Simcenter Amesimでシステムシミュレーションを実行し、バッテリー設計と熱管理を最適化した電気スクールバスメーカー

持続可能な都市のあり方を求めて

国連によると、急速な都市化により、2030年までに、世界には1千万人以上が暮らすメガ都市が41できると予想されています。人口増加はそのまま、路上を走る自動車台数の増加を意味します。大気汚染原因の1/3が自動車の排気ガスであることを考えると、道路の大気汚染が深刻化するのも当然です。交通インフラで対応可能な車両台数にも限界があることから、持続可能な大量輸送ソリューションの構築が不可欠です。

これは、6億5千万人の人口を抱えるC40世界大都市気候先導グループの指導者らが気候変動の問題に目を向け、都市として温暖化ガスの排出を削減する取り組みを推進している理由の1つです。そのなかで、2025年には、製造するすべてのバスの排気ガスをゼロにすることを約束し、環境にやさしく健康な「化石燃料なしの道路」の実現を目指しています。

Simcenter Amesim vehicle model.

全体的なQoL (生活の質) の向上

2011年の設立以来、Lion Electric Co.が目指してきたのは、持続可能な公共交通機関の実現でした。カナダのケベック州サン・ジェロームに本社を置くLion Electricは、完全電動型スクールバス、特殊用途のミニバス、都市型輸送、都市型トラックの設計、エンジニアリング、製造を手掛けています。同社は、電動車両への完全移行が、社会、環境、全体的な生活の質の大きな向上につながるという信念を持っています。

Simcenter Amesim battery model.

製品開発の新しいエンジニアリング課題

電動バス開発は、バッテリーの熱管理や車両全体との統合など、エンジニアリング上の新たな課題を生み出します。

Lion Electricのエンジニアリングチームでパワートレイン製品エンジニアを務めるRaphael Ouellet氏は、2つのレベルで期待をかけていたと説明します。「まず1つ目、バッテリー充電型車両の開発でサブシステム解析を実行することです。これは、適切な熱管理ソリューションを開発するためには、ドライブサイクルと充電シナリオがバッテリーの能力にどのような影響を及ぼすかを正確に把握する必要があり、また、全体的な熱管理を最適化するには、冷却-加熱ループの冷却フローのバランスを見極める必要があるからです。もう1つは、車両レベル開発の早い段階から、実際のドライブサイクルを考慮した車両全体の性能評価を実行することです。これによって、現実的な範囲を見積もることができます。」

All-electric Urban Class 8 truck.

堅牢な電気パワートレインを迅速に開発

こうした考慮事項は、製品開発のプロセスの初期から理解しておく必要があります。Lion Electricは、それにより、設計エラーによる製造開始時のリコールを回避しています。設計エラーには車両の安全性を脅かし、追加のコストと市場投入の遅れを余儀なくするリスクがあります。また、車両に搭載したバッテリーの性能を開発サイクル早期に評価できるように、Lion ElectricエンジニアリングチームはシーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenterポートフォリオの1つであるSimcenter™ Amesim™システムシミュレーションソフトウェアを選びました。

Lion Electricは、バッテリーと熱管理システムのモデルをいちから開発しています。当初、エンジニアリングサービス企業のMaya HTTからサポートとノウハウ提供を受けながらバッテリーのモデル化を進めました。このときは、試行錯誤を繰り返したのち、最適なアーキテクチャにたどり着きました。セルの設計から始め、アルミの箱でセルの熱交換器を設計した後で、全体的なバッテリー環境にそれを格納します。

Ouellet氏はこのように述べています。「Simcenter Amesimを使用して、バッテリー内と強制空冷システム内の熱交換器を再現し、バッテリーのすべての要素の最適なアーキテクチャを定義できました。適切なアーキテクチャーを見つけるうえで必要な指針をMaya HTTが提供してくれました。」

3つのバッテリーのデータシートをインポートするアプリを使って、サプライヤーのデータシートを数回クリックするだけで、バッテリーの開回路電圧と内部抵抗曲線が分かります。

設計したバッテリーの物理ツインを使って気候制御室内で性能をテストし、その結果に合わせて、デジタルモデルを調整しました。テスト段階を経たおかげで、電気性能と放熱の部分のモデル精度が向上します。

Ouellet氏はこのように述べています。「Simcenter Amesimを使用すると、最初から正しい判断を下すことができ、その結果、市場投入期間の最適化につながりました。また、クライアント向けのシミュレーションを実行し、期待される範囲やペイロードと具体的な使用ケースを比較した結果を詳しく見ることもできます。」

Battery cycle profile in Simcenter Amesim.

効率的なレポート機能を備えた、ユーザーの使いやすさを重視したソフトウェア

Lion Electricは、Simcenter Amesimの使いやすさと簡単にレポートを生成できる点にも満足しています。Ouellet氏はこう説明します。「Simcenter Amesimによって、プレゼン用のグラフやレポートを非常に素早く作成できます。スプレッドシートで計算する場合と比べ、非常に多くの変数を考慮できるため、より高度な結果を得られます。再計算も簡単であるため、上司から変更を求められても、すぐに反映させることができます。

「Simcenter Amesimには、直感的なインターフェース、最適化済みの強力なアルゴリズム、データ管理の容易性 (可視化、後処理、グローバルパラメーターなど)、実装済みツール (最適化、3D可視化など) など多くの利点があります。おかげで、経営陣や顧客に対して、結果を分かりやすく、そして素早く示すことができるようになりました。」

Electric mini school bus.

製造コストを削減

Ouellet氏はこう述べます。「モデルを構築するのと同じ時間で、スプレッドシートのソフトウェアをSimcenter Amesimへと切り替えることで、今ではバッテリー性能の評価を改善し、より詳細な解析が可能になりました。同じだけの時間を、最も最適なバッテリーアーキテクチャーと関連の熱管理システムを開発、最適化、構築するのに時間を費やすことができます。これにより、より信頼性の高く成熟した製品を製造段階へと移行できます。」

「全体として、このアプローチは、製品開発コストを引き下げると信じています。製造開始後に製品を変更しなければならないとなると非常にコストがかかります。車両の安全性に影響する設計エラーによるリコールはOEMにとっても悪夢であり、それを避けるために全力を傾けています。」

シミュレーションの導入で削減できた時間とコストを活用してLion Electricに新しいテクノロジーを模索し始めました。Ouelletは説明します。「車両の製造を開始すると、すでに、将来世代に向けたシステムの改善案をもサックし始めます。効率性とは、絶え間ない最適化です。また、設計のすべての側面を制御し、他社のシャーシや車両を電化する企業よりもより良い製品を作ります。」