シーメンスPLMソフトウェアのソリュ ーションにより、川崎重工業株式会 社(以下、川崎重工)はKawasak NinjaのCAD修正時間を削減
川崎重工は明治時代の造 船所に端を発し、130年以 上の歴史を持つ日本の3大 重工業の一角を占める老舗 企業です。製造している製 品群は、モーターサイクル、 精密機械、プラント・環境、 ガスタービン、船舶、鉄道車 両や航空宇宙と非常に多岐 に渡ります。
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Kawasaki Ninja H2R/H2*は川崎重工 の総力・技術を結集したモーターサイ クルであり、その開発には、モーターサ イクル&エンジンカンパニーのみなら ず、空力デバイスを航空宇宙カンパニ ーが、エンジン過給機をガスタービン・ 機械カンパニーが、溶接技術には精密 機械カンパニーと部門を横断した技術 の集大成として開発されました。*Ninja H2は海外向けモデル
このため、Ninja H2R/H2には、特別に川 崎の川の字をデザインしたリバーマーク が付与されています。Ninja H2は公道走 行が可能なモデルであり、Ninja H2Rは クローズドコース専用モデルで、最高出 力240kW [326PS]( ラムエア加圧時)と いうモンスターマシンです。このスペック と斬新なデザインにより、世界中のバイ ク好きを熱狂させています。
モーターサイクル&エンジンカンパニ ーの開発技術課のマネージャーの井原 栄治氏と実際に解析業務を担当してい る森川 学氏にお話しをお伺いしまし た。 お二人の業務は製品開発における 設計・実験、特に設計における業務を 解析により支援する、設計支援のため の解析がメインであり、昨今いわれると ころの開発のフロントローディングで す。 解析技術の開発は技術研究所と共 同で実施し、実際の製品開発の適用が モーターサイクル&エンジンカンパニ ーで行われています。
「CFD技術を開発するだけでは意味が なく、製品開発に適用できる必要があ ります。CFDは今まで、そこが最重要課 題でした。CFDの一番のボトルネックは はっきりしていて、Ninja H2R/H2開発以 前もCFDは実施していましたが、モデル 化に時間がかかりすぎ、まったく製品開 発に適用できませんでした。そのため いろいろなソフトウェアを探していると きに、シーメンスPLMソフトウェアの Simcenter STAR-CCM+™ソフトウェア にめぐりあい、これだと直感しました。」 と井原氏は話します。
機種開発の一番の課題は、モデル化の 段階でコンセプトを得るのに非常に時 間かかっていたことです。Simcenter STAR-CCM+の空力自動化マクロにめぐ り合うまでは、最初の1ケースを解析す るのに約1ヶ月要していました。モノづ くり前の設計段階では、日々デザインは 変更され、新たな設計要件が盛り込ま れます。このため、CFDでデザインを判 断するには、変更に追従できる解析ス ピードが必須となります。
その開発スパンの中で、1ケースのCFD の実施に1ヶ月の期間ではまったく開 発に貢献することができませんでした。 このため、最初の課題として、CFDのタ ーンアラウンドタイムの削減、最初の1 ケースを1週間で実施することが目標 として掲げられ、シーエンスPLMソフト ウェアの日本と海外オフィスでタッグを 組み川崎重工との共同プロジェクトが 立ち上げられました。
この1週間というターンアラウンドタイ ムを実現したのがSimcenter STARCCM+の二つの強力な機能である、サ ーフェスラッピングと強力な自動化を 推進するJavaマクロでした。このサーフ ェスラッピングとマクロを適用する前 に実際に時間を要していた点は次の2 点でした。
シーメンスPLMソフトウェアが提供した VSim(空力解析用自動)マクロは解析 設定等をMicrosoft社のExcelに入力す ることにより、Simcenter STAR-CCM+が その設定内容を読み取り、CADの読み 込み、境界の体系付け、境界条件設定、 風洞形状作成、解析設定、及び結果処 理設定を行い、Microsoft社の PowerPointによる報告書まで自動で作 成します。
シーメンスPLMソフトウェアはベンチマ ークテストを実施し、実際にこの目標を クリアしました。現在では川崎重工内で も、1週間以内のターンアラウンドタイ ムを達成し、小変更の形状変更の場合 では、1~2日以内でアウトプットの出力 が可能とのことです。
「以前と比べると、何十倍ものケース数 をこなすことができ、短い時間で何十ケ ースも解析を行うことが可能になりま した。そのおかげで、実際に試作をする 回数も減っており、費用と工数の削減に 非常に貢献しています。この部分でも Simcenter STAR-CCM+を有効に活用 できたと思っています。」と森川氏は語 ります。
また、マシンリソースにおいては、この Ninja H2R/H2の開発段階では、社内で のCFDの認知度がまだ低く、数十並列 で実施していたましたが、Ninja H2R/H2の成功により社内的に評価され、ク ラスタが増強されました。さらに、さま ざまな機種開発にCFDが適用されるこ ととなりました。
モーターサイクル&エンジンカンパニ ーでの主要商品は高速高出力である ため、CFDによる解析テーマは、デザイ ンや設計要件といった空力的性能とデ ザインのバランスをどうとるか、といっ た点が挙げられます。もう一点は、内部 の電装品の熱害評価です。以前は大排 気量の高価格帯の製品の機種にのみ CFDは適用されていましたが、現在は 小排気量の機種にまで適用が広がって います。
自動化マクロによるメリットは単にタ ーンアラウンドタイムの短縮のみなら ず、次のようなメリットも享受すること ができます。
この効率的で自動化されたプロセスが 社内に浸透することにより、これまで構 造解析しか経験の無かった人材でも簡 単にCFDを実施できるようになりまし た。また、最近では熱害評価用マクロを 自社作成し、この分野に関してもターン アラウンドタイムの削減ができてきて います。一方で、開発に使用する上で は、解析のターンアラウンドタイムのみ ならず解析精度も重要です。川崎重工 では同じ明石工場内に風洞設備を持っ ており、常に実車相当のサイズで解析 と併せて試験も行っています。 解析の境界条件には風洞特性が用い られ、解析結果は特に重要な指標であ る空力6分力、Cd(抵抗係数)とClf(車 両前方の揚力係数)が重視されていま す。解析精度の検証は、計算結果の流 れ場の可視化と風洞実験で煙などを用 いて比較しています。Simcenter STARCCM+の自動化されたVSimプロセスの 結果は、図5に示すように、モーターサ イクル全体の実験結果と非常に良い一 致を得ました。
Ninja H2R/H2の開発に関して、当初か ら2つの大きな課題が存在していまし た。
Ninja H2R/H2はスーパーチャージャ ー 搭載エンジンであり、Ninja H2Rはエン ジン出力326馬力(ラムエア加圧時) というモンスターマシンです。エンジン の発熱量がこれまでの機種と比べて非 常に大きくなることが容易に予測され、 ラジエータの通風量を十分に確保する ことが設計段階で求められました。
空力的な課題としては、最高速度がこ れまでのモーターサイクルにない領域 に突入して、自動車と異なり非常に車 体が軽いこともあり、揚力、特に前輪の 浮き上がりが容易に予測できました。 この2点が開発時のCFDの主要テーマ となりました。
モーターサイクルには、従来フルカウル とネイキッドの2種類があり、それぞれ メリット・デメリットを持ち合わせてい ます。フルカウルタイプは、メリットとし て、ラジエータ前側でより多くの風を集 めることが可能ですが、ラジエータ後 方も覆われているため、風の抜けが悪 いことがデメリットとなります。ネイキッ ドタイプはメリットとして、ラジエータ 後方において風の抜けが良いが、ラジ エータ前方で風を集めることができな いというデメリットがあります。
このNinja H2R/H2開発では、両タイプ のメリットを取り入れたデザインが 必要でした。そこで、Simcenter STARCCM+を適用することで前方でより風 を集め、後方での抜けを良くするデザ インを作り上げました。具体的にはカ ウルの形状を工夫しており、デザイン 初期の形状から設計要件を満たす形 状内で通風量を約40%向上することが でき、必要流量を確保することができま した。
次に揚力低減のための空力デバイス の検討です。前述した通り、前輪の浮き に対し、揚力の低減が非常に重要とな ります。プロのライダーでなくても、い かに安全に高速で走れるか、が開発の ポイントとなりました。これによりミラ ーの形状検討やカウルへの空力デバイ スの付加が検討されました。また、これ ら空力デバイスの検討は航空宇宙カン パニーが担うことになりました。航空宇 宙カンパニーはおよそ100年に渡る航 空機開発のノウハウを生かし、デバイ スの開発を行いました。
「いずれも川崎重工内で初の領域であ り、Simcenter STAR-CCM+によるCFD がなければこの開発は成し得ませんで した。設計時に熱収支的に非常に厳し く、速度も非常に高速な領域になるこ とが当初からわかっていました。」と井 原氏は話します。
「しかし、こういった製品を求められる お客様をターゲットとして企画した製 品のため、これを達成するよりほかあり ませんでした。製品開発時は様々な意 見を戦わせますが、最終的には同じベ クトルに向かって、製品開発を行いま す。川崎重工は様々な技術を持ってい る“総合重工業”のため、各部署に渡る コラボレーションはまさに、強みです。」 と井原氏は熱く語られた。
まさに“All Kawasaki”を体現していま す。
Simcenter STAR-CCM+のサーフェスラ ッピングや自動化マクロにより開発の ターンアラウンドタイムが大幅に削減 できました。これにより、CFDが開発に 適用できるようになり、川崎重工内で のCFDの横展開で、近年もっとも成功し た事例となりました。このプロジェクト のもう一つの重要な点は、シーメンス PLMソフトウェアのPower Sessionライ センスであり、Simcenter STAR-CCM+ 特有の独創的なライセンス形態でし た。このライセンスフォーマットは、ハー ドウェアリソースの増強にも対応可能 であり、開発サイクルにあわせた柔軟 な利用を可能にします。
次の課題として、さらなる製品性能向 上のため設計探査の重要性を認識さ れているとのことであり、森川氏はシー メンスPLMソフトウェアのHEEDS™ソフ トウェアの開発への適用を検討されて います。
*本インタビューは2015年に行われま した。2015年当時のご部署、役職です。 本記事に記載されたKawasaki Ninja H2R/H2は2015年モデルです。