Karma Automotive、Simcenterのサービス、シミュレーション/テスト・ソリューションを使用して、NVHの最適化を超える成果を実現
Karma Automotiveは、米国カリフォルニア州アーバインに本社を構え、カリフォルニア州モレノバレーに製造拠点を置く高級電気自動車メーカーです。同社は中国の自動車部品メーカーであるWanxiang Groupの傘下企業です。
http://www.karmaautomotive.com/
電気自動車が、(技術力が限られ、石油の使用が支配的であったために) エキゾチックな遠い未来のことだと考えられていた時代はとうの昔に過ぎ去りました。20年余り前、象徴的な「プリウス」が登場し、状況は一変しました。現在、世界中で1,200万台以上のハイブリッド車や電気自動車が販売され、その数は増え続けています。今や電動化は、自動車産業の最大の革命の1つと見なされていますが、さらに人類は、ガスも燃焼機関もない未来を構想し始めています。
電気自動車やハイブリッド車は、価格の高さや自律性の制限など、さまざまな理由でまだ主流ではありません。さらに、多くの人は「中身が重要だ」と考えていますが、新しい車を選ぶときの判断基準が「外観」であることもまだ少なくはありません。テスラは、2012年にModel S を市場投入したときにこのことを痛感しました。このためテスラは、これまで電動化競争の域外にあった特別な市場セグメント、「高級車、スポーティなデザインを好む顧客」に訴求しました。
その間に多くのOEMは、ホンダ NSX、レクサス LC500h、BMW i8、ジャガー I-Pace、ポルシェ Panameraなど、少なくとも1種類のハイエンド高級ハイブリッド車/電気自動車を投入しています。
多くのスタートアップがこのセグメントに挑戦しています (テスラも小規模からスタートしました)。その多くは途中で敗退や撤退を余儀なくされましたが、中には立派な新eブランドを確立し、プロトタイプで大手企業と競うような企業も出てきています。
こうしたスタートアップの1つが、2014年にFisker Automotiveの廃虚 (というより資産) から立ち上がった、カリフォルニアに拠点を置く自動車メーカー、Karma Automotiveです。復活の過程で、KarmaはFiskerの良さを生かし、弱点を克服することに成功しました。顧客に愛されたイタリアン・デザインの外観を維持しながら、技術を大幅にアップグレードしたのです。その結果、Fisker Karmaオリジナルの外観と内装の多くを維持しながら、A123バッテリー、充電器、電気制御装置を組み込んだ高級電気ハイブリッド・セダンが誕生しました。「これは誰かに見て欲しいときに運転する車だ」と、Karma Automotiveの最高技術責任者、Bob Kruse氏は語ります。
スタートアップとして、Karmaは限られたリソースがもたらす典型的な課題に対処する必要がありました。その1つは「高価な時間」です。大手企業と比較して、スタートアップにとっては時間が貴重です。セカンド・チャンスや、やり直しの機会もありません。こうした状況下で、デジタライゼーションがまさに死活問題となっています。「モデルと解析を使用して、物理世界で起こっていることを正しく再現することがこれまで以上に重要です。つまり、現実の車両に戻ったときに、「仮想で得られたソリューションが高い信頼性で適合し、実際に機能すること」が重要になっているのです。」Kruse氏はこのように述べています。
ハイブリッド電気スポーツカーでは、エンジン音は開発プロセス全体を通して管理すべき重要な性能属性です。エンジン音はブランド固有の音でなければなりません。これは簡単な作業ではありません。「電気スポーツカーのエンジン音がどのようなものであるべきかという概念は過去にはありませんでした。」と、Karma Automotiveの騒音・振動 (NVH) リード・エンジニア、Jud Knittel氏は言います。
ハイブリッド電気自動車の主な問題は、内燃機関のノイズ・マスキング効果がないため、ロードノイズやHVACノイズなど、他の多くの音が目立つことです。こうしたノイズ源を低減するには、従来型自動車よりもはるかに多くの努力を払わなければなりません。さらに、NVHを最適化する取り組みは、重量、強度、耐久性、乗り心地など、ほかの属性に悪影響を及ぼすのなら逆効果になります。
このバランスを保つには、テストとシミュレーションを (ときには同時に) 使用することが不可欠です。Karmaは、開発プロジェクトの初期段階でこのことを理解していました。
「このプロジェクトに着手したとき、目的は製品の開発だけでなく、Karmaのプロセスの構築でもありました。」と、Karma Automotiveの車両統合ディレクターを務めるErik Keipper氏は説明します。「シーメンスとのパートナーシップのおかげで、プログラム・マネージャー、エンジニア、技術者のシームレスなやり取りが可能になりました。」
製品だけでなくプロセスも含む、こうした包括的な車両開発プログラムの成功の鍵の1つは、車両設計の定義段階を可能な限り前倒しして、検証段階の土壇場でコストのかかる修正が発生する可能性を最小限に抑えること、もしくは回避することです。Karmaは、この作業にSimcenter™ 3Dソフトウェアを選択しました。必要なハイエンド・ソリューションとソルバーをすべて組み合わせたSimcenter 3Dは、クラス最高のコンピューター支援エンジニアリング (CAE) の前処理/後処理機能とソフトウェア独自のCAD統合・管理環境を活用して、さまざまな属性の最適化を可能にします。Karmaは特に、Simcenter 3Dのハイブリッド・モデリング手法を使用して、車両全体の複数の性能属性を最適化する作業を前倒ししました。このアプローチでは、開発中のコンポーネントを3D CAEでモデル化し、既存のコンポーネントを周波数応答関数 (FRF) やモードなど、テスト結果から導出した正確な縮小表現でモデル化します。
NVHテストには、Simcenter 3D CAEソフトウェアに加えて、Simcenter Testlab™ ソフトウェアとSimcenter SCADASハードウェアを使用しました。これらのツールをシームレスに組み合わせることで、実験モーダル解析、オペレーション・データ収集、音質評価など、幅広いテスト・カバレッジを実現できます。Simcenter Testlabソフトウェアは、高速で正確なデータ取得とテスト結果に加えて、多くのエンジニアリング・ノウハウとユーザー・ガイダンスも提供します。Karmaは、このソフトウェアのインテリジェントなデータ表示機能とディスプレイにより、同じデータを複数の角度から見ることができる点を高く評価しています。「同じデータセットに対して膨大な数の機能を実行する必要がありますが、これらはすべてSimcenter Testlabでマウスをクリックするだけで実行できます。」Knittel氏はこのように語っています。
テストは、ベンチマーク、ターゲット設定、プロトタイプ性能検証だけを目的に実施するわけではありません。シミュレーションを最大限に活用するうえでも重要な役割を果たします。Karmaのように、特定のコンポーネントをまだ開発中 (Simcenter 3Dで検討中) で、他の部品はすでにプロトタイプとして存在しているケースでは特に、Simcenter TestlabのFRFとモードによるテストベースの検証は、スピードと精度の両面で、大規模な車両開発プロセスの成功にとって非常に重要です。
多くのOEMと同様、Karmaも「シミュレーションが物理テストに完全に取って代わることはできない」ことは分かっていますが、Karmaのスタッフは、シミュレーションを活用することで、より短時間でより良いNVH性能を達成できると確信しています。テストとシミュレーションを適切に組み合わせることで、エンジニアはシミュレーション・モデルが現実を可能な限り忠実に表現しているかどうかを判断できます。さらに、モデルに減衰を含める方法や、いわゆるハイブリッド・アプローチに対応する方法など、より詳細な洞察も得られます。
このプロジェクトには、製品だけでなくプロセスの開発も含まれていました。このため、SimcenterソフトウェアとSimcenter™ エンジニアリング/コンサルティング・サービスを組み合わせることが最適でした。Simcenterの担当者は、開発のほとんどの期間にわたって現場に常駐し、プロジェクトのベンチマークとターゲット設定、CAEとテストによるターゲットの解析と検証を支援しました。「Karmaが、試行錯誤ではなく数学と科学を駆使して、最小限の反復作業回数で正しく仕上げることができたのは、この専門的なサービスのおかげです。」とKruse氏は説明します。
Karmaは、テクノロジーとソフトウェアに加えて、Simcenterコンサルタントが持つ深い知識も高く評価しています。「Simcenterコンサルタントは、Karmaが自分たちでプロセスと解析を継続できるように、ノウハウと専門知識も提供してくれました。」とKnittel氏は言います。「彼らは、関連するソフトウェアのシームレスなオペレーションを実現しただけでなく、プログラム・マネージャーと技術者の間のやり取りも促進してくれました。必要な専門知識を提供してくれたので、私たちは今後も自分たちでプロセスと解析を続けることができます。」
専門知識、コラボレーション、技術移転は、現在のSimcenterエンジニアリング・サービスの構築およびオペレーションの差別化の柱となっています。この3つはすべて、Karmaのような包括的な車両開発プロセスに不可欠です。
複数の属性、部門、チームの枠を超えて多くのソフトウェア機能に対応するには、強力なデータ追跡・管理ツールが必要です。シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアの広範なポートフォリオのもう1つのソリューション、Polarion ALM™ ソフトウェアは、この課題に対処します。「Polarionは、ターゲットを車両レベルからコンポーネント・レベルへと落とし込み、その後上って中間、フル車両の各レベルで車両を検証するための追跡ツールです。」Karmaの車両統合リーダー、Garren Salibian氏はこのように述べています。「ボックスにチェックを入れる通常のスプレッドシートよりもはるかに奥が深いです。 各レベルに入って、必要なすべてのデータと解析にアクセスできます。Polarionを使用すると、分散したチーム内で必要な俊敏性を失うことなく、アプリケーションのライフサイクル全体を完全に制御できます。」Polarionは、大規模なシーメンス・ソフトウェア・ファミリーの一部として、KarmaがNVH最適化と多属性バランス調整に使用したSimcenterソフトウェアとシームレスに連携します。
「シーメンスのコンサルティング・サービスとソフトウェア・ツールを使用することで、最小限の反復作業回数で正しい結果を得られました。」とKruse氏は言います。「技術的な観点から見ると、ターゲットを達成しただけでなく、ターゲットを超える結果も出せました。」
Karmaは、Fiskerが失敗したところ、つまりハードのビジネス面で成功したと言えるかもしれません。Karma Reveroは、優れたデザインと経済性を両立させるだけでなく、環境への配慮や音響の快適性も実現しています。こうした特性が21世紀の最も重要な成功パラメーターだと考えられています。
Karmaは、Simcenterのツールとサービスを4年以上にわたって使用してきたことで、NVHの最適化にとどまらず、開発プロセス全体を最適化することができました。テストとシミュレーションの両方を1つのプラットフォームに統合することで、データ交換が合理化され、チームや部門間のコラボレーションが促進します。
「Karmaのプロセスを確立させ、このプロセスを利用してプロジェクトを市場投入することに成功したので、次の課題に取り組むのが楽しみです。」とKeipper氏は締めくくりました。「近いうちに、ディーラーの店舗が電気自動車・製品で埋め尽くされるようになることを願っています。」