航空貨物コストを50%~60%削減可能な航空機の開発にスタートアップ企業が活用したシーメンスのソリューション
Natilusは米国カリフォルニア州のスタートアップであり、ドローン開発を手掛けています。同社の目標は、考え抜かれた設計と空間の賢い利用によって、航空貨物のコストを50%削減することです
米国カリフォルニア州のスタートアップであるNatilusは、リモートで制御するドローンを開発しています。同社の目標は、考え抜かれた設計と空間の賢い利用によって、航空貨物のコストを50%以上削減することです。熱い情熱を持ったエンジニアたちのチームは、小さいながらも拡大しており、次世代貨物機の新たな概念を生み出しています。このチームの製造担当者や設計者は、25もの一般向けや、商用、軍用の航空機プログラムを手掛けてきました。
NatilusのCEO兼創業者であるAleksey Matyushev氏は、次のように述べています。「航空貨物のコストを50%以上削減することによって、新鮮な農産物を店舗に届け、国際的な電子商取引が活発化し、インフラが弱い地域の開発が促進されます。これを実現するには、新しいタイプの機体とユニークな考え方が必要です。
われわれは、航空貨物は高コストだが時間がかからず、船便は手頃であるが時間がかかりすぎるという問題を解決しようとしています。例えば、アジアから米国までの船便は非常に安価であるものの、1か月もかかります。航空貨物の価格はその10倍ですが、2~3日で到着します。当社のソリューションは、その差を埋めて、航空貨物の所要時間の短さを活用しながら、船便のコモディティ化した価格に近づくようにコストを50~60%引き下げます。業界が水素燃料や電動化など環境を意識しているなかで、当社の機体のような重量クラスでは、航空貨物がコモディティ化します。船便はほとんど消滅するでしょう。われわれは、この興味深い未来のことを毎日考えています。」
Natilusはすでに世界中の大手航空会社や顧客から60億ドル超、400機以上の初回注文を獲得しています。Matyushev氏は次のように語っています。「ビジネスの観点から、当社のソリューションがとても歓迎されています。航空貨物の営業利益率は3~4%と小さく、好況でないと利益が出ません。ボーイングやエアバスの機体を当社のソリューションに置き換えれば、利益率が33%にまで上昇する可能性があり、これは利益にとって劇的な変化です。」
Natilusのソリューションは、熟練パイロットの世界的な不足というもう1つの課題にも対応します。航空機の旅客は2035年までに倍増すると予測されており、貨物輸送のパイロットがその不足分を埋めることを期待されています。Natilusのソリューションはリモート操縦機能によって、1人のパイロットが3機を同時に管理できます。Matyushev氏はこう話しています。「コックピットからパイロットをなくすことは不可欠でした。われわれは不足分を埋めることに貢献していきます。」
Natilusは現在、3つの製品を開発中で、機体はすべて炭素繊維複合材です。1つ目は重量約8600kg、翼幅約27mで、2021年後半に生産開始予定です。2つ目はボーイング767に似た大きさの60トンの航空機で、米国国内向けを対象にしていますが、ヨーロッパやアジアでも運航可能です。主要製品はボーイング777と競合する700トンの機体で、翼幅は10%大きく、太平洋横断飛行が可能です。
Natilusの翼胴一体構成は、貨物機としては初めてです。Matyushev氏の説明によると、「貨物の観点からは、とても理にかなっています。機内の容積が50%多いため、1回の収益貨物量が2倍に増えます。従来の設計では、航空機の最大離陸重量に達する前に、スペースがなくなってしまいます。」とのことです。
Natilusは製品開発にあたって、シーメンスのNX™ソフトウェアをコンピューター支援設計に使用しています。NXは、ソフトウェア、ハードウェア、およびサービスのビジネスプラットフォームであるSiemens Xceleratorの一部です。
同社は以前、低価格 (スタートアップが常に考慮すべき点) の汎用CADパッケージで作業していましたが、大型航空機の開発に必要なパワフルなサーフェシング、大規模アセンブリ設計などの機能が不足していました。そのソフトウェアは、生産試作を製作するサプライヤーが必要なレベルまで、設計データを進化させることもできないとわかりました。Matyushev氏は次のように説明しました。「特に翼胴一体設計にはサーフェスに曲面や複雑な細部が多く、複雑なサーフェシングを行うようになりました。ほかのソフトウェアでは問題を克服できなかったのです。」
シーメンスのNX (およびその前身のUnigraphics) は、航空宇宙業界の主力製品として長い歴史を持ち、これが高性能CADソリューションをNatilusが選択する決め手となりました。Matyushev氏は次のように語っています。「3名の共同創業者のうち2名が前職でNXの影響を強く受けていました。ほかのソリューションも検討しましたが、当社にとってNXが素晴らしいツールでした。」
シーメンスのソリューションに決めたほかの要因は、資格を満たしたスタートアップ企業に割引価格が適用されるシーメンスのプログラムでした。このプログラムはスタートアップ特有の課題に対し、起業家がコスト効率の良い高付加価値ソフトウェアを使用して、ビジネスの可能性を最大限に伸ばせるようにするものです。
Natilusはシーメンスのソリューションの提供と導入に関し、エンジニアリング企業でシーメンスのSmart Expert ソリューション・パートナーであるSaratech Inc.と提携しています。Saratechは多くのエンジニアを抱え、1000社以上の顧客を持ち、Natilusのような顧客がより良い製品開発体験を通して、すぐれた製品を開発できるようにするための知識と、技術的専門性、およびリソースを備えています。
Natilusはまた、Teamcenter™ソフトウェアが提供するツールによって、急速に拡大している開発チームのコラボレーションとデータ管理を行おうと取り組んでいます。開発の次の段階として、複合材のエンジニアリングにFibersim™ポートフォリオのソフトウェアを使用する計画です。Matyushev氏は次のように話しました。「航空機は詳細設計の段階です。骨組みはありますが、炭素繊維による体幹部分がありません。航空機の製造準備に向けて、ソリッドモデルからプライ・スケジュールのあるフォームコアに移行するにあたり、Fibersimを日々のワークフローに組み込むことになります。機体構造はリードタイムが最も長いものの1つであり、次の6か月間が山場です。」
Natilusのチームは現在、NASAが開発したデジタル・シミュレーション・ツールであるNastranを応力解析に、FUN3Dを数値流体力学 (CFD) に使用しています。同社はシーメンスのSimcenter™ポートフォリオの応力解析向け有限要素解析ソリューションも評価しているところです。
現在、Natilusは開発チームの人数を非常に短期間で2倍に増員しようとしています。同社はダイナミクスのエンジニア、複合材のエキスパート、エレクトロニクスおよび推進のエンジニアを募集しています。Matyushev氏は、「『正しい資質を持つ人』を探しています。航空機に熱い情熱を注ぎ、この業界での経験があり、手を使う作業が好きで、複数の領域で働ける人を求めています。とてもペースの速い環境に参加することになります。」と話しました。チームの規模が大きくなっても、シーメンスのソリューションを使用して迅速に開発プロジェクトを開始し、コラボレーションを進めます。
Matyushev氏はこのように語っています。「われわれはシーメンスのソリューションを使用して、とても嬉しく思っています。ボーイングやエアバスなどの大規模航空企業と同じ機能とテクノロジーを、スタートアップにとってありがたいコストで利用できるからです。大企業と同じレベルのエンジニアリング環境で作業できるということは、実質的に対等な立場になることです。シーメンスは1つの環境内で動作する中心的ツールとテクノロジーをほぼすべて提供していますので、当社が製品を開発し、顧客にソリューションを提供する助けになるでしょう。