Northrop Grumman、Siemens Xceleratorを使用して、高度な宇宙エンジニアリング・プロセスにデジタル・トランスフォーメーションをもたらす
Northrop Grummanは、航空宇宙・防衛技術における世界有数の大手企業です。同社が提供する先駆的なソリューションの数々が世界をつなぎ、保護し、有人宇宙探査における新たな可能性や領域を切り拓いています。Northrop Grummanの95,000人の社員は、日々、その可能性や領域の定義に取り組んでいます。
https://www.northropgrumman.com/
NASAの居住・ロジスティクス拠点 (HALO) と月周回有人拠点 (Gateway) は、持続的な月面探査の拠点であり、月やその先の目的地への長期探査に向けた一歩となります。
HALOとGatewayのメガプロジェクトには、NASA、Northrop Grumman、SpaceX、宇宙産業エコシステムの数百もの民間企業のほか、欧州宇宙機関 (ESA)、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)、カナダ宇宙庁などの国際機関が関与しています。
HALOの設計は、Northrop Grummanのシグナス宇宙船がベースとなっています。シグナス宇宙船は、多目的宇宙船で、国際宇宙ステーションに物資、機器を運び、科学実験を行うためのミッションに約20回関わってきました。
Northrop Grummanは、HALOのデジタル設計とエンジニアリングを通して、宇宙における問題の解決やミッション/宇宙システムの設計を担う企業として高い評価を得ています。Northrop Grummanは、Simcenter™ソフトウェアおよび、宇宙船の性能エンジニアリング向けSiemens Xceleratorビジネス・プラットフォームのソフトウェア、ハードウェア、サービスを活用しています。このプラットフォームを通して、開発の迅速化、複雑性の管理、パートナーやサプライヤー間での大量データの共有、プロジェクト効率の向上を実現してきました。
シミュレーション/テスト担当リーダーであるTom Stoumbos博士は、Northrop Grummanでデジタル・トランスフォーメーションを推進する先駆者の1人です。Stoumbos博士と100人を超える専門家で構成されるチームは、低軌道衛星から深宇宙ミッションにおよぶ、長期プロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトは、GatewayミッションとArtemisミッションで構成されています。
図1. Thaicom 8商用衛星
デジタル・トランスフォーメーション、アジャイル・シミュレーション、仮想テスト、産学連携を長年支持してきたStoumbos博士とチームは、シミュレーションとデータ解析の活用が宇宙探査を成功に導くことを認識しています。
「宇宙業界に携わり始めた頃から、シミュレーション/テストツールを使用して、ハードウェア設計の世界を仮想的に探索してきました。シーメンスは、すべてのツールを統合して、現在のSiemens Xceleratorビジネス・プラットフォームという、素晴らしい製品を構築してくれました。デジタル領域で適切な設計解析を行い、設計するハードウェアと密接に連携させ、ミッション要件を適切に解析し管理できることは、非常に貴重なことです」とStoumbos博士は言います。
図2. 軌道上炭素観測衛星-2 (OCO-2)
Stoumbos博士とチームは、宇宙船の設計に取り組んでいますが、宇宙船は劣悪な環境にさらされるため、設計には厳しい要件が課せられます。これには、ハンドリング、打ち上げ、分離時の極端な熱環境や機械的環境、動的な振動音響環境のほか、ミッションの運用、解析、設計の最適化、テストなどが含まれます。
これらすべてを考慮する場合、ミッション設計や月探査プロジェクトに関するさまざまな課題が浮上してきます。
「シーメンスは、製品とともに成長するという点で、Northrop Grummanと同じビジョンを掲げています。当社のチームは、強力で使いやすいSimcenterのプリポスト・プロセッサーとソルバーを使用して、応力、動力学、運動学、衝撃の利用、剛体と柔軟体など、あらゆる種類のシミュレーションを行っています。これらの解析はすべて、HEEDSで効率化することができます。HEEDS独自の画期的な調査戦略により、製品を改良し、開発コストを大幅に削減するための新たな設計コンセプトを見出すことができます。
SimcenterツールをSiemens Xceleratorビジネス・プラットフォームに相互接続して統合したことは、当社にとって画期的なことでした」とStoumbos博士は言います。
チームはまた、Teamcenter® SimulationソフトウェアなどのSiemens Xceleratorソリューションを活用して、複雑なプロセス全体でデジタル・スレッドを正確に実行し続けています。さらに、Simcenter Testlab™ソフトウェア、Simcenter 3D、Simcenter Nastran、Simcenter Amesim™ソフトウェア、Simcenter Multimech™プラットフォーム、実験計画法に最適なHEEDS™ソフトウェアなど、その他の高度なエンジニアリング・ツールも活用しています。これらはすべてSiemens Xceleratorに付属しています。
図3. Northrop Grummanのチームは、HEEDSを使用してさまざまな解析を関連づける
チームは共通のスレッドを使用してSimcenterで解析を行い、宇宙船のシステムやサブシステム・モデルの更新にかかる時間を最小限に抑えています。
チームでは毎週、数テラバイトの解析データとテストデータを生成しています。シーメンスの専門家と緊密に連携して、複雑なシミュレーション・プロセス、複数の要件、システムレベルのレポート作成に適合するように、Teamcenter Simulationを調整しました。
「シーメンスと協力して、すべての主要なツールを統合し、分析的で決定論的な一連のプロセスから、最適な実験計画法ベースのネットワークへと移行しています。多くの解析を並行して行うことも可能です。当社のアナリストは、スクラム・プロジェクト管理フレームワークを使用してアジャイルな環境で業務に取り組んでいます。このフレームワークは、十分な構造と洞察を提供してくれます。これにより、社員とチームは、どの程度最適に連携できているかを確認でき、適切な解析作業を追加して、設計を最適化できます」とStoumbos博士は言います。
さらにStoumbos博士は次のように語ります。「ソルバーを並行して実行し、HEEDSを使用して製品を最適化できます。HEEDSの実験計画法の使用は、解析プロセスの効率を向上させる上で非常に重要です。これにより、解析時間の30~50%を簡単に短縮できます。HEEDSを活用することで、多くのソリューションを1週間で実行できるようになりました。これまでは数週間以上かかっていたのです」
「当社が宇宙ミッションのために製造するすべての製品では、広範なエンドツーエンドのテストを実行して、ミッションが完了するまで対応可能であることを証明する必要があります。宇宙関連のオペレーションと数百万ドル規模のプログラムでは、打ち上げたものを逆戻りさせ修正することはできません。それは現時点では不可能ですが、将来的には可能になるかもしれません。そのため、広範囲に及ぶテストを行っています」とStoumbos博士は言います。
「当社のシミュレーションは、さまざまなシステムレベルやサブシステムレベルのテストに直接関連付けられていることが重要です。Simcenter Testlabを使用して、静的データから動的データ、衝撃データまで、宇宙船のテストデータをすべて結び付けて、デジタルモデルに戻し、モデルの詳細な相関関係を構築しています。
解析情報をテストに送り込み、テストから解析モデルに戻すというループを作ることで、デジタルツインに至る過程で詳細な相関関係を構築できるようになります。これらの相関モデルは、当社の飛行ハードウェアと宇宙システムの包括的なデジタルツインです。この相関モデルにより、環境予測を成功させ、他のミッション案件から得られた正確な結果をもとに、ミッション・データの外挿が可能になります」とStoumbos博士はさらに述べます。
図4. 衛星とその機器の可視化
社内で設計プロセスを加速させるために、チームは複数の専門分野にわたる独自の構造解析・設計最適化 (MSADO) フレームワークを構築し、打ち上げロケットの振動負荷、軌道加熱、音響といった、ミッションの特性と多くの設計上の制約との間でバランスを取っています。深宇宙衛星ミッション用の複雑な宇宙システムを設計する際は、このフレームワークを使用して、さまざまな軌道環境との構造的相互作用を判断します。最近、MSADOフレームワークは、共同宇宙ロジスティクスと軌道上の衛星サービス・ミッションにまで拡張されました。これらは、精巧なロボット・システムや極めて重要なドッキング・システムに関わる複雑なミッションです。
Simcenterツールのオープン性と相互接続性、Teamcenter SimulationやNX™ CADソフトウェアなどのSiemens Xceleratorが提供するデジタル・スレッドにより、各ミッションやプロジェクトでMSADOフレームワークを設定するための時間が大幅に短縮されました。
Stoumbos博士は次のように述べます。「このプロセスには興奮しています。そして、このプロセスが将来的に数多くの衛星システムのオペレーションに役立つことを楽しみにしています。
当社は、将来的に宇宙船設計解析の設計サイクルだけでなく、月や火星のミッションも改善できると確信しています」
図5. Simcenter 3Dを使用して、応力解析を行い複合材料の破壊挙動を研究
衛星や宇宙ステーションの開発に関与するサプライヤー、ベンダー、サブシステムの所有者に関する広範なリストがあります。主要インテグレーターであるNorthrop Grumman Space SystemsとStoumbos博士のチームは、使用しているツールがSiemens Xceleratorのデジタル・スレッドと、互換性があるかどうかを心配する必要はありません。
「Siemens Xceleratorは、開発者に関係なく、CADモデルとCAEモデルを「対話」させることができます。これにより、時間を大幅に短縮できます。通常モデル変換には時間がかかります。また、モデル作成に失敗することもあります」とStoumbos博士は言います。
さらにStoumbos博士は次のように述べます。「衛星の動作自由度は、最大で数百万に達します。顧客やベンダーから送られてくるすべてのサブシステム、デジタルモデル、数理モデルを調整し、最終的にシステム統合を行うことが、当社の役割です。シーメンスの支援により、当社は宇宙船のデジタルツインを使用して、モデルのシームレスな統合や、シミュレーション解析の実行、正確な結果の取得が可能になり、顧客と直接つながることができます」
Northrop Grumman Space Systemsの最終目標は、デジタル・スレッド内にリアルタイムのデジタルツインを構築することです。
「Northrop Grummanとシーメンスは、純粋なデジタル・スレッドという同じ目標を共有しています。デジタル・スレッドにより、システムモデルは物理システムを正確に表現し、ミッション中に宇宙船や衛星が軌道上にある間、リアルタイムでシミュレーションを実行できるます。特定の問題や発見があった場合は、いつでもデジタルツインに戻って、ミッション中に何が起こったかを理解することができます」とStoumbos博士は言います。
図6 衛星の動的挙動解析
HALOの設計は、予備設計審査と重要設計審査を通過しました。これらの審査は、複雑なエンジニアリング・プロジェクトにおける一連のチェックポイントのひとつとされています。
宇宙船の設計は、飛行時のシステム全体の安全性と信頼性、NASAのミッション要件への準拠を確認するために、検証されます。HALOにおいては、現在ハードウェアの開発のほか、より詳細な設計が進められています。このモデルが検証されれば、HALOデジタルツインの基礎となり、次の世代のエンジニアらは、それを土台にして構築していくことになります。
多面的で多世代にわたるチームは、Northrop Grummanのアリゾナ州ギルバート施設で、最終的にHALOを実現することになります。同社の宇宙システムの生産と統合の経験をもとに、宇宙モジュールの打ち上げ準備を行っています。
「10年から20年の間に、当社は通信衛星の設計から、宇宙ミッションのための複雑なロボット・システムの開発、そして未来の宇宙船のためのデジタルツインへの移行へと、歩みを進めてきました。これは、驚くべき速さのイノベーションです。シーメンスは、デジタル化と高度なエンジニアリング・シミュレーションに迅速に移行するというビジョンを掲げ、それを可能にするさまざまなツールを提供しています。当社では、今後もシーメンスをパートナーにして、ともに成長していきたいと考えています」とStoumbos博士は語ります。