ユーザー事例

電動パワートレインのシミュレーションと車両モデルを組み合わせてEVの音響快適性を向上

Simcenterツールを使用し、Simcenterエンジニアリング・サービスと提携して高周波ノイズを除去した現代自動車

電動パワートレインのシミュレーションと車両モデルを組み合わせてEVの音響快適性を向上

現代自動車グループ

現代自動車グループは、韓国のソウルに本社を置く多国籍企業です。世界中に約25万人の従業員を抱え、現代 (Hyundai)、起亜 (Kia)、ジェネシス (Genesis) といったブランドを展開しています。

https://www.hyundaimotorgroup.com/

本社:
ソウル, South Korea
製品:
Simcenter 3D Solutions, Simcenter Testing Solutions
業種:
自動車 / 輸送機器

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Simcenterツールの良い点は、シミュレーションの専門家でなくても使用できることです。
Ji Woo Yoo氏, 運転快適性仮想開発チーム、シニア・リサーチ・エンジニア, 現代自動車グループ

EVの課題に対処

現代自動車グループ (HMG) は、Ioniq 5などの人気車で電気自動車 (EV) 市場のリーダーとしての地位を確立しています。しかし、その地位を維持するためには、新製品を開発するたびに継続して性能の向上に努める必要があります。

HMGのエンジニアは長年にわたり、内燃機関 (ICE) 車開発においてシミュレーションを大いに活用してきましたが、EVの性能向上にシミュレーションを活用するにはまた新たな課題があります。

騒音と振動は、全体的なユーザー・エクスペリエンスを大きく左右するため、性能を向上するうえで避けられない重要な問題です。内燃機関車では車両が発する多くの音が内燃機関の音に紛れ、隠されていましたが、電動パワートレインははるかに静かであるため、非常に小さな音でも目立ち、不快にさせることがあります。またEVは、従来のシミュレーション手法では必ずしも捉えきれないさまざまな周波数の音を発します。したがって、あらゆるノイズを正確に予測し、除去できるようにシミュレーション技術を調整し、コンポーネントや車両の設計を改良できるようにする必要があります。

そこでHMGは、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenterエンジニアリングおよびコンサルティング・サービス (シーメンス・エンジニアリング・サービス) を利用し、Simcenter™ 3Dソフトウェア、Simcenter Testlab™ソフトウェア、Simcenter Nastranを導入することにしました。Simcenterは、ソフトウェア、ハードウェア、サービスで構成されるビジネス・プラットフォームであるSiemens Xceleratorの一部です。

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トリムドボディのFEモデル

パワートレインの高周波うなり音の予測

HMGの運転快適性仮想開発チームのシニア・リサーチ・エンジニアであるJi Woo Yoo氏は、電気自動車に特有のノイズは、ヒュイーン、キーンというような高周波のうなり音であると説明しています。ロードノイズよりははるかに静かですが、その音を隠す役目を果たしていた内燃機関が電気自動車にはないため、車に乗っている人がいったんその音に気づいたら無視できなくなります。開発でシミュレーションを活用するには、この高周波ノイズを正確に予測できるシミュレーション技術が必要です。

「これまでも、風切り音などの高周波音の予測にシミュレーションが用いられてきました。しかし、電動パワートレインに特有の音を予測するのは、新たな課題です。特に、電動パワートレインのモデルと車両モデルを組み合わせて、車室内で体験するノイズを正確に予測するプロセスは非常に複雑であり困難です。これを実現するには膨大な計算が必要ですが、従来の手法では時間がかかり過ぎます。もしくは実現不可能です。」と、Ji Woo氏は話します。

しかし、Simcenter 3DとSimcenter Testlabを使用することで、HMGのエンジニアは各応答を切り離して個別に測定することができ、貴重な計算時間とコンピューター・リソースを節約できました。

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音響キャビティのFEモデル

固体伝播音と空気伝播音のシミュレーション

複雑さの原因は、音の周波数が高いことだけでなく、固体伝播音と空気伝播音の2種類のノイズがあることでもあります。ノイズ予測ソフトウェアは通常、2つのうちのいずれかのノイズに特化したものであるため、1つのシミュレーション手法で両方を同時に予測することができません。

そこでHMGはSimcenterエンジニアリング・サービスと協力して、両方のノイズ源を効率的に計算する手法を開発しました。固体伝播音については、両チームが協力して、有限要素法 (FEM) を使用し、Simcenter Nastranで車両のトリムドボディをモデル化しました。その結果、最大1.5キロヘルツ (kHz) のノイズを予測できるようになりました。

固体伝播音をすべて把握してから、設計を修正してノイズを軽減しました。具体的には、電動パワートレインと車両の間のマウントの剛性を調整したり、フロアパネルの特性を改良したりしました。

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外部圧力を受けることでノイズの主な要因となる部位

空気伝播音のシミュレーションはもっと複雑です。ここでも有限要素法を用いて電動パワートレインの音響放射と車両外装パネルの音響励起を予測しました。正確な予測を行うために、車両外装に取り付けるボンネット・インシュレーターやホイールカバー、アンダーカバーなど、音を吸収する部材 (アサウンド・パッケージ) もモデル化することが重要でした。しかし、FEMを用いるには、車両が重すぎて計算処理能力が足りず、モデル化できませんでした。そこでHMGは、Simcenterエンジニアリング・サービスの専門家と協力して、統計的エネルギー解析モデルを使用しました。これは、高周波音を解析するための手法です。これにより、最大8kHzのノイズを予測できました。

ノイズをソース (ノイズ源)、パス (伝達経路)、レシーバー (受信側) に分割して、それぞれの強度を定量化しました。このプロセスはターゲット・カスケード法と呼ばれます。Simcenter 3Dでシミュレーションすることで、従来のテスト手法よりもはるかに効率的に各ノイズ源が発する音を改善することができました。

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電動パワートレインでノイズの主な要因となる部位をカバーで覆うことで音を減衰

緊密なコラボレーションと継続的な改善

Ji Woo氏は次のように話します。「Simcenterエンジニアリング・サービス・チームは、終始、親身になって協力してくれました。こちらが達成したいことを伝えると、Simcenterソフトウェアを使って最大限の成果を得る方法を教えてくれました。彼らの専門知識がなければ、ここまでの成果は得られなかったと思います。」

Ji Woo氏は、HMGにさらなるメリットをもたらすため、今後も新しいシミュレーション技術の改善を続けたいと意欲を見せています。「プロセスをさらに合理化できれば、さらに効率が上がります。Simcenterツールの良い点は、シミュレーションの専門家でなくても使用できることです。そのため、Simcenterでプロセスやデータを標準化すれば、さらに多くのエンジニアがSimcenterを使えるようになり、シミュレーションの専門家は新しいプロジェクトに集中して取り組めるようになります。」とJi Woo氏は言います。

Simcenterエンジニアリング・サービス・チームは、終始、親身になって協力してくれました。こちらが達成したいことを伝えると、Simcenterソフトウェアを使って最大限の成果を得る方法を教えてくれました。
Ji Woo Yoo氏, 運転快適性仮想開発チーム、シニア・リサーチ・エンジニア, 現代自動車グループ