新しい水素バルブ開発の反復作業を削減

OMB Saleri S.p.A.(OMB) は1980年に、住宅用ガス、水道用途向けの小型金属部品とバルブの開発を始めました。ガス安全および高圧用途の分野で培った経験を基に、OMBは自動車、航空宇宙モジュール、防衛プロジェクトなど、他の市場セグメントにも生産範囲を拡大しています。ガス安全の分野では、ガスの貯蔵やマテリアル・ハンドリング用の船舶を手がけています。

OMBは30年以上にわたり、圧縮天然ガス (CNG)、次に水素 (H2) コンポーネントの分野で、世界で最も先進的かつ革新的な相手先ブランド製造会社 (OEM) の1つとしての地位を確立してきました。

H2は、さまざまな業界の用途に応用できる可能性を秘めており、世界の注目を集めています。使用時に二酸化炭素 (CO2) を排出しません。つまりH2は、大気汚染をほとんど発生させません。このため、炭素排出量の削減が急務であり、達成が困難な産業プロセスや経済部門では、H2が脱炭素化ののソリューションとなります。H2は、欧州がクリーン・エネルギーへと移行するうえで重要な優先事項となっています。

これに関連して、H2を使用する自動車用燃料電池の市場は、石油やガスなどの従来型燃料と比較して、急増しています。OMBのような企業は、このニーズに応え、信頼性の高いコンポーネントを提供するために、新しい技術を開発してきました。

OMBは、水素充填ステーションから高圧タンク、圧力調整器、燃料電池までの、H2 の流路を処理できる完全な製品ラインナップを提供しています。OMBのバルブは、軽自動車やトラックで一般的に使用されています。OMBの目的は、H2の貯蔵に使用する、700バール以上に耐えられる信頼性の高いバルブを提供することです。

「OMB低圧チーム」は、プロジェクト・マネージャー兼材料エンジニアのFatima Patricia Amores氏が率いています。OMBの製品エンジニアであるMarco Bosio氏は、燃料電池の水素、低圧側で使用されるバルブの開発に取り組んできました。OMBは、燃料電池のアノード側に関する知識を持ち、カソード側の構築でも顧客を支援しています。このため、燃料電池スタック・パックのカソード側のバルブも提供できます。

OMBは困難なプロジェクトに立ち向かうことをいとわず、バルブをゼロから開発することにも慣れています。OMBの製品の大半は、自動車市場のギャップを埋める革新的なソリューションです。このため、「設計変更によってバルブの機能がどのように向上するのか」や、「設計は顧客の期待を満たしているのか」を確認するための、信頼性の高いソフトウェアが必要です。

シミュレーションで、比例弁の動的応答、アノード・ドレイン・バルブの流量校正、最悪の許容条件でのタンク・バルブの動作予測などの課題に対応する必要があります。

OMBは最初のシミュレーションにSimcenter™ Amesim™ソフトウェアを使用しました。Simcenter Amesimは、ソフトウェア、ハードウェア、サービスのビジネス・プラットフォームであるSiemens Xceleratorに含まれています。圧力制御バルブに焦点を当て、シールパッドの機械的変形、流量、磁力をシミュレーションしました。シミュレーションは、特定の設計がバルブにどのような影響を及ぼすのかをより深く理解するために、静止状態で行いました。この最初の調査に基づき、Simcenter Amesimモデルを作成してバルブをシミュレーションし、圧力変動に対応するのに必要な時間を評価しました。

異なるコイル制御戦略が圧力制御にどのように影響するのか、出口圧力をどの程度適切に調整できるのかを調査しました。

テストの計画を検討して合意し、Simcenter Amesimが予測した出力とバルブからの出力を相関させました。「今まさに設計が検証され、バルブが生産されています。」とBosio氏は言います。

複雑なシステムのコンポーネントを設計する場合、テストや3Dシミュレーションに頼ることが可能とは限りません。このため、システムを迅速かつダイナミックに進化させる必要がある場合は、システム・シミュレーションが不可欠です。

このケースでは、Simcenter Amesimを使用することで、設計の反復作業を減らし、時間のかかるテストを回避することができました。

「Simcenter Amesimを使用することで、試作段階の反復作業の時間を短縮することができます。つまり平均で、プロジェクトの期間を6週間短縮できます。」とBosio氏は言います。

「今では、新製品の開発時に、少なくとも1回のシミュレーションを行って予測し、新しい設計の妥当性を検証しています。安全用途関連のバルブについては、複数の故障モードもシミュレーションします。」Bosio氏によると、OMBがシミュレーション・ツールを使用して成功した理由は、主に3つあります。

まずSimcenter Amesimは、大手企業で使用されているソフトウェアです。加えて、グラフィカル・ユーザー・インターフェース (UI) は直感的で、要素の詳細な説明を含んでいます。

Amores氏は次のように説明しています。「これは大手企業で普及しているソフトウェアなので、効果的にコラボレーションしてネットワークを構築し、モジュールをより大きなシステムへと統合することができます。またSimcenter Amesimは、直感的なグラフィックと短い学習曲線が特徴です。OMBのテクニカル・ディレクター、Renato Santulli氏は次のように述べています。「シミュレーションした各要素には、理論や学術文献への参照とともに、詳細な説明がついています。さらに、各要素の基盤となる数式はC言語で明確にレイアウトされており、シミュレーションの内容を正確に理解したいと思う誰もが満足できます。」

シミュレーションがなければ、もっと破壊的で時間のかかるテスト・シーケンスが必要だったでしょう。故障があれば、設計はレビューが必要になり、プロジェクトのマイルストーンに影響を及ぼします。Bosio氏は次のように語っています。「Simcenter Amesimは、新製品の開発をすぐにサポートしてくれました。シミュレーションを行う前は、バルブを完成させるのに数年かかっていました。」

また、貴重なパートナーであるBSimの支援を通じ、Simcenter Amesimを効率的に使用するためのトレーニングを受け、新しいライブラリを調査して特定の用途に最適なソリューションを見つけることができました。

「Simcenter Amesimは、継続的に開発されている信頼性の高いソフトウェアであり、そのサポートチームは非常に優秀です。新製品の開発では、正確な回答をすばやく得ることが非常に重要なので、OMBはシーメンスとBSimのコラボレーションを高く評価しています。」Bosio氏はこのように結論付けています。

OMBとBSimは現在、水 (H2O)、H2、窒素 (N2) の混合物を凝縮して再循環させるアノード水分離器をシミュレーションする方法を調査しています。このケースでH2 に対応する際にも、Simcenter Amesimが優れたパートナーになると期待しています。

今日の経済では、高い技術的価値を持つ革新的な製品が利益を生み出します。このため、OMBは世界中の企業と協力して、H2 市場の強力なバリュー・チェーンを構築し、自動車の品質基準を満たしたいと考えています。

シミュレーションを使えば、顧客の要求に応え、市場の期待に近い製品を設計することができます。さらに、シミュレーションを使って予測できれば、開発プロセスの構想にも良い影響があります。長いテストを待たずにさまざまな設計を比較できるため、企業のノウハウが増えます。

「イノベーションの最前線を行く」というOMBのモットーは、技術イノベーションを積極的に取り込むOMBの姿勢を示しています。OMBは自らを「アイデアのアクセル」と位置付け、年配のコラボレーターの経験と、若いエンジニアがもたらすイノベーションを融合させています。長年の実務経験を通じて得た知識は、エンジニアリングの課題に取り組む人々によって新しい視点で最適化されています。

将来的にOMBは、「ミレニアル世代」のエンジニアの本質的な技術コンテンツに頼りたいと考えています。製品を継続的に改善し、これまで以上に革新的なものにすることが、その目的です。