ユーザー事例

川崎重工業株式会社はSimcenter STAR-CCM+を活用して、 モーターサイクルのCFD工数を75%削減

シーメンスPLMソフトウェアのソリュ ーションにより、川崎重工業株式会 社(以下、川崎重工)はKawasak NinjaのCAD修正時間を削減

Industrial heavyweight uses Simcenter STAR-CCM+ to help reduce CFD time for motorcycles by 75 percent

川崎重工業株式会社

川崎重工は明治時代の造 船所に端を発し、130年以 上の歴史を持つ日本の3大 重工業の一角を占める老舗 企業です。製造している製 品群は、モーターサイクル、 精密機械、プラント・環境、 ガスタービン、船舶、鉄道車 両や航空宇宙と非常に多岐 に渡ります。

http://www.global.kawasaki.com/en/

本社:
Minato, Tokyo, Japan
製品:
Simcenter 3D Solutions, Simcenter STAR-CCM+
業種:
自動車 / 輸送機器

共有

CFDの一番のボトルネックは はっきりしていて、Ninja H2R/ H2開発以前もCFDは実施して いましたが、モデル化に時間 がかかりすぎ、まったく製品開 発に適用できませんでした。そ のためいろいろなソフトウェア を探しているときに、シーメン スPLMソフトウェアの Simcenter STAR-CCM+™ソフ トウェアにめぐりあい、これだ と直感しました。
Eiji Ihara, 技術本部 技術管理部 開発技術課 課長, 川崎重工業株式会社 モーターサイクル&エンジンカンパニー

高度な支援を提供

Kawasaki Ninja H2R/H2*は川崎重工 の総力・技術を結集したモーターサイ クルであり、その開発には、モーターサ イクル&エンジンカンパニーのみなら ず、空力デバイスを航空宇宙カンパニ ーが、エンジン過給機をガスタービン・ 機械カンパニーが、溶接技術には精密 機械カンパニーと部門を横断した技術 の集大成として開発されました。*Ninja H2は海外向けモデル

このため、Ninja H2R/H2には、特別に川 崎の川の字をデザインしたリバーマーク が付与されています。Ninja H2は公道走 行が可能なモデルであり、Ninja H2Rは クローズドコース専用モデルで、最高出 力240kW [326PS]( ラムエア加圧時)と いうモンスターマシンです。このスペック と斬新なデザインにより、世界中のバイ ク好きを熱狂させています。

モーターサイクル&エンジンカンパニ ーの開発技術課のマネージャーの井原 栄治氏と実際に解析業務を担当してい る森川 学氏にお話しをお伺いしまし た。 お二人の業務は製品開発における 設計・実験、特に設計における業務を 解析により支援する、設計支援のため の解析がメインであり、昨今いわれると ころの開発のフロントローディングで す。 解析技術の開発は技術研究所と共 同で実施し、実際の製品開発の適用が モーターサイクル&エンジンカンパニ ーで行われています。

Implementing advanced support operations

ターンアラウンドタイムの削減

「CFD技術を開発するだけでは意味が なく、製品開発に適用できる必要があ ります。CFDは今まで、そこが最重要課 題でした。CFDの一番のボトルネックは はっきりしていて、Ninja H2R/H2開発以 前もCFDは実施していましたが、モデル 化に時間がかかりすぎ、まったく製品開 発に適用できませんでした。そのため いろいろなソフトウェアを探していると きに、シーメンスPLMソフトウェアの Simcenter STAR-CCM+™ソフトウェア にめぐりあい、これだと直感しました。」 と井原氏は話します。

機種開発の一番の課題は、モデル化の 段階でコンセプトを得るのに非常に時 間かかっていたことです。Simcenter STAR-CCM+の空力自動化マクロにめぐ り合うまでは、最初の1ケースを解析す るのに約1ヶ月要していました。モノづ くり前の設計段階では、日々デザインは 変更され、新たな設計要件が盛り込ま れます。このため、CFDでデザインを判 断するには、変更に追従できる解析ス ピードが必須となります。

その開発スパンの中で、1ケースのCFD の実施に1ヶ月の期間ではまったく開 発に貢献することができませんでした。 このため、最初の課題として、CFDのタ ーンアラウンドタイムの削減、最初の1 ケースを1週間で実施することが目標 として掲げられ、シーエンスPLMソフト ウェアの日本と海外オフィスでタッグを 組み川崎重工との共同プロジェクトが 立ち上げられました。

この1週間というターンアラウンドタイ ムを実現したのがSimcenter STARCCM+の二つの強力な機能である、サ ーフェスラッピングと強力な自動化を 推進するJavaマクロでした。このサーフ ェスラッピングとマクロを適用する前 に実際に時間を要していた点は次の2 点でした。

  • CAD修正に時間がかかる(3~4週 間)Simcenter STAR-CCM+のサーフ ェスラッピングにより解決
  • 解析設定に時間がかかる(1~2週 間)Javaマクロによりプリ処理を自動 実行により解決

シーメンスPLMソフトウェアが提供した VSim(空力解析用自動)マクロは解析 設定等をMicrosoft社のExcelに入力す ることにより、Simcenter STAR-CCM+が その設定内容を読み取り、CADの読み 込み、境界の体系付け、境界条件設定、 風洞形状作成、解析設定、及び結果処 理設定を行い、Microsoft社の PowerPointによる報告書まで自動で作 成します。

シーメンスPLMソフトウェアはベンチマ ークテストを実施し、実際にこの目標を クリアしました。現在では川崎重工内で も、1週間以内のターンアラウンドタイ ムを達成し、小変更の形状変更の場合 では、1~2日以内でアウトプットの出力 が可能とのことです。

「以前と比べると、何十倍ものケース数 をこなすことができ、短い時間で何十ケ ースも解析を行うことが可能になりま した。そのおかげで、実際に試作をする 回数も減っており、費用と工数の削減に 非常に貢献しています。この部分でも Simcenter STAR-CCM+を有効に活用 できたと思っています。」と森川氏は語 ります。

また、マシンリソースにおいては、この Ninja H2R/H2の開発段階では、社内で のCFDの認知度がまだ低く、数十並列 で実施していたましたが、Ninja H2R/H2の成功により社内的に評価され、ク ラスタが増強されました。さらに、さま ざまな機種開発にCFDが適用されるこ ととなりました。

シミュレーションの信頼性と精度の向上

モーターサイクル&エンジンカンパニ ーでの主要商品は高速高出力である ため、CFDによる解析テーマは、デザイ ンや設計要件といった空力的性能とデ ザインのバランスをどうとるか、といっ た点が挙げられます。もう一点は、内部 の電装品の熱害評価です。以前は大排 気量の高価格帯の製品の機種にのみ CFDは適用されていましたが、現在は 小排気量の機種にまで適用が広がって います。

自動化マクロによるメリットは単にタ ーンアラウンドタイムの短縮のみなら ず、次のようなメリットも享受すること ができます。

  • 解析設定のミスをなくす
  • 解析者による結果のバラつきをな くす

この効率的で自動化されたプロセスが 社内に浸透することにより、これまで構 造解析しか経験の無かった人材でも簡 単にCFDを実施できるようになりまし た。また、最近では熱害評価用マクロを 自社作成し、この分野に関してもターン アラウンドタイムの削減ができてきて います。一方で、開発に使用する上で は、解析のターンアラウンドタイムのみ ならず解析精度も重要です。川崎重工 では同じ明石工場内に風洞設備を持っ ており、常に実車相当のサイズで解析 と併せて試験も行っています。 解析の境界条件には風洞特性が用い られ、解析結果は特に重要な指標であ る空力6分力、Cd(抵抗係数)とClf(車 両前方の揚力係数)が重視されていま す。解析精度の検証は、計算結果の流 れ場の可視化と風洞実験で煙などを用 いて比較しています。Simcenter STARCCM+の自動化されたVSimプロセスの 結果は、図5に示すように、モーターサ イクル全体の実験結果と非常に良い一 致を得ました。

Improving simulation reliability and accuracy

Ninja H2R/H2開発における問題点

Ninja H2R/H2の開発に関して、当初か ら2つの大きな課題が存在していまし た。

  • エンジンを冷却するためのラジエー タ通風量の確保
  • 揚力を抑えるための空力的な課題

Ninja H2R/H2はスーパーチャージャ ー 搭載エンジンであり、Ninja H2Rはエン ジン出力326馬力(ラムエア加圧時) というモンスターマシンです。エンジン の発熱量がこれまでの機種と比べて非 常に大きくなることが容易に予測され、 ラジエータの通風量を十分に確保する ことが設計段階で求められました。

空力的な課題としては、最高速度がこ れまでのモーターサイクルにない領域 に突入して、自動車と異なり非常に車 体が軽いこともあり、揚力、特に前輪の 浮き上がりが容易に予測できました。 この2点が開発時のCFDの主要テーマ となりました。

Ninja H2R/H2 design challenges

ラジエータ通風量検討

モーターサイクルには、従来フルカウル とネイキッドの2種類があり、それぞれ メリット・デメリットを持ち合わせてい ます。フルカウルタイプは、メリットとし  て、ラジエータ前側でより多くの風を集 めることが可能ですが、ラジエータ後 方も覆われているため、風の抜けが悪 いことがデメリットとなります。ネイキッ ドタイプはメリットとして、ラジエータ 後方において風の抜けが良いが、ラジ エータ前方で風を集めることができな いというデメリットがあります。

このNinja H2R/H2開発では、両タイプ のメリットを取り入れたデザインが 必要でした。そこで、Simcenter STARCCM+を適用することで前方でより風 を集め、後方での抜けを良くするデザ インを作り上げました。具体的にはカ ウルの形状を工夫しており、デザイン 初期の形状から設計要件を満たす形 状内で通風量を約40%向上することが でき、必要流量を確保することができま した。

空力デバイス検討

次に揚力低減のための空力デバイス の検討です。前述した通り、前輪の浮き に対し、揚力の低減が非常に重要とな ります。プロのライダーでなくても、い かに安全に高速で走れるか、が開発の ポイントとなりました。これによりミラ ーの形状検討やカウルへの空力デバイ スの付加が検討されました。また、これ  ら空力デバイスの検討は航空宇宙カン パニーが担うことになりました。航空宇 宙カンパニーはおよそ100年に渡る航 空機開発のノウハウを生かし、デバイ スの開発を行いました。

「いずれも川崎重工内で初の領域であ り、Simcenter STAR-CCM+によるCFD がなければこの開発は成し得ませんで した。設計時に熱収支的に非常に厳し く、速度も非常に高速な領域になるこ とが当初からわかっていました。」と井 原氏は話します。

「しかし、こういった製品を求められる お客様をターゲットとして企画した製 品のため、これを達成するよりほかあり ませんでした。製品開発時は様々な意 見を戦わせますが、最終的には同じベ クトルに向かって、製品開発を行いま す。川崎重工は様々な技術を持ってい る“総合重工業”のため、各部署に渡る コラボレーションはまさに、強みです。」 と井原氏は熱く語られた。

まさに“All Kawasaki”を体現していま す。

“川崎重工での主要な成功事例”

Simcenter STAR-CCM+のサーフェスラ ッピングや自動化マクロにより開発の ターンアラウンドタイムが大幅に削減 できました。これにより、CFDが開発に 適用できるようになり、川崎重工内で のCFDの横展開で、近年もっとも成功し た事例となりました。このプロジェクト のもう一つの重要な点は、シーメンス PLMソフトウェアのPower Sessionライ センスであり、Simcenter STAR-CCM+ 特有の独創的なライセンス形態でし た。このライセンスフォーマットは、ハー ドウェアリソースの増強にも対応可能 であり、開発サイクルにあわせた柔軟 な利用を可能にします。

次の課題として、さらなる製品性能向 上のため設計探査の重要性を認識さ れているとのことであり、森川氏はシー メンスPLMソフトウェアのHEEDS™ソフ トウェアの開発への適用を検討されて います。

*本インタビューは2015年に行われま した。2015年当時のご部署、役職です。 本記事に記載されたKawasaki Ninja H2R/H2は2015年モデルです。

いずれも川崎重工内で初の領域であ り、Simcenter STAR-CCM+によるCFDがなけれ ばこの開発は成し得ませんでした。
Eiji Ihara, 技術本部 技術管理部 開発技術課 課長, 川崎重工業株式会社 モーターサイクル&エンジンカンパニー