ユーザー事例

Simcenter STAR-CCM+を使用してスポットライトのデザインを改良し、再設計をなくした照明メーカー

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのソリューションで製品開発期間を35%短縮した丸茂電機

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのソリューションで製品開発期間を35%短縮した丸茂電機

丸茂電機

1919年に創業した丸茂電機株式会社は、舞台・スタジオの照明器具や調光装置の専業メーカーです。本社を東京 (日本) に構えています。

http://www.marumo.co.jp/

本社:
東京, Japan
製品:
Simcenter 3D Solutions, Simcenter STAR-CCM+
業種:
エレクトロニクス, 半導体デバイス

共有

CFDを導入することで、やり直しがなくなりました。Simcenter STAR-CCM+を導入する前は、実機の製作とテストを繰り返していましたが、導入後は効率よく開発できるようになりました。」
若林良介氏, 器具開発部、CFDエンジニア, 丸茂電機株式会社

舞台照明の専業メーカーである丸茂電機株式会社 (以下、丸茂電機) は、舞台・テレビスタジオの照明機器メーカーとして、照明器具や調光システムを開発・製造・設置しています。国内で高いシェアを誇り、歌舞伎座や新国立劇場などの主要な劇場や講堂のほか、ホテルや学校などの舞台照明を手がけます。

丸茂電機は1919年に東京で創業し、2019年に創業100周年を迎えました。当初は高圧配電盤、グリッド形抵抗器、サーチライトなどを製造する会社でしたが、1923年の関東大震災で一帯が甚大な被害を受けたことをきっかけに、舞台照明の専業メーカーへと転身しました。日本の伝統芸能の1つである歌舞伎を演じる劇場、歌舞伎座は、1921年の漏電による火災で焼失し、再建中でしたが、関東大震災で再び被災しました。

歌舞伎座を再建中当時、舞台照明用の調光装置はまだ国内では製造されておらず、同様の製品が海外ではシーメンスとゼネラル・エレクトリック (GE) で製造されているだけでした。しかし、日本製を求める声は根強く、丸茂電機の創業者である丸茂富次郎氏は、照明装置の設計からシステム開発まですべてを自社で行うことにしました。丸茂電機は国産の舞台照明のパイオニアとなり、同社の製品モデル名は今や舞台照明の一般名称として使用されています。

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舞台照明とは何か

照明は、木々の間から差し込む太陽の光や、波、雲、月などの映像を舞台上に投影するために使用します。また、舞台上の限られた空間に照明を当てることで、立体的に見せる効果をもたらすだけでなく、時刻の変化などを演出するためにも使用します。さらに照明は、観客が演者をどう見るかを変える効果ももたらします。舞台照明装置は大きく分けて3種類あります。

  • スポットライト: 特定の場所にスポットを当てて強調する
  • フラッドライト: 舞台全体を均一に照らす
  • 特殊効果照明: 照明装置を使用して、風、波、炎などの映像を生成する

劇場の舞台上には、このような照明が約1,000個も吊るされています。舞台上にはフラット照明が設置され、舞台の両袖にはさまざまなスタンドにスポットライトが設置され、調光器でこれらの照明に電気を供給します。すべての照明は調光コンソールを使って1か所で制御します。

スポットライトには、単眼光学系と結像光学系の2種類あります。単眼光学系は1つの光源と1枚のレンズで構成されています。一方、結像光学系は光源から発せられた光が前方のレンズに当たり、そのレンズからビームが投影される仕組みです。ここで取り上げるプロジェクトでは、単眼光学系スポットライトを設計・開発します。

シミュレーションを必要とした理由

舞台照明では不規則な揺らぎは許されないため、蛍光灯や放電ランプなどの光源は使用できません。そのため、ハロゲン電球が光源として使われるようになりました。白熱電球などの通常の照明と異なり、ハロゲン電球は500~10,000ワットの電力を出力し、大量の熱を発します。ハロゲン電球は現在、舞台やスタジオ用照明の90%で使用されています。

一方、近年のCOB (チップオンボード) LEDの進歩に伴い、LED (発光ダイオード) を用いた照明器具も増えており、LEDに完全に切り替えたスタジオも増えてきています。高密度のCOB LEDは、発光効率も高く、熱もよく放散します。LEDの発光効率は120ルーメン/ワット (Lm/W) で、ハロゲン電球の20Lm/Wの約6倍です。約1,000ワットのハロゲン電球の光強度を約160ワットのLEDで得ることができます。しかし、COBライトは基板上にLEDを高密度に実装しているうえ、LEDは熱に弱いという特性があるため、熱流束が大きくなる問題があります。LEDから発する熱は、LEDの性能を低下させ、寿命を縮め、ときには故障の原因となります。

また、舞台照明は劇場やスタジオを照らすはずの照明が、意図しない方向を照らすことは許されません。したがって、照明機器の筐体の設計では、それを考慮して通気口や冷却チャネルを備えなければいけません。

また、照明は舞台上に吊り下げられているため、軽量化が必要です。これまでは、十分に放熱させるためにフィンを必要以上に大きく設計していました。しかし、重量が2倍になると、吊り下げられる照明の数は半分に減るため、十分な光が得られなくなる可能性があります。

つまり、冷却のための高度な熱設計と軽量化が必要になってきます。そこで丸茂電機は、LEDスポットライトの流体-固体連成解析を用いたモデルベースの開発スキームを考案することにしました。

シミュレーションを必要とした理由

シミュレーションの活用

LED技術の革新により、さまざまなタイプの照明が開発され、市場の要求に応えられるようになりました。LEDを光源として使用し、魅力的な照明を作り出すためには、光学設計、放熱設計、調光回路設計の3種類の設計が必要です。この3つの設計を同時に達成するには、シミュレーションの活用が不可欠でした。

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenter™ポートフォリオの一部であるSimcenter STAR-CCM+™ソフトウェアを導入する前は、光学設計のためのソフトウェアのほか、熱設計用の有限要素法 (FEM) 構造解析と電界解析、熱伝達解析を組み合わせたパッケージを使用していました。この熱伝達解析ツールのおかげで、放熱のために必要以上に大きいフィンを取り付ける必要性が減りました。しかし、流体解析の機能がなかったため、流体と固体間の熱伝達を解析することはできませんでした。

さらに、照明器具から光が漏れてはいけないため、筐体の通気口の設計は非常に複雑になります。光の遮蔽と冷却の最適なバランスを見きわめることが非常に重要でした。熱伝達解析だけでは流体の流れを解析しきれません。実際、当初は問題ないとされていた照明設計でも、実は内部温度の著しい上昇が起きていることが判明したケースもあります。高度な流体解析ツールの導入を検討し始めたのもそのためです。

丸茂電機がSimcenter STAR-CCM+を選んだのは、日本語対応のGUI (グラフィカル・ユーザー・インターフェース) を備えており、使いやすく、解析結果も分かりやすく視覚的に示されるからでした。

シミュレーションの活用

シミュレーションの手法と結果

丸茂電機では、CAD (コンピューター支援設計) ソフトウェアであるParasolid®を使って解析モデルのジオメトリを作成しています。モデルは、ヒートシンク部品 (図6: 伝熱面、フィン、ヒートパイプ) と光源部品 (図7: 基板、LEDチップ、蛍光体) で構成されています。多数のLEDチップがデバイス上にずらりと並んでいますが (図7参照)、LEDチップを簡素化することで、解析モデルのメッシュ数を減らし、メッシュ生成の工数も軽減できました。

また、アドオンツールのDesign Manager (旧Optimate+) を使ってヒートシンクのヒートパイプを取り付ける位置を検討しました。

丸茂電機は、固体部分とそれに隣接する気体領域を囲むような球体を作成しました。図8は、ヒートシンクと光源を組み合わせた固体部分のメッシュを示しています。固体部分のメッシュタイプには多面体メッシュを使用し、壁面にはレイヤー・メッシュを作成して境界層を正確に表現しました。また、固体部品間の熱伝達を解析するためのメッシュも作成しました。固体部品には主に多面体メッシュを使用し、シンメッシャーで層状メッシュを生成し、フィン・コンポーネントのメッシュ数を減らしました。

丸茂電機は、空気を流体として指定し、理想気体の状態方程式を使用して密度を調べました。ヒートシンクと基板の固体にはアルミニウムを、LEDチップには窒化ガリウム (GaN) を、蛍光体には「YAG」と呼ばれるイットリウム、アルミニウム、ガーネットから成る人造石を使用しました。境界条件は、流体周りの圧力出口境界として定義し、完全な3Dモデルを使用して解析を実施しました。乱流モデルにはRealizable K-εモデルを使用し、定常状態解析を実施しました。

その結果、LED部品の中央部で摂氏98.8度 (ºC)、ヒートシンクのフィンの下側の端で74.8°C、電熱面の端で86.5°Cの固体温度が予測されました。この予測から丸茂電機は、熱拡散要件が満たされていることを確認できました。図9では、重力の方向が図の下に向かっているため、フィンの底に向かって温度が低くなっていることが分かります。図10は、フィンの断面図を使って温度分布を示しています。各フィンの温度勾配も小さく、結果は均一です。図11は自然対流での流れ場を示したものです。フィン間の流れもスムーズだったため、フィンピッチに問題がないことを確認できました。

また、本プロジェクトでは精度を検証するための実験も行いました。図12は、テスト用デバイスです。プロジェクトの開始時点では、温度の解析結果が実測値よりも高くなる問題が起きていました。丸茂電機は、固体コンポーネント間で熱抵抗が異なることがこの温度の差異の原因であることを突き止めました。熱抵抗の差異は、デバイスに塗布したグリースによる影響や、コンポーネントの電力や発光度の違いによることが分かりました。

較正を実施し、実測値とほぼ変わらない正確な結果を得られるようになりました。

設計、テスト、再設計、テストを繰り返す通常1年間の開発サイクルのなかで、これまで丸茂電機はせいぜい2つの照明機器製品をテストするのが精一杯でした。そのため、重量を犠牲にしたデザインになり、フィンが大きくなりがちでした。しかし、Simcenter STAR-CCM+を導入したことで、同社の製品設計は大きく変わり、開発期間とテスト用デバイスの製作数が35%削減しました。丸茂電機の器具開発部で数値流体力学 (CFD) エンジニアを務める若林良介氏は次のように説明します。「CFDを導入することで、やり直しがなくなりました。Simcenter STAR-CCM+を導入する前は、実機の製作とテストを繰り返していましたが、導入後は効率よく開発できるようになりました。」

また、丸茂電機は冷却性能も正確に予測できるようになり、照明器具の放熱装置の重量を50%削減できました。

「これまでは設計段階で、余裕をもって放熱できるように大きめのフィンを設計していました。Simcenter STAR-CCM+を導入してからは、冷却性能をシミュレーションすることで、設計を最適化し、照明を軽量化できるようになりました。」と開発部部長の浅川久志氏は言います。

新境地を開拓

現在では丸茂電機は、ファンを使った強制対流による冷却など、より複雑なシミュレーションを実施できるようになり、製品開発プロセスでSimcenter STAR-CCM+はますます重要な役割を果たしています。「Simcenter STAR-CCM+を導入したことで、これまでできなかったことができるようになりました。これこそ最も大きな成果です。」と浅川氏は説明します。

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアは、今後も丸茂電機にSimcenterポートフォリオとSimcenter STAR-CCM+を提供し続け、製品設計でデジタルツインを活用して予測エンジニアリング解析を推進し、日本の舞台照明装置の発展に貢献していきます。