シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア、現代自動車の車両物理試験を40%削減
現代自動車グループ (HMG) は、韓国の大手自動車メーカーです。HyundaiやKiaなどのブランドを展開している同社は、世界中で50,000名の従業員を抱え、166か国で自動車を販売しています。また、24超の自動車関係関連会社および子会社を所有するグループ企業でもあります。
この2世紀の間に人類は驚くべき進化を遂げました。長寿命、快適性、通信手段、移動手段など、現代社会に多くの利点があるのは明らかです。しかし同時に、人口の増加、産業化、グローバル化は地球環境に大きな負荷を与えています。人間の活動が徐々にであっても確実に地球環境を悪化させているということを科学者が説得力のある証拠をもって示すようになったのは、残念ながら20世紀の最後の10年に入ってからでした。
今日の世代は、技術的な進展と環境への環境負荷低減とのバランスを考慮する人類最初の世代です。このためエンジニアは、オペレーション要件と消費者要件を満たしつつ、消費エネルギーと排出の削減という要求に応える技術の開発を迫られています。こうした要件を充足するため、輸送システム業界をはじめとする多くの業界が技術面とプロセス面の両方で劇的な近代化を達成する必要があります。
「現代」自動車が韓国語で近代化を意味する言葉を社名に冠しているのは偶然ではありません。世界第三位の自動車メーカーである現代自動車グループ (HMG) のエンジニアは、1980年代後半から、フレックス燃料車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車 (HEV) など、従来の内燃機関エンジン (ICE) よりも環境にやさしい代替推進エンジンの実験を続けてきました。なかでも最も高い関心を集めるHEVには、より長い航続距離を可能にするバッテリーと電気モーター充電用の追加インフラの登場が待ち望まれています。
HEV設計には、個別の車両とその用途に最適な構成を判断するなど、複雑な課題があります。基本となる考え方は、電気モーターでICEをサポートすることで効率化を図ることと、市街地走行などの一部の運転サイクルを電気モーターでまかなうことです。HEV設計の取り組みの多くは、コンポーネントのサイズをどうするか、また効率性を最適化する電気モーターとICEの組み合わせを制御するアルゴリズムをいかに定義するかに注がれています。エンジニアは同時に、運転力学や快適性といったそのほかの性能要件も考慮しなければなりません。
現代自動車のシニアエンジニアであるBang Jae-Sung氏はこう述べます。「ある性能側面を向上するようにパラメーターを変更すると別の側面に悪影響が出ることから、複数の属性を同時に見ながら最適なバランスを見つけなければなりません。」Bang Jae-Sung氏は、現代自動車のR&Dセンター勤務のスペシャリストとして、最適な車両性能を達成するHEV制御ロジックの開発に取り組んでいます。「何よりもまず、非常に多くのパラメーターが含まれており、多数の運転サイクルを評価しているため、あまりに多くのプロセスで試行錯誤を繰り返していると時間もコストもかかりすぎます。」ともJae-Sung氏は述べています。
シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアの専門家と現代自動車のエンジニアは共同で、最先端のシミュレーション機能を使用して性能最適化プロセスを自動化することにより、開発時間とコストを削減する方法を探りました。これに加えて、モデルベースのクローズド・ループ化されたシステムシミュレーションをリアルタイム実行して、HEVの主要制御装置を仮想的に試験および妥当性評価し、モデルを校正するプロジェクトも実施しました。ハードウェア・イン・ザ・ループ (HiL) の試験プラットフォームは業界標準でありながら、ユニークな試験ケースを実装しており、燃料消費と操舵性を同時に正確にとらえることができます。
Jae-Sung氏は、次のように語ります。「HiLのシミュレーションは、バランスを取るのが難しいタスクです。リアルタイムで計算を実行するためには、自由度 (DOF) をある程度制限することを求められますが、現実的な結果を得るにはシミュレーションモデルの十分な精度を確保しなければなりません。これには非常に高度なソフトウェアツールが必要です。シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenter Amesim™ソフトウェアはプラント・シミュレーション・モデルのシミュレーション環境であり、コントローラーモデルを扱うMATLAB、Simulink、Stateflowの環境との練成シミュレーションを行うことで、この目的を確実に達成できます。」
エンジニアは、監視ハイブリッド制御装置 (HCU) を主軸として妥当性評価研究を進めるほか、要求される詳細レベルに到達できるようにサブシステムの制御装置をモデル化しなければなりません。エンジン管理システム (EMS) を例に挙げると、HCUからのコマンドを受けてトルク回転を生じさせるように、燃料、気体、放電を調節します。この機能を正確にモデリングできなければ、燃費やバッテリーの充電状態の予測が大幅に逸脱しかねません。そのほかのサブシステムも複雑化に拍車をかけます。
Simcenter Amesimの動的モデルは、燃料を機械 / 電気エネルギーに変換する様子とエネルギーの流れを正確にとらえるうえで必要な物理特性を含んでいます。このモデルを使用して操舵性を評価すると、運転者が感じる自然な周波数 (0Hzから20Hz) を模したすべての要素を処理できます。このモデルにはまた、燃費予測に必要な主要コンポーネントの効率性とエネルギー損失も含まれています。コンポーネントレベルから全車両レベルまでモデルを系統的に作成し、それぞれの段階で検証を進めてから、モデルを簡素化してリアルタイムでシミュレーションを実行します。
Jae-Sung氏はさらに続けます。「Simcenterのエンジニアリング専門家との共同プロジェクトでは、HiLシミュレーションと実車両の挙動は複数の属性で高い相関性が得られました。このアプローチを使えば、性能検証を前倒しできることが分かりました。というのも、HCUアルゴリズムを設計して校正値を定義するときに傾向を素早く評価しておくと、より良い状態で物理試作を開始できるからです。」
Simcenter Amesimベースのプロセスを標準開発手法として実装したところ、現代自動車のエンジニアは、時間とコストを大幅に削減しつつ、HEVの性能改善を実現しました。Jae-Sung氏の認識はこうです。「HiLシミュレーションを実行して主要校正値を事前に定義すると、実車両試験の回数を40%削減できます。
また、エンジンに対する熱的影響、電気モーター、バッテリー、路上状態、車両の横方向の力学など、さらなる物理特性をモデルに含めるように手法を拡張し、より広範囲の試験シナリオに適用しています。」
このような環境にやさしい車両の設計プロセスを完全にデジタライゼーションすることは、現代自動車の長期的なビジョンとも合致します。現代自動車は、信頼される世界的企業としての役割と責任を果たすことと、顧客満足度の向上を社是に掲げているからです。この2つのゴールを達成するため、環境への配慮と人間志向を両立させる技術に基づいて、革新的な移動ソリューションを効果的に提供することを同社は目指しています。製品開発のデジタル変革を通じて自動車に付加価値を加えることは、当然ながら、この取り組みの一部です。
次の一歩はすぐそこです。クラウドコンピューティング、ビッグデータ解析、IoT (モノのインターネット) といったイノベーションの台頭によって、新たな技術的視点が生まれています。こうしたイノベーションはまた、現代自動車のような企業が顧客とより緊密につながること、そしてたとえば、実際の自動車利用に関する情報を個別データを含めて収集することを可能にします。
Jae-Sung氏はこう説明します。「開発とオペレーションをデジタルで繋いだスマートな車両製造は、次なる技術革新となるでしょう。自動車について言えば、さらなる性能の向上を視野に入れています。また、運転者の傾向を反映した制御ロジックを開発したり、実際の交通渋滞からその場その場の情報を収集したりすることで、エネルギー効率の改善を図ります。その意味では、自動車開発のデジタル化はより広範なプロセスを成し遂げるための一歩にすぎません。」
これこそが今日の自動車業界の目指すビジョンであり、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアが是としていることでもあります。シーメンスは、このビジョンを実現するため、製品ライフサイクル全体を通じてデジタル・スレッドを活用する環境を構成する全要素を提供しています。大局的な製品開発計画と買収を通じて、これからの近代化を成し遂げようとする顧客、いわば韓国の第二の現代自動車と呼べる企業を支援することをシーメンスは約束します。