ユーザー事例

包括的なデジタルツインで高ベイ倉庫のコミッションニング時間を30%削減

Tecnomatix Plant Simulationツールを使って、目標可用性の達成時間を88%短縮したFerrero...

Using a comprehensive digital twin to reduce high-bay warehouse commissioning time by 30 percent

Ferrero

Ferrero Groupあるいは単にFerreroとしておなじみのFerrero SpAは、イタリアに本社を構える世界有数のチョコレート菓子メーカーです。

https://www.ferrero.com/

本社:
Alba, Italy
製品:
Plant Simulation, Tecnomatix
業種:
コンシューマー製品 / リテール

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世界的な存在感を誇るシーメンスの卓越した技術と優れたパーナトーシップのおかげで、われわれの作業を大幅に加速できました。次の共同プロジェクトが楽しみです。
Dietmar Lenk, エンジニアリング・ロジスティクス・マネージャー, Ferrero

容易なロジスティクス

12-50メートルの高さに数百台から数千台のパレットを格納する高ベイ倉庫は、ロジスティクス企業にとっては夢のようでもあり、悪夢のようでもある倉庫です。夢のようと言うのは、非常に大量の物品を比較的狭いスペースに保管できる点です。保管と取り出しのプロセスの機械化と自動化が進むにつれ、品物を速やかに品質の良いままで顧客に届けられるようになりました。一方で高ベイ倉庫は非常に複雑です。すべてがセットアップされ、プロセスがスムーズに進むようになるまでの道のりはさながら悪夢です。

FerreroはTecnomatix®ポートフォリオのPlant Simulationで新たな取り組みをはじめました。Plant SimulationとSIMATICオートメーションソリューションを組み合わせ、高ベイ倉庫のコミッショニングを高速化する試みです。

Tecnomatixはシーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアが提供する包括的なソフトウェアとサービスの統合ポートフォリオ、Xceleratorの一部です。

三代続く家族経営のFerrero Groupは年間売上123億ユーロを達成しています。本社は北イタリアのピエモンテ州アルバにあります。1940年、現社長のGiovanni Ferreroの祖父がこの地にペストリーショップと菓子工場を創業しました。スーパーマーケットでキンダーチョコレート (Kinder Schokolade) やキンダーチョコエッグ (Überraschungseier) を見かけると子供時代を懐かしく思い出すという人は少なくないでしょう。duploやhanutaのおまけについてくるシールのなかでもサッカーのワールドカップやUEFA欧州選手権のものなどは伝説になっています。そのほかにもMon Chéri、TicTac、Ferrero-Küsschenといった数々の有名ブランドを展開しています。

製造した商品をできるだけ速やかに流通サイクルに届けたいFerreroにとって、高ベイ倉庫は欠かせません。同社は製造と売上の間のプロセスチェーンに戦略的なノードを設けていますが、それでもコミッショニングとなると複雑で時間もかかります。アルバ本社に最近建築した倉庫など、オートメーション機能を持つ高ベイ倉庫の場合、計画から慣らし運転まで平均で25か月かかっていました。非常に多量の商品を扱うため、日々の損失は膨大なコストにつながります。

制御技術の基本

Ferreroでは、倉庫に荷物を入れる準備が整い、スタッカークレーンの棚やコンベヤーベルトが設置されてから、コミッショニングの準備をしていました。最初の工程はPLC (プログラマブルロジックコントローラー) とSCADA (監視制御とデータ取得) による制御装置のプログラミングです。プログラミング作業は建設の最終段階と平行して行われます。コミッショニングは、物流装置と制御装置を取り付け、テスト用プログラムを走らせてからでなければ実施できません。コンベヤーとスタッカークレーンとともにパレットが動くなど、非常に複雑であるため、コミッショニングは6か月もの長きにわたり続きました。

Control technology basic

必要な可用性

コミッショニングが完了した倉庫は事実上、完成したと見なされ、ERP (エンタープライズリソースプランニング) システムに接続するまでの段階で80%の可用性を確保しなければなりません。3か月かけて拡張倉庫管理 (EWM) を統合した段階で、2か月の本番立ち上げフェーズに移行します。このフェーズになるとパフォーマンス調整が始まります。輸送システム、制御システム、マテリアルフローシステム (MFS)、倉庫管理システム (WMS)、ERPのすべてをスムーズに連携させなければなりません。本番稼働開始後の6か月で98%の可用性を達成する必要があります。

仮想コミッショニング

Ferreroの技術パートナーであるシーメンスは多岐にわたるソリューションを提供しており、Ferreroもその恩恵を受けています。今回、高ベイ倉庫をオートメーション化し、PLCによるドライブ制御機能を含める案をシーメンスの複数の部署が提案してくれました。Ferreroのエンジニアリング・ロジスティクス・マネージャーであるDietmar Lenk氏は高ベイ倉庫のコミッショニング責任者です。アルバ本社の最新プロジェクトを手掛けるLenk氏のチームは、新しい試みとして仮想コミッショニングを導入することを決めました。Lenk氏の従来の専門分野はオートメーション技術でした。シーメンスが長い年月をかけて仮想化技術を開発してきたのを知っていたLenk氏は、仮想コミッショニングのためにTecnomatix Plant Simulationを選びました。Tecnomatix Plant Simulationは本来、マテリアルフローのシミュレーションを製造工場で行う目的で設計されたものですが、倉庫の流通部門の高度な要求にも適しています。Lenk氏のチームはコミッショニング時間の30%短縮という目標を掲げました。

Tecnomatix Plant Simulationには高ベイ倉庫のロジスティクスを扱うプロジェクトが含まれていなかったため、シーメンスはまず、必要な標準コンポーネントを収録したライブラリを作成しました。ライブラリを一度作成してしまえば、以降のプロジェクトにも活用できます。ライブラリの準備に9週間を要しましたが、Lenk氏は心配していませんでした。「これまでの類似プロジェクトの経験から、いくつもの変数を試すために一定の時間が必要であると理解していました。」とLenk氏は述べています。

「成果を急ぎ過ぎないことがプロセス品質の向上につながります。アルバの高ベイ倉庫のコミッショニングは8,000パレット分のスペース、4つのスタッカークレーンが含まれ、仮想サポートで13週間かかりました。実は、2019年にミラノ近郊のポッツオーロに同一の高ベイ倉庫を建築したことがありました。このときは従来の方法でプロジェクトを進めたため、より大規模なチームで19週間を要していました。つまり、時間短縮の目標はあっという間に達成できました。」

6か月から3週間に

アルバの高ベイ倉庫が操業開始してから3週間後に、欧州資材処理連盟のルール FEM 9.222に基づき、最初の可用性テストを実施しました。スタッカークレーンとラックサービングユニットを使用するシステムの受入/可用性テストにおいてはFEMのルールが標準規格とされています。98%の目標可用性に到達するのに通常は6か月かかっていたところ、3週間で達成しました。88%の期間短縮です。

仮想化のメリット

Lenk氏は次のように述べています。「Tecnomatix Plant Simulationによる仮想コミッショニングを通じて、倉庫の安定性を可視化しました。高品質で精緻な表現力を持つ包括的なデジタルツインを使用したため、予定よりもずいぶん早くに可用性目標には達していました。倉庫が完成すると、建築技術者や整備士とエンジニアが現場に集まって見守るのが常ですが、大勢があつまるとコミッショニングも容易にはいかなくなります。仮想コミッショニングを導入したことで、非常にリラックスした雰囲気のなかで楽に仕事ができています。」

「これは非常に大きな価値があります。   今までは、例えばPLCプログラマーはコントローラーの前に座り、SCADAエンジニアはホールの反対側に居るということもありました。両者は無線で連絡を取りながら調整していました。問題が発生しても、現実的な条件下で簡単に再現できるとは限りません。一方、すべてのプログラマーが1つの部屋に集まってプロジェクトを一緒に進めていく場合、すべてを1つのシステムで仮想化し、正確に再現できるので、作業が非常にしやすくなります。」

「正確なシミュレーション結果が得られるので、プロジェクトが加速し、倉庫の稼働品質が向上します。PLC制御装置を使ってすべてのオートメーション・プログラムを最適条件下でテストできました。この方法でエラーの95%を検知できたため、最終段階のストレスが大幅に軽減されました。デジタルツイン導入以前のように実世界でコミッショニングを実施していたら、制御ロジックのプログラミングが不適切だという理由のほかに物理的な誤差が加わってしまっていたでしょう。」

「物理的な誤差とは例えば、パレットの損傷やシュリンク包装の切れ端がセンサーの邪魔をするといったことです。これらの不具合の原因は複合的だったため、安全に原因を切り分けるには長い時間がかかりました。今日ではバーチャル・コミッショニングのおかげで、2か月かけてプロセスを安定させる必要はありません。このことはわれわれを非常に楽観的にさせてくれます。ベルギーのアルロンに建築予定の次の高ベイ倉庫にもPlant Simulationを採用することにしました。この倉庫には12,000パレットのスペースと5つのスタッカークレーンが含まれます。」

Virtualization advantage

現実よりも速く

Tecnomatix Plant Simulationを使用したマテリアル・フロー・シミュレーションの性能と精度は目を見張るものがありました。最終的に6,000センサーと230ドライブをマッピングしました。物理的なコミッションニングにかけられる時間には限界があったため、仮想シミュレーションで拡張しました。実際のパレットは、体積の慣性が問題になるまでの一定範囲しか加速しません。したがって、現実のパレットで全走するとなると長い時間がかかります。仮想モデルであれば加速も容易なため、テストとプログラミングを高速化します。Tecnomatix Plant Simulationを使用した結果、現実世界と比較して50,000倍のアクセラレーションを実現しました。仮想コミッショニングのPLC制御システムで以前に設定したペースは対現実比で1:1でした。Plant SimulationとPLCSIM Advancedを組み合わせることで、顧客によるオーバークロックが可能です。PLCSIM AdvancedとPlant Simulationを連携させるAPI (アプリケーション・プログラミング・インターエース) がオーバークロックのスピードを考慮に入れて両システムを同期させます。この方法でPLCコードを変更せずにシミュレーションを実行できます。

思いがけない幸運

Lenk氏はこう語ります。「われわれにとって、アルバで仮想コミッショニングを導入したことが思いがけない幸運につながりました。コロナウィルス流行の影響を受けて地域が2か月半閉鎖されていましたが、仮想コミッショニングのおかげでオートメーション機能の開発が滞ることはありませんでした。物理的なコミッショニングであれば、中断を余儀なくされていたでしょう。工程表では仮想的な受入テストを想定していませんでしたが、コロナ禍だったため仮想環境で実行できたことは幸いでした。ベルギーのアルロンで進めている次のプロジェクトでも、オートメーションとSCADA技術のオペレーター研修に包括的なデジタルツインを使う予定です。この方法はわれわれにぴったりです。というのも、これまで、本番稼働の直前にならないと研修を開始できなかったため、研修に割ける時間が非常に限られていたからです。

Stroke of luck

仮想コミッションニングを定義する

Lenk氏は注文ピッキングに対する仮想コミッショニングの定義をとても重視しています。「この倉庫の設計はほかとは違います。レイヤーモデルの形式でVDIを表現することにこだわりました。ここではERPシステムが最上位レイヤーに置かれています。仮想テストの対象となる領域としては、WMS、MFS、PLCの制御レベル、輸送/スタッカー装置の4つです。WMSシステムなどのシステムが個々のレベルで可視化されたただけでシミュレーションだと言う人たちもいました。VDI定義によればこれはシミュレーションではありません。テスト領域のエミュレーションです。VDIがシミュレーションとして定義する4つの領域はいずれも、Plant Simulationで仮想モデルを提供しており、これにはオートメーション技術、PLCソフトウェアのすべてのシステムとの通信やハードウェアのマッピングも含みます。Plant Simulationの包括的な表現力がなければ、信頼できる結果を生み出す現実的なテスト環境は生まれなかったでしょう。」

SAP EWMに照準を合わせる

アルバではいまだに専用WMSシステムを使用しています。ベルギーのアルロンで建築中の高ベイ倉庫はFerreroで通常使用しているSAP EWMモジュールもサポートすることにしました。これにはWMSとMFSが含まれます。Plant Simulationは、複数の戦略を仮想的に試すことで保管と取り出しを最適化します。応力テストも実施します。さらに、仮想保護環境にあるSAP EWMからアップデートしたソフトウェアをインポート前にテストします。高ベイ倉庫の操業には絶え間ない小さな変更がつきものですが、シミュレーションで試してから最適なバリエーションを投入できます。

ソリューションの相互作用

高ベイ倉庫の初回仮想コミッショニングが完了したことはFerreroの将来にとって意味のあることであり、大きな一歩でした。Lenk氏はこう語ります。「シーメンスが複数の領域で的確にサポートしてくれたおかげで、さらなるプロセス最適化を進めています。高ベイ倉庫の建築から技術装置、オートメーション、シミュレーションまでのすべてを1社にお任せできました。世界的な存在感を誇るシーメンスの卓越した技術と優れたパーナトーシップのおかげで、われわれの作業を大幅に加速できました。次の共同プロジェクトが楽しみです。」

Tecnomatix Plant Simulationによる仮想コミッショニングを通じて、倉庫の安定性を可視化しました。
Dietmar Lenk, エンジニアリング・ロジスティクス・マネージャー, Ferrero