シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのソリューションによって、Picanolは早期に製品最適化を実現...
Picanolは、ハイテク織機の開発、製造、および販売を行う企業です。Picanolの織機は、半世紀以上にわたる技術的なノウハウと経験の蓄積から生み出されています。今日では、世界各地に存在する約2.600の織布工場で、約13万台に上るPicanol製の織機が使用されています。
生産機械の業界ではスピードが肝心です。製造する品がリサイクル紙であってもハイテク生地であっても、常に最高の生産速度が求められますが、コストをいくらかけてもいいわけではありません。21世紀の製造企業は、新たな環境問題だけでなく、現代の歴史の中で最も厳しい経済危機にも対応する必要があります。何を製造するにしても、省エネルギーが欠かせません。
ESTOMAD (Energy Software Tools for Sustainable Machine Design) は2009年に設立されたコンソーシアムであり、LMS International (現シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア) や、Flanders Mechatronics Technology Centre、JOBS、EC Engineering、Institute of Industrial Technologies and Automation、FIDIA、ルーヴェン・カトリック大学 (ベルギー) などの業界企業と研究機関が参加しています。ヨーロッパを拠点としたこの研究プロジェクトは、エネルギー効率を重要なパラメーターとして考慮する機械開発プロセスの創出を目指しています。
PicanolはESTOMADプロジェクトに業界企業として参画しています。エアジェットおよびレピアのテクノロジーを使ったハイテク織機の開発と製造を手掛けるPicanolは、75年間にわたって織機業界のパイオニアであり、世界をリードする企業に成長しました。ベルギーのイーペルを本拠地とするPicanol Groupは、アジア、ヨーロッパ、および米国に工場があります。今日では、世界各地に存在する約2.600の織布工場で、約13万台に上るPicanol製の織機が使用されています。
厳しい市場の規制と激しい競争にさらされている生産機械業界は、機械設計プロセスの改善を迫られています。メーカー各社は、健康や安全性に関する厳しい要件に適合した、高性能の機械を製造する必要があります。革新のペースは加速の一途をたどっています。このような点を踏まえ、革新的な製品をより短期間で市場に出すためには、開発初期段階のシミュレーションが不可欠です。また最近では、生産機械業界の顧客が求めるものも変わりつつあります。
Picanolの研究開発 (R&D) マネージャーを務めるKristof Roelstraete氏は、次のように述べています。「販売価格や性能がすべてではなくなりました。より多くのお客様が総所有コストの観点から、最も条件のよい機械を選ぶ傾向にあります。初期投資額だけでなく、機械のライフサイクル全体の保守や運用のコストも考慮されます。
エネルギー価格が上昇する中、消費エネルギーの多寡は運用経費に直結します。当社の製品はテキスタイルメーカーにとって、最も安い総所有コストで、最高品質の生地を提供するものでなくてはなりません。私たちはエネルギー効率に集中して取り組み、大きな競争優位性を獲得しました。」
ESTOMADプロジェクトの枠組みの中で、Picanolは自社の織機の性能を損なうことなく、エネルギー効率を向上させました。PicanolのR&Dエンジニアはカトリック大学と緊密に連携し、織機の主な駆動系統内部でエネルギーがどのように流れるかをモデリングしました。このモデル作成は複雑な作業でした。すべての内部のエネルギー伝達を正確に予測するとともに、局部的な漏電箇所を特定する必要があるからです。各コンポーネントのエネルギー挙動を詳細に表現する一方で、機械全体のマルチフィジックス環境とも統合する必要がありました。ESTOMADコンソーシアムは、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenter Amesim™ソフトウェアをメカトロニクスシステムのシミュレーションプラットフォームとして選び、生産・工作機械のエネルギー管理状況を調査しました。Simcenter Amesimであれば、挿入システムから、ギアボックスの上のモーター、そしてメインシャフトまで、織機のさまざまなサブシステムを流れるすべてのエネルギーをエンジニアが一貫して解析できます。
エネルギーフローのスケーラブルな最適化を可能にするため、Simcenter Amesimのグラフィカル・ユーザー・インターフェース (GUI) および機械コンポーネントのライブラリが、環境にやさしい機械の設計に対応してアップデートされました。Picanolのエンジニアはエネルギー効率を重要な性能要件の1つとして、最初の段階から機械の設計を最適化します。
開発の次の段階では、Simcenter AmesimをシーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenter 3Dソフトウェアと組み合わせて、協調シミュレーションが実行されます。それによって、詳細な動的モデルや運動モデルの作成が必要な織機の複雑な3Dメカニズムに対しても、シミュレーションと最適化を実行し、Simcenter Amesimの新機能を活用することによって、環境にやさしい設計が完成しました。
Simcenter Amesimのカスタマイズツールであるサブモデル編集ツールでは、必要な電力やエネルギーのあらゆる変数をツール内で統合することができ、個々のコンポーネントを素早く簡単に作成し、エネルギー消費の目標値と照らし合わせることができます。ESTOMADの研究の枠組みと、特にルーヴェン・カトリック大学との連携によって、PicanolのエンジニアはSimcenter AmesimをシームレスにMATLAB®環境に接続し、パラメーターを特定しました。Picanol-ESTOMADプロジェクトでは、織機を対象に実行したSimcenterのモデルと測定値の正確な相関関係が明らかになりました。この大きな研究成果は、将来の機械開発プロセス改善に役立つでしょう。
シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアの幅広いポートフォリオによって、Picanol製織機の開発初期段階での最適化が可能になり、エネルギー消費を最小限に抑えながら、パフォーマンス、耐久性、騒音と振動といった、すべての重要なパラメーターのバランスをとることができました。
Roelstraete氏は、次のように語りました。「シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアの製品とサポートに大変感謝しています。そのおかげで、市場で最もエネルギー効率が高い織機を設計できました。Simcenter Amesimのようなプラットフォームには、膨大なコンポーネントのライブラリがあり、接続することによって、完全なマルチフィジックスシステムを記述できます。これは、高度なモデルベースのシステム・エンジニアリングには不可欠な要素です。これをMATLABやPythonなどのプログラミング言語で行うのは、現実的ではありません。」
おそらく近い将来、利益を期待し、今後の環境課題に対応するためにも、省エネやエネルギー管理に焦点を当てたプロジェクトがほかにも立ち上がるでしょう。Picanolは、市場で最もエコロジカルな織機を設計することにより、トップに立てる位置につけています。Roelstraete氏は、今後数年間でモデルベースのシステム・エンジニアリングが生産機械業界の標準的な設計手法になると予測しています。