Simcenterを使用してテストにかかるコストを80%削減したEnergica
Energicaは、高性能な電動バイクを開発し、電気自動車 (EV) のシステム統合も得意とする世界有数のメーカーです。イタリアのモデナに本社を置くEnergicaは、CRP Groupのサステナブルな子会社として10年以上前に設立されました。CRP Groupは、F1とNASCARレースとも密接な関わりのある、創立50年以上のハイテク企業です。
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電気自動車への移行が進む一方で、電動バイクは遅れをとっています。ユーザーが自動車とバイクに求めるものがそれぞれ異なることを考えれば、当然の結果だとも言えます。自動車で重要なことは、A地点からB地点に快適かつ安全に移動することであるのに対し、バイクで重要なのは情熱だという人もいるくらいです。ライダーは、スピード、感覚、乗るたびに味わう全体的な体験を重視します。
Energicaは、高性能な完全電動バイクのラインナップを揃えて、電動化への移行を加速させようと努めています。「バイクの愛好家にとって、バイクの音とガソリンの匂いは非常に重要です。しかし、気候変動は誰もが無視できない現実の脅威です。当社は、ガソリンバイクと同じようなパフォーマンスを大気を汚さずに実現する電動バイクを作って、新しい電動バイク愛好家を増やしたかったのです。」と、Energicaの最高技術責任者 (CTO)、Giampiero Testoni氏は述べています。
高性能なバイクを開発するには、効果的なパワートレインだけでなく、高度な空力設計が必要です。Energicaが電動バイクの開発を始めた当初は、すべての空力テストを風洞を使って行っていました。風洞を使うと、空力性能を正確に評価できますが、費用と時間がかかるのが難点でした。
Testoni氏は、同社が成長を続けるには、別の方法を見つけなければならなかったと説明しています。「市場投入期間は非常に重要です。これまでは、風洞を1年も前から予約しておき、その時点までに空力テストを開始できるようにすべての準備を整えておかなければなりませんでした。コストも重要ですが、それよりさらに重要なのは、空力最適化にかかる時間を短縮して最終製品をより早く完成させることです。電気自動車市場は、内燃機関車に比べてはるかに速いスピードで進歩しています。その速度は家電製品市場と同じです。そのため、開発時間を可能な限り短縮しなければ、市場で取り残されてしまいます。」とTestoni氏は言います。
空力開発を加速させるため、EnergicaはシーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenter FLOEFD™ソフトウェアとSimcenter™ STAR-CCM+™ソフトウェアを採用しました。Simcenterは、ソフトウェア、ハードウェア、サービスで構成されるビジネス・プラットフォームSiemens Xceleratorの一部です。
「Simcenterを選んだ主な理由は、相互接続されたあらゆるツールが揃っていることが最初から分かっていたからです。電気、機械、NVH、1Dシミュレーションなど、各領域でそれぞれ異なる製品を使用していたら、すべての結果を集約するのが非常に複雑です。Simcenterポートフォリオを使えば、これが簡単になる点が非常に魅力的でした。また、最初はSimcenterのツール1つか2つから始めて、開発プロセスが進化するにつれて他のツールを徐々に追加できる点も非常に大きなメリットです。」(Testoni氏)
Energicaのバイクモデルは、さまざまなユーザーを念頭に置いて設計されています。Energica EsseEsse9+は、主にライダーの快適性を重視したモデルのため、風がライダーの胸部に与える影響を把握することが、空力最適化の鍵となりました。
そこでTestoni氏はSimcenter FLOEFDを使用し、個々のコンポーネントを含めたバイク全体のモデルに対して、気流がどのような影響を及ぼすかをシミュレーションで確かめました。「Simcenter FLOEFDは使いやすく、3D CADとの統合性にも優れているため、複雑な形状のモデルに対してCFD解析を素早く正確に実施することができます。気流がライダーに及ぼす影響を即座に確認でき、さまざまな設計変更を試しながら、気流による悪影響を最小限に抑えることができました。」(Testoni氏)
このバイクモデルで最優先するのは快適性でした。とはいえ、パフォーマンスも疎かにはできないため、設計変更を加えることでバイクの速度が大幅に低下することは避けなければなりません。フロント・フェアリングと高めのスクリーン、ハンドガードを追加して、空気流量の速度を落とし、気流による影響を抑えたところ、ライダーの快適性は向上しました。しかし、ライダーの胸部周りで乱流が発生してしまったため、スクリーンの側面を下げ、フロント・フェアリングにエアダクトを追加するなど、さらに変更を加えて抵抗を減らしました。全体として、バイクのフロント部の面積は3.7%増加しましたが、シミュレーションによってライダーの快適性が大幅に上がることが分かりました。面積が増えたにもかかわらず、フロント部分の抵抗係数 (Cx) は0.6%しか増加しなかったため、バイクは求められている最高速度を維持できていることが分かりました。
レーシング・バイクのMotoE Ego Corsaは、パフォーマンスを優先して作られています。最高速度と効率を向上させるためには、設計が抗力に及ぼす影響を正確に把握することが重要でした。シミュレーションを成功させるには、シミュレーションのデータと風洞試験のデータとの間に直接的な相関関係がなければなりません。そこでEnergicaは、シミュレーションにSimcenter STAR-CCM+を使用して風洞を複製し、仮想環境で実際の風洞試験を再現しました。
「Simcenter STAR-CCM+が風洞を正確に再現していることを確認できたら、すぐにシミュレーションですべての設計変更をテストできるようになりました。つまり、風洞を使うために何か月も待つ必要がなくなり、テストのセットアップもはるかに迅速かつ容易になりました。より短い時間でより多くの設計案を試せるようになり、最高速度と最大効率を発揮する高性能の空力設計を実現することができました。」とTestoni氏は言います。
Energicaは、Simcenter FLOEFDとSimcenter STAR-CCM+を使用することで、開発時間とコストを削減できました。「完全なシミュレーション環境が整ったので、空力開発には風洞を使用する必要がなくなりました。バイク全体の最終検証にのみ風洞を使用します。Simcenter FLOEFDとSimcenter STAR-CCM+を使用することで、試作機の作成や風洞の予約が不要になり、何日ものエンジニアリング時間を費やしてテストをセットアップする必要がなくなったため、テスト完了までの時間は10分の1になり、コストも約5分の1になりました。」(Testoni氏)
Testoni氏は、Simcenter FLOEFDとSimcenter STAR-CCM+の最初のセットアップ段階だけでなく、その後も豊富な専門知識とともに継続的にサポートしてくれるシーメンスを高く評価しています。「シーメンスのトレーニングは一流でした。最も重要なのは、実際の現場で製品を使用した経験のあるエンジニア自身から教わることができた点です。単に理論を説明するのではなく、自ら同じ経験をし、私たちと同じ問題に直面した立場で助言してくれます。」(Testoni氏)
Siemens Xceleratorのツールをさらに追加するため、Energicaは最近、シーメンスとの契約をさらに3年更新しました。「シミュレーションは、今やEnergicaの開発プロセスにおいて重要な役割を果たすようになりました。今後もシーメンスと連携しながら、Simcenter AmesimやNXなど、Siemens Xceleratorに含まれるツールをさらに追加し、製品の改善につなげていきたいと考えています。」(Testoni氏)
これは、Energicaがバイク以外の市場に参入する際にも役立ちます。「Siemens Xceleratorポートフォリオのツール利用をさらに増やすことは、新しい事業部であるEnergica Insideにとっても非常に重要です。Energica Insideは、当社の経験と技術を、電動トラクターやゴーカート、小型飛行機、ボートなどのバッテリーやパワートレインといった、さまざまな市場に活かすために立ち上げた部門です。シミュレーションを使用して時間とコストを節約すれば、それだけ優れた製品をより早く市場に投入し、顧客のニーズを満たせるようになるでしょう。」(Testoni氏)