Simcenter Amesimを使用してブドウ収穫機の緊急ブレーキを最適化

油圧システムの課題

最新の画期的な技術製品を設計するうえで、油圧システムは重要な役割を果たしています。エンジニアリング上のさまざまな問題解決に用いられる油圧システムは、特に、ステアリング・システムの快適性向上や、環境に配慮した燃料噴射レール、ブロッキング防止システムの安全性、熱回収システムの性能など、製品のイノベーションを支えています。

組み込み電子機器によってシステムの複雑化が進むにつれて、設計サイクルは長くなり、コストも増加する傾向があります。こうした状況に対応するために、今ではメカトロニクス・システムのシミュレーションの活用が標準的な手法になっています。とは言え、シミュレーションにはソフトウェアの知識だけでなく、各専門分野の知識も必要です。Fluidesignの営業およびマーケティング・ディレクター、Vincent Moulin氏は次のように説明します。「インテリジェントな油圧部品の製造に強みを持つ当社は、エンジニアリングの複雑さに対処するうえでシミュレーションの重要性を認識しています。当社は数年前からSimcenter Amesimを使い始めており、今ではシミュレーションによって最適化した堅牢な最先端製品を求める業界リーダーから信頼される立場に立っています。」

New Holland Agriculture (New Holland) が、最新の自走式ブドウ収穫機の油圧システムにイノベーションを起こすためにFluidesignを頼ったのも、このような理由からです。30年以上にわたりNew Hollandは、スイング式収穫用ヘッドや、Noria搬送システム、SDCシェーキング装置、より快適な車室など、さまざまなイノベーションを起こしてブドウ畑に特化した機械を開発してきました。こうしたイノベーションにより、New Hollandは品質、安全性、性能、効率において高い評判を得ています。同社の機械は広く受入られており、誰もが認める市場リーダーとなりました。

汚染物質の排出削減に関する欧州の規制は、内燃機関を搭載するすべての車両が対象です。ブドウ収穫機も例外ではなく、これらの規制に準拠する必要があるため、排ガスの再循環や選択型触媒還元といった新たなエンジン技術の導入が急務です。しかし、排出削減策を実施するにはコストがかり、機械の重量も増加します。

こうした問題を考慮すると、ブドウ収穫機の稼働率を高めることが1つの解決策となることが分かります。つまり、ブドウ畑との行き来に費やす時間が短ければ短いほど、機械の収益性は高くなります。そのため、収穫機により強力なエンジンを搭載して、作業現場にできる限り早く到着し、稼働時間を最適化することが重要です。

また、タールで舗装された道路の走行にも、制動距離に関する規制を始め、厳しい安全規制が設けられています。緊急ブレーキに関する規制では、制動距離と明確な認証基準が定められています。収穫機の総重量が増えると、こうした基準を満たすことがより難しくなります。規制に準拠できないと、罰金や罰則だけでなく、市場シェアの損失など、非常にコストがかかることは言うまでもありません。

そのため、New HollandはVN9040型のブドウ収穫機を規制に準拠させるために、Fluidesignに技術ソリューションの開発を依頼しました。

シャーシ全体のモデリング

システムの動的挙動を評価し、バルブ設計が緊急ブレーキに及ぼす影響を把握するために、FluidesignはSimcenter Amesim™ソフトウェアを使用しました。Simcenter Amesimは、Simcenterポートフォリオの一部であり、メカトロニクス・システムの物理シミュレーションを実施するための代表的なソリューションです。Fluidesignのエンジニアは、油圧システムや油圧コンポーネント設計、油圧抵抗、ビークル・ダイナミクスなど、すぐに使えるSimcenter Amesimライブラリを使って、シャーシ、3D路面上のタイヤの接触面、油圧トランスミッションを含むシャーシ・システム全体をモデル化しました。

可変容量形ポンプの油圧制御など、トランスミッション・システムのさまざまなコンポーネントの挙動や応答時間を測定することが、この検証には不可欠でした。この測定値に基づいてモデルを較正した後、油圧パラメーターや制御パラメーターを変えながら、緊急ブレーキに及ぼす影響を調べました。「Simcenter Amesimを使用することで、New Hollandはさまざまな負荷とトルク伝達率を迅速に特定できるようになりました。このデータを用いて、車両をモデル化してシミュレーションを実施し、さまざまなバルブを比較検討しながら、トルクと負荷の分布を調整し、ブレーキを最適化しました。」こう説明するのは、Fluidesignのテクニカル・ディレクター、Frederic Lagors氏です。

FluidesignはSimcenter Amesimを使用して、選択したアーキテクチャの妥当性を確認し、油圧回路の油圧バルブの実用化に向けて生産を開始しました。この仮想検証により、New Hollandは最適なブレーキ性能を達成する理想的なパラメーター・セットを特定できました。また、ブレーキ・アシスト用の特別なバルブを、油圧回路内で最も効率的に作動する位置に取り付けられるように設計して、緊急ブレーキを最適化することができました。この油圧流量制御バルブは、緊急時にのみ制御ユニットによって作動します。

最適なソリューションが見つかる

「Simcenter Amesim 3Dアニメーション・ツールを使用すると、シミュレーション結果がまるで実物の機械のように視覚化され、強力な解析ツールから最大限の知見を得られます。プロットやグラフを補完する完璧な機能として、結果が意味ある情報として明確に示されます。この機能を使って、さまざまな製品構成を仮想環境で迅速にテストしていくつかに絞り、さらに細かく解析することができます。」とLagors氏は言います。

Simcenter Amesimを使用したことで、Fluidesignはブドウ収穫機のシャーシ全体の物理特性をより深く理解し、油圧回路のどの部分が最も緊急ブレーキに影響を及ぼすかが分かるようになりました。流れ、圧力、時間応答など、通常は機械で直接測定することの難しい油圧現象を詳細に把握し、正確に観察することができたからこそ、効果的なソリューションを開発することができたのです。Moulin氏は次のように話します。「ほとんどの場合、求められる問題解決策は技術的に単純です。単純ではない場合に、ソフトウェアが問題の原因究明を支援します。Simcenter Amesimが最も得意とするのもそこです。エンジニアが専門分野に集中できるように支援することです。ツールの操作に時間をとらせたりしません。」

その結果、実際のテストでは不可能だったワーストケース・シナリオや極端な条件下でのケースを仮想的に評価することが可能になりました。これは、安全性を最適化するうえで大きな進歩です。Lagors氏は、「New HollandにとってSimcenter Amesimの利用は大きなメリットであり、安全性を最適化するプロジェクトにおいて、エンジニアリング検証に費やす時間を数か月間短縮できました」と話しています。

機械の問題の根本原因を追求したり、エンジニアリングによる解決策を探ったりする際、ブドウ農家は通常、畑で実際に機械を動かして測定するという従来のやり方で解決しようとします。しかし、これでは収穫機の輸送費やエンジニアリング費用、テスト用の材料など、コストがかさみます。しかも、必ずしも良い結果が得られるとも限りません。メカトロニクス・システムのシミュレーションを他社に先駆けて採用したNew Hollandは、部品開発やソフトウェアに強いFluidesignの専門知識に投資することを決め、開発プロセスの合理化に取り組みました。

プロジェクトの総コストを25%削減できただけでなく、さらに重要なことに、強力なソリューションを開発できました。緊急ブレーキ用の最も安全な技術をブドウ収穫機に搭載したことで、New Hollandはこの分野の技術リーダーとしての地位を築きました。New Hollandの使命は以前から変わらず、シンプルで効率的な機械を顧客に提供することです。Fluidesignとシーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアと提携したことで、New Hollandは、同社の技術がアクセスしやすく使いやすいものになるように、よりスマートかつ迅速な改善策を見つけることができました。