ユーザー事例

自動車サプライヤー、自動車の熱管理ソリューションであるSimcenter Amesim Vehicle Thermal Managementを使用して物理プロトタイプの数を半減

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのソリューションで、モデルの精度を80%以上向上させたカルソニックカンセイ

自動車サプライヤー、自動車の熱管理ソリューションであるSimcenter Amesim Vehicle Thermal Managementを使用して物理プロトタイプの数を半減

カルソニックカンセイ株式会社

カルソニックカンセイ株式会社は、日本、北米、欧州、アジアを中心に自動車部品を製造・販売しています。

http://www.calsonickansei.co.jp/

本社:
さいたま市, Japan
製品:
Simcenter 3D Solutions, Simcenter Amesim
業種:
自動車 / 輸送機器

共有

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのソリューションを使用したシミュレーションベースのプロセスが完全に稼働し、システム開発に統合されると、現在の方法よりも80%以上精度が高くなり、物理プロトタイプの数を半減させることが示されています。これは、開発コストを削減し、顧客の見積要求に短時間で対応できるという点で、間違いなくビジネス上の利点です。
原潤一郎氏, 革新的な交流およびエンジン冷却モジュール・システム開発担当シニア・エンジニア兼プロジェクト・マネージャー, カルソニックカンセイ (現マレリ)

困難な環境に向き合う

エアコンは、ほとんどの新車の必需品だと消費者は考えています。しかし、世界標準であるフロン冷媒HFC-134aは、気候変動の原因であると信じられています。こうした懸念を受けて、欧州連合 (EU) は2011年からHFC-134aを段階的に廃止し、環境への影響が少ない代替品の使用を義務付ける規制を可決しました。2018年までに、HFC-134aはEUで販売される新車への搭載が禁止されることになりました。日本も近いうちにこれに追随すると予想されます。

最有力の代替品は、R-744としても知られるCO2 (二酸化炭素) 冷媒です。このガスは、フルオロカーボンよりも大幅に環境負荷が低く、冷却速度が25%向上すると考えられています。さらに、CO2システムの動作は逆転可能で、寒冷な気候では車内暖房として機能します。これは、バッテリーの電力を消費する電気自動車や、効率的に走行するために高い動作温度を必要とする内燃機関 (特にディーゼル) にとって間違いなくプラスになります。

しかし、CO2冷媒への移行は容易ではありません。ガス圧がフルオロカーボン系システムの10倍にも達するため、コンプレッサーやシールなどの主要部品に特別な設計が必要です。最も効率的な性能を得るには、CO2冷媒を超臨界温度 (31°C以上) に維持しなければならないため、従来のR134aループ・コンデンサーの代わりにガスクーラーを使用する必要があります。CO2システムには、高圧側と低圧側を分離する、特別な熱交換器も必要です。一部の業界関係者によると、これらの設計の複雑さに加えて、開発サイクルの長期化と、設計を改良するための追加の物理プロトタイプ試験によって、最初のCO2ベースのシステムは、従来の空調ユニットよりも30%コストが高くなる場合もあるということです。

しかも、CO2冷媒は世界基準として確立されていません。それどころか、米国はHFC-134aを中止する計画がなく、中国はHFC-134aの生産に多額の投資を行っています。さらに、フルオロカーボンのサプライヤーは、HFO-1234yfなど、オゾン層破壊係数が低く、現在の空調システムにおけるHFC-134aとそのまま交換可能な代替混合物を積極的に追求しています。その結果、空調のサプライヤーは、いつでも変更され得る冷媒の仕様に基づいて、世界中のさまざまな地域向けのシステムを開発しなければなりません。

現在、空調のサプライヤーは、車両全体にスムーズに統合するシステムによって、これらのさまざまな要件を満たすという課題に直面しながら、エンジン抵抗と汚染物質の排出を最小限に抑えながら、最適な冷却性能と乗員の快適性を提供しようとしています。自動車業界では開発サイクルがますます速くなっているため、空調サプライヤーは、これらの複雑な設計を競合他社より高品質、高速、低コストで開発し、最適なシステム性能を自動車メーカーにいち早くデモンストレーションしようと努めています。空調システムに関連する熱的・機械的・電子制御的に複雑な問題をすべて考慮する能力と同様に、設計のスピードも重要です。

Negotiating a challenging environment

アクセスの容易性

多くの空調サプライヤーや自動車メーカーは、空調システムの設計と性能予測にSimcenter Amesimの自動車向け熱管理ソリューション (Vehicle Thermal Management) を使用しています。このソリューションによって、エンジン温度、排気レベル、補助装置、車内環境、その他の要因に関連するコンポーネントの挙動を解析し、最適な組み合わせを見つけることができます。

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアが提供するSimcenterポートフォリオの一部であるSimcenter Amesim™ソフトウェアを使用すると、必要なツールやライブラリに簡単にアクセスでき、シミュレーション・モデルの構築、シミュレーションの実行、結果のグラフ表示を行うことができます。

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのツールを使用している自動車サプライヤーの1つが、日本のカルソニックカンセイ (旧社名、現社名はマレリ)です。この分野で50年以上の経験を持つ同社は、空調システム一式を設計および製造する数少ないサプライヤーの1つです。カルソニックカンセイは、モジュラー設計とコンパクトな空調ユニットを、自動車メーカーのキャビン占有スペース削減要件に確実に適合させてきました。さらに、エンジン冷却システム、車両空気循環ユニット、排気システム、ダッシュボード・モジュール、電子クライメイト・コントロール・システムを設計および製造した経験によって、Tier1空調サプライヤーとしての地位を固めています。

カルソニックカンセイで革新的空調およびエンジン冷却モジュール・システム開発部門のシニア・エンジニア兼プロジェクト・マネージャーを務めていた原潤一郎氏は、Simcenter Amesimソフトウェアを使用してモデルを構築し、シミュレーションを実行するのに専門のプログラマーは必要ない、と説明しています。シンプルなアイコン (さまざまな物理領域のライブラリから選択した事前定義済みの1D要素) をドラッグ・アンド・ドロップして相互接続し、一元化した物理ベース・モデルを作成します。ブロック図は非常に単純なスケッチですが、その基盤となるのは、検証済みのあらゆる動的挙動情報であり、空調システムの各部品を表現した、実際に機能する1次元モデルです。カルソニックカンセイのエンジニアは、システムのすべての部品をモデル化するだけでなく、サブシステムをリンクさせて、空調、キャビン、エンジン間の相互作用を包括的にシミュレーションしました。

パフォーマンスの最適化

エンジニアはまず、コンプレッサーや蒸発器、配管、ガスクーラーや蒸発器内部の冷媒チューブなど、個々の空調コンポーネントのアイコンを選択しました。車両の要件に応じてさまざまなサイズのコンポーネントを交換し、接続して温冷の冷媒ループを表現しました。次に、CO2冷媒の熱物理特性をモデル化し、1Dシミュレーションを実行して、空調の熱出力性能と個々の部品の挙動を調査しました。

Simcenter Amesimでは、さまざまなプロットやチャートを利用して、空調システムのさまざまな側面を評価できます。モリエル (圧力-比エンタルピー) 線図は、冷却サイクルの各段階における冷媒の状態を示します。また、コンプレッサーの吸入口と出口の圧力レベルや、ガスクーラー内の熱交換を確認することもできます。ガス質量分率レベルの変化は、冷媒回路のさまざまな場所でプロットすることが可能です。カルソニックカンセイのエンジニアは、このような詳細な情報によって、重要なパラメーターの感度解析を容易に実行し、可能な限り最高の空調性能を決定することができました。

その間、エンジニアは、送風機、エアダクト、窓、壁の熱特性、太陽熱流束、内部および外部の対流、周囲の熱放射をさまざまなアイコンで表現し、キャビン内部モデルの作成を並行して行いました。キャビンのモデルと空調システムのモデルをリンクすることで、さまざまな天候や運転条件を取り込んでも、冷却速度やキャビンの温度と湿度を計算できます。プロセスの早い段階で一次元モデルを使用することで、ダクトやファンなどの重要なシステム・コンポーネントのサイズを正確に決定し、クライメイト・コントロール戦略をテストすることが可能になります。Simcenter Amesim Vehicle Thermal Managementソリューションは、熱交換器やその他の部品の腐食や異物混入の影響に関する耐久性解析にも使用されました。

その後、Simcenter Amesimソリューションをさらに活用し、エンジン、潤滑システム、冷却システム、燃焼室、吸気管、排気管の間の全体的なエネルギー・バランスを調査しました。エンジンモデルを空調システムやキャビンモデルとリンクさせることで、エンジン性能、燃料消費量、排気ガス排出量を最適化しながら、乗客の快適性を最大限に高めることができました。

Optimizing performance

プロトタイプ数の削減

原氏は次のように語りました。「社内で開発した以前のプログラムでは、性能の予測や実験データの収集に非常に時間がかかり、冷却や車速変化などの過渡条件下での空調性能を概算するだけでも大変な作業でした。さらに、以前はエンジンの特性を開発プロセス段階で考慮することは不可能でした。「LMS Vehicle Thermal Managementソリューションのおかげで、他では組込めないさまざまな条件を考慮に入れて、ACシステム全体の動きを短時間で正確に予測できます。」

Simcenter Amesimの優れた点は、一度作成して検証したモデルを、将来の幅広い設計のベースとして使用でき、毎回ゼロから始めなくてよいところです。エンジニアは、さまざまな車両用途を反映した新しいパラメーターを入力し、シミュレーションを実行するだけで、空調システムの性能をすばやく予測できます。

シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのソリューションを使用したシミュレーションベースのプロセスが完全に稼働し、システム開発に統合されると、現在の方法よりも80%以上精度が高くなり、物理プロトタイプの数を半減させることが示されています。これは、開発コストを削減し、顧客の見積要求に短時間で対応できるという点で、間違いなくビジネス上の利点です。」

カルソニックカンセイにとってSimcenter Amesimの最もエキサイティングなメリットは、冷却やその他の性能特性をデモンストレーションし、営業ツールとして活用できる点です。

原氏はさらに、「乗員の快適性や、システムがエンジン性能や排気ガス排出量に与える影響を正確にデモンストレーションできることは、大きな強みです。今後数年間で、世界の自動車用空調市場が、より環境に優しい冷媒へと移行するなかで、シミュレーションベースの設計プロセスは、当社のビジネスを成長させる上での競争力に確実に寄与するでしょう。」と語りました。

「LMS Vehicle Thermal Managementソリューションのおかげで、他では組込めないさまざまな条件を考慮に入れて、ACシステム全体の動きを短時間で正確に予測できます。」
原潤一郎氏, 革新的な交流およびエンジン冷却モジュール・システム開発担当シニア・エンジニア兼プロジェクト・マネージャー, カルソニックカンセイ