習させました。これらの学習セットを用いて、Simcenter Reduced Order Modelingで低次元化モデルを作成しました。その結果、はるかに高速なプラントモデルが実現し、最初のモデルよりもシミュレーション時間が約100倍速くなりました。」
このプラントモデルをその後ブラック・ボックス・モデルに変換することで、制御エンジニアやソフトウェア・エンジニアがアルゴリズムの開発とテストに使用できます。同様に、さらに後の工程でハードウェア・イン・ザ・ループ (HiL) テストの開発にも使用できます。顧客にこれを提供することで、高速かつ正確なモデルとしてフルビークル・モデルに組み込み、各社独自の環境でテストすることができます。
「当社はお客様に代わって社内で車両全体のシミュレーションも実施しています。Simcenter Amesimを使用して、さまざまなパワートレイン構成やバッテリーの寸法、タンクの寸法、燃料電池の電力レベルを比較検討し、お客様と相談しながら最適な設計を見つけます。」とDedeurwaerder氏。
Dedeurwaerder氏は、Simcenter AmesimとSimcenter Reduced Order Modelingを使用する主なメリットは、実機を使ったシステム全体のテストを減らせることだと言います。「必ずしも全体的にテストの量が減っているわけではありませんが、個々のコンポーネントのテストに重点を置くようになりました。したがって、信頼性の高いコンポーネントを使ってモデルを作成できます。モデルの精度が上がったことで、これまではテストを実施して行っていたシステム全体の解析の多くを、シミュレーションで実施できるようになりました。」
「シミュレーションはまた、燃料システム内で起きている現象をより正確に把握するうえでも有効です。例えば、突然の予期せぬ温度低下が起きることがあり、物理的なテストでは解明できないことがあります。しかし、シミュレーションを使用すると、内部には蒸気だけでなく、液体の水が存在することが分かり、液体の水が気化する際に温度を下げていることに気づけるのです。」
Dedeurwaerder氏は、物理的なテストと比較してシミュレーションの柔軟性の重要性にも言及しています。「シミュレーションを使用すると、さまざまな環境下のパフォーマンスをはるかに容易に評価することができます。物理的なテストでは、極端な高度や温度でテストベンチを準備するのは困難ですが、シミュレーションを使えばどのような条件も選択できます。新しいコンポーネントを作成したときに、まずシミュレーションで検証できるようになったため、実際にシステム全体を統合する時点で、一発で正しく組み立てられるようになりした。これまではやり直しに多大な時間とコストがかっていましたが、その必要がなくなりました。」
低次元化モデルの有用性は、各コンポーネントの物理特性の詳細がすべて明らかになっていない場合にも発揮されることが分かっています。「物理特性がすべて明らかになっていない場合や、サプライヤーがIP (知的財産) 保護の観点から物理特性の開示を拒む場合があります。そのようなケースでは、コンポーネントにあらゆる方向から負荷を加え、その結果を変数データとして記録します。このデータを使って低次元化モデルを学習させ、それをシステムモデルに統合することができます。」とDedeurwaerder氏は説明します。
Simcenter Reduced Order Modelingを使用することで、Plastic Omnium自体も、自社のIPを保護しながら顧客やサプライヤーとモデルを共有することができます。Dedeurwaerder氏は次のように話します。「セル電圧や正味電力は共有できても、モデルの詳細をすべて明かすわけにはいきません。パートナーとの関係がより緊密になるにつれて、徐々に開示する範囲を広げることができますが、コントロールはあくまでもこちらで行います。そして、システムモデルの内部すべてや、当社が使用する重要なアルゴリズムは決して見られることはありません。」
Dedeurwaerder氏は、Simcenter Reduced Order Modelingの長所をパートナーに向けて熱く語っています。「物理的なモデルしか使わないというサプライヤーもいますが、車両全体のモデルに統合したときに、シミュレーション実行に時間がかかりすぎます。そこで推奨するのが低次元化モデルの使用です。複雑な境界効果を探索・把握することができ、物理モデルを使用したときと同様の成果をはるかに短い時間で得られるのです。すべての境界効果を考慮に入れることで、最終的により優れた完成品をより迅速に実現することができます。」
Simcenter AmesimとSimcenter Reduced Order Modelingを採用する前は、Plastic Omniumのエンジニアはスプレッドシートを使用してさまざまな計算をしていました。「正確な結果を得るためにスプレッドシートを賢く利用していました。とはいえ、温度や圧力によって変化する気体や液体の特性など、すべての物理特性を考慮することはできません。スプレッドシートのデータは動的に変化することがなく柔軟ではありません。コンポーネントに変更を加えたら、計算をやり直さなければなりません。」とDedeurwaerder氏は説明します。
Simcenter AmesimとSimcenter Reduced Order Modelingを導入したエンジニアは単純なモデルから始め、知識が深まるにつれて複雑なモデルに挑戦しました。「Simcenter製品は、非常に使いやすいのが利点です。ただし、Simcenter Reduced Order Modelingで使用する学習データを生成するには、それなりに知識や努力が必要です。単純なモデルから始めることで、当社のプロセスに無理なく統合することができただけでなく、理解が深まるにつれて活用範囲を広げられました。」とDedeurwaerder氏。
「また、他のシステムとの間でデータを簡単にエクスポートおよびインポートもできます。例えば現在、プラントモデルを作成しており、そこにいくつか低次元化モデルとその周囲に回路も加えています。さまざまな条件を設定してこのプラントモデルのテストを実施した後、Simulinkインターフェースを使用して全体のモデルに統合していますが、すべてうまく機能しています。」
Dedeurwaerder氏は、シミュレーションを利用できなければ、同社が直面するすべてのエンジニアリング課題に対処することはほぼ不可能だったと話します。「シミュレーションがなければ、はるかに高額なテストに頼らざるを得なかったでしょう。しかも、開発時間とコストをさらに増大させるわけにはいかないため、ミスは絶対に許されません。」
シミュレーションを利用できたことで、より少ないリソースでより迅速に結果を出せるようになりました。Dedeurwaerder氏は次のように話します。「Simcenter Reduced Order Modelingにより、シミュレーション・モデルの高速化に成功しました。燃料電池の詳細なプラントモデルを実際よりもはるかに高速に、しかもシステム全体のモデルと同等の精度でシミュレーションできるようになりました。これにより、モデル・イン・ザ・ループ (MiL) コントローラーの開発やテストといった作業が加速し、全体的な開発サイクルが約25%短縮しました。また、IP (知的財産) を保護しながら、信頼性とコスト効率に優れた方法でモデルを社内やお客様のチームに配布できるため、各チームは配布されたモデルを使って製品やプロセスの品質を向上させることができます。結果として、より高品質の製品をエンドユーザーに届けられるようになります。」
自動車業界がゼロエミッション車に向けて急速に舵を切るなか、Plastic Omniumもその動きに合わせ、最新の技術を活用しながらこうした車両を開発する必要性を感じています。これまでは、水素モビリティは自動車やトラックに用いられてきましたが、同社はこれを大型船や船舶の分野にまで広げ、造船市場への参入を目指しています。
また、同社にはほかに、自動運転やIoT (モノのインターネット) アプリケーションを担当するソフトウェア部門があります。「同部門では、燃料電池システムが時間の経過とともに劣化する様子をリアルタイムで観測し、より正確に理解することができます。ここで観測した結果を開発にフィードバックすることで、開発チームは、例えば、カソードでの電気化学反応によって湿気が生成される仕組みを改善することができます。」とDedeurwaerder氏は言います。
「テクノロジーが進化し続けるなか、競争力を維持するためにはデジタルツインが不可欠です。そこで非常に重要になるのがSimcenter AmesimとSimcenter Reduced Order Modelingです。Simcenter AmesimとSimcenter Reduced Order Modelingを活用することで、製品の内部で起きていることを理解し、リアルタイムのデータから知見を得て、今後の製品改善に活かすことができます。今後、さらに多くのサプライヤーがデジタルツイン技術を使用するようになることが期待され、チーム全体でより良い製品を開発できるようになるでしょう。」