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ユーザー事例

Simcenter STAR-CCM+を活用して、特徴的な低ドラッグ車を設計し、2014年Super GTシリーズで優勝

ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのソリューションを使用して、CFD結果と風洞試験の相乗効果を実現

Simcenter STAR-CCM+を活用して、特徴的な低ドラッグ車を設計し、2014年Super GTシリーズで優勝

ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 (NISMO)

横浜市にあるニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 (以下、NISMO) は、日産GT-Rファンの聖地です。NISMOは、SUPER GTをはじめとする最高峰のレーシング・カーの開発拠点です。NISMOは、1984年に日産のワークスチームとして発足し、輝かしい実績を積み重ねてきました。

http://www.nismo.co.jp/en
本社:
横浜, Japan
製品:
Simcenter Products, Simcenter STAR-CCM+
業種:
自動車 / 輸送機器

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「CFD解析の結果から、フロント・フェンダーはドラッグを低減するのに効果的な領域であることがわかりました。レギュレーションの下で、その領域を拡大する唯一の手段は、それを縦に広げることでした。試行したところ、期待通りの結果が得られました。」
山本義隆氏, 開発本部長、空力開発責任者
NISMO GT-R GT

「不可欠なツール」

ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 (以下、NISMO) は、30年にも渡ってレーストラックで優秀な結果を出し続けていますが、今もなおレースカーをさらに速く走らせる方法を模索しています。近年、車両空力を担当するエンジニアは、開発プロセスで数値流体力学 (CFD) のユニークな機能を活用して、エアロパッケージを改善しています。GTカー、NISMO GT-Rの空力開発の責任者である山本義隆氏は、「CFDは、流れという見えないものを可視化する、開発に欠かせないツールです。」と語ります。

SUPER GTシリーズ

国際自動車連盟 (FIA) 公認の国際レースであるSUPER GTには、上位カテゴリーのGT500と下位カテゴリーのGT300と呼ばれる2つの異なるレギュレーションがあります。GT500クラスは主に、日産、トヨタ、本田の3社やその関連企業が開発・製作したワークスマシンで構成されています。GT300クラスは主にアマチュア向けで、参加チームの大半はプライベーターです。

レースでは、この2つの異なるカテゴリーの車両が同一のコースを走行し、その速度差から混走状態となります。抜きつ抜かれつの展開から、非常にエキサイティングなレースとなり、人気を博しています。NISMOチームは、この2つのカテゴリーの車両を開発・製作しています。特に自動車メーカーの威信をかけたGT500クラスでは、GT-Rをベースとした車両の開発を行っています。

2013年に、GTレースのレギュレーションがドイツツーリングカー選手権 (DTM) シリーズに合致するように改定されましたが、NISMOチームは、2014年の日産GT-R NISMO GT500の機械的変更と空力的変更で、このレギュレーションを使用してシミュレーションを実行しました。この開発で、製品ライフサイクル管理 (PLM) のスペシャリストであるシーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenter™ STAR-CCM+™ソフトウェアを使用したのです。

風洞試験とCFDを使い分ける レースカー開発の従来のアプローチでは、スケールモデルを用いた風洞実験を実行し、測定点での圧力測定、スモーク、タフト、PIV (粒子画像流速測定) 法などで可視化します。

しかし、これらの手法で空力流れの領域を完全に可視化することは不可能です。一方で、近年のCFDソフトウェア、ハードウェア、および計算能力の進歩により、エンジニアは詳細なCFDモデルで完全なレース車両をゼロからシミュレーションすることが可能になり、他の手法では得られない、設計の深い知見を取得できるようになりました。Simcenter STAR-CCM+を活用すると、流体の流れ場の複雑な現象を容易に理解でき、実験では得ることが難しい詳細レベルの情報の正確な表示と解析が可能になります。エンジニアは、風洞試験の前に車両を仮想でテストし、さまざまな構成やwhat-ifシナリオを事前に評価することで、最も有望なソリューションだけを試験すれば済みます。このためSimcenter STAR-CCM+は、レースカーの設計・開発で風洞試験を補完するツールとして、広く受け入れられるようになりました。計算リソースの急速な進化を考えると、数年後にはさらにCFD技術が向上し、コンピューターもさらに強力になるため、CFDは物理試験に代わる「デジタル風洞」となる可能性があります。

山本氏は、空力開発におけるSimcenter STAR-CCM+の貢献と、風洞試験と比較したSimcenter STAR-CCM+のアドバンテージを次のように語ります。「例えば、小さなパーツを車両に付けた際に、車両後方にどのような影響を与えるのか、これは風洞試験で見ていてもわかりません。特に、その影響が出ているのはどこか、ダウンフォースを得られたのか否かは、風洞試験だけでは分かりづらい。しかしSimcenter STAR-CCM+を使えば、流れのメカニズムに関する重要な知見が得られます。GTカーも年々複雑になり、細かいデバイスも増えて、経験だけでは対応が難しくなっています。そこで必要になるのがSimcenter STAR-CCM+です。」

CFDからのインスピレーション

レースカーの開発に携わるすべての空力エンジニアには、2つの重要な懸念事項があります。1つは、レースカーのタイヤをトラックに押し付け、コーナーで遠心力によって滑らないようにするためのダウンフォースを生成すること、もう1つは、乱流によって発生し、速度低下を引き起こすドラッグを最小限に抑えることです。より速く走れば走るほど、より多くの低圧 (より高速) の空気がレースカーの下部を流れ、より多くのダウンフォースを発生させることができます。

一方で、速度の増加に伴いドラッグは増大しますが、これは望ましくありません。通常、最小限のドラッグで最大限のダウンフォースを発生させるのが理想的です。しかし、これらの2つの力をバランスさせるのか、あるいは一方に寄せるのか等、どのようなエアロパッケージにするのかは、トラックとコンディションに大きく依存します。厳しいターンのあるトラックでは、ターンをスムーズに旋回するために、より大きなダウンフォース構成の車両が必要です。しかし、富士スピードウェイのような直進路が長く、幅広でバンクのあるターンでは、より小さなダウンフォース構成が要求されます。

さらに速い速度を達成するには、ドラッグの低減が重要になります。NISMOでは2011年に、速度をさらに向上させる低ドラッグ仕様のエアロパッケージを開発し始めました。しかし、ドラッグレベルを維持しながらダウンフォースを増やすためのさまざまな改善は、それ以前から行われていました。低ドラッグ仕様を選択する理由の1つは、2012年の富士スピードウェイ向けに特別に設計されたエアロパッケージを準備することでした。(富士スピードウェイは) 長い直線コースなので、ドラッグの削減によりラップタイムが大幅に短縮できるためでした。

2013年の低ドラッグ仕様は、フロント・フェンダーが切り立った壁のような形状をしており (図1)、非常に個性的なフロントマスクとなりました。山本氏のチームは、Simcenter STAR-CCM+を使用して初期段階にCFDシミュレーションを実行し、ドラッグを低減できる可能性のある領域を見つけ、2012年の設計と比べてフェンダー部分の圧力が低いことを発見しました (図2)。山本氏は次のように説明します。「CFD解析の結果から、フロント・フェンダーはドラッグを低減するのに効果的な領域であることがわかりました。レギュレーションの下で、その領域を拡大する唯一の手段は、それを縦に広げることでした。試行したところ、期待通りの結果が得られました。」

それ以前にNISMOチームは、形状を丸めてドラッグを低減しようとしていましたが、CFDを活用することで、流線型でなくてもドラッグを減らせることがわかりました。彼らは2014年のモデルでこの「メリハリを効かせた空力」アプローチを採用しました。これは、CFDでしか見ることのできない圧力差を上手に活用して性能を上げることを意味します。

「風洞でも計測は可能ですが、可視化が必要であり、車両全体を可視化することはとても難しい。CFDは車両全体を見るための効果的なツールです。」山本氏はCFDによる新しい成果をこのように強調しています。

CFDは、設計全体の連続性についての貴重な知見を提供することで、山本氏のチームをより良い設計へと導いてきましたが、風洞試験の置き換えというよりも、風洞を補助するものとして使用されてきました。山本氏は次のように述べています。「CFDで改善が必要な分野の一つが、前方にある部品のウェイクを受ける部分の評価です。例えばタイヤのウェイクの評価は、まだ難しいと感じています。ウェイクだけでなく、リア・ディフューザーなどの逆圧力勾配のところなどもまだ100%ではありません。そこができれば風洞は要らなくなる時が来ると思います。」

モータースポーツで培った技術を転用

GT500の車両は、技術の粋を結集して開発されます。モータースポーツで得たノウハウを一般車両へ転用することは非常に重要です。NISMOは日産自動車とコラボし、GT-R NISMOやJUKE NISMOなど、NISMOのバッジがついた日産の高性能一般車両を開発しています。

「NISMOと名前がついたスポーツ系の車種では、レースカーのノウハウを採り入れ、開発を行っています。これらの車両は、「高性能」であることを売りにしています。NISMOの名を冠した車両は、NISMOのエンジニアが空力の開発を行っており、実際に私も携わっています。」と山本氏は語ります。

2014年、SUPER GTの車両レギュレーションは、DTMと統一され、大幅に改定されました。このため各パーツで、新しいレギュレーションに合わせた開発が必要となりました。

2014年度は、DTMと統合されたレギュレーションが初めてだったため、さまざまな規定のどこがGTカーにとって有利/不利なのかがわかりませんでしたが、今では、それがわかるようになってきました。例えばエクステリア上側は、ほぼノウハウが一定で、レギュレーションによる違いはありませんでした。」山本氏はこのように語っています。

幻のリアフェンダー・ターニング・ベーン – リアウィングの効率を高めるのが狙い

2012年第2戦、富士のレースにおいて、NISMOは「リアフェンダーのデザインは自由」としたレギュレーションを確認したうえで、リアフェンダーに翼断面を持つパーツを装着しました (図5)。翼断面とはいえ、リアウィングとは上下逆の断面を持ち、ダウンフォースではなくリフトを発生させます。F1ではスタンダードとなっている取り組みで、車両の前後およびセンター付近で局所的にリフトが発生しても、空気の流れを変えることによって結果的にリアの性能が上がり、全体の性能にとってはプラスになります。山本氏によれば、主な目標は、フォーミュラ (F) 1シリーズのような外観を作り出すことでした。

その特徴的な外観に加えて、この取り組みはリアウイングの性能にも大きく貢献しました。図5 (上) に見られるように、CFDの結果は、フェンダー前方のホイール・アーチ・リップで跳ね上げられた気流により、リアフェンダーとトランクリッド上面の剥離が緩和したことを示しています。図5 (下) に示されているように、リアフェンダー・ターニング・ベーンの追加により、流れパターンが変更され 、トランクリッドへの流れの付着が改善されました。これは最終的にドラッグを低減し、リアウィングの効率を改善するのに役立ちました。

ターニング・ベーンの上下逆さまの翼断面形状は、車両の前後およびセンター付近で局所的にリフトを発生させます。このため、ターニング・ベーン自体はダウンフォースを改善しません。しかし、空力チームはターニング・ベーンの追加を承認しました。空気の流れが変わることによりドラッグが低減し、リアフェンダーの全体的な性能が向上するからです。一方、ルール統轄側であるGTアソシエイション (GTA) は、新たに取り付けられたターニング・ベーンに対して違う解釈をしました。レギュレーションではウィングは一枚と規定されていましたが、GTAはリアフェンダー・ターニング・ベーンを2枚目のウィングとみなしました。このため、公開車検で10分程度装着されただけでお蔵入りとなり、幻のアイテムとなりました。

最高レベルでの競い合い

NISMOは2014年にシリーズ・チャンピオンの座を獲得しました。NISMOの空力エンジニアは、Simcenter STAR-CCM+のシミュレーション結果と風洞試験の相乗効果により、最適なドラッグ仕様を達成しました。NISMOのレースカー開発者は、開発プロセスに不可欠なツールとしてSimcenter STAR-CCM+を引き続き使用しています。Simcenter STAR-CCM+は、正確な事前評価、フルスケール・モデルの詳細な分析、可能な限り多くの構成の評価を行う能力を備えているからです。

この記事のインタビューの後、同社はル・マン24時間に参加する計画を発表しました。 レース車両開発でCFDはますます重要になります。NISMOはモーター・スポーツ界の最高レベルで競争するためにSimcenter STAR-CCM+を活用します。

しかしSimcenter STAR-CCM+を使えば、流れのメカニズムに関する重要な知見が得られます。GTカーも年々複雑になり、細かいデバイスも増えて、経験だけでは対応が難しくなっています。そこで必要になるのがSimcenter STAR-CCM+です。」
山本義隆氏, 開発本部長、空力開発責任者
NISMO GT-R GT