ユーザー事例

シミュレーション・プロセスの自動化により、自動車設計ワークフローを効率化

Simcenter 3DとNXを統合したプロセスによって、コンポーネントのシミュレーション時間を80%短縮したデンソー

シミュレーション・プロセスの自動化により、自動車設計ワークフローを効率化

デンソー

株式会社デンソーは、世界的な自動車部品メーカーです。自動車用部品とシステムのプロバイダーとして、世界第二位の売り上げ規模を誇ります。2022年の連結純売上高は451億ドルでした。デンソーの中核技術は、電動化、コネクテッドカー、先進安全機能、自動運転、ファクトリー・オートメーション/農業技術です。

https://www.denso.com/global/en/

本社:
愛知県刈谷市, Japan
製品:
NX, Simcenter 3D Solutions, Teamcenter
業種:
自動車 / 輸送機器

共有

NX CADとSimcenter 3Dの統合プロセスとCAEテンプレートを使用することで、われわれのCAE解析時間は80%短縮しました。
近藤 憂一氏, プロジェクト・アシスタント・マネージャー, デンソー

自動車業界が模索するイノベーション

大手自動車メーカーがすべての部品を自社で製造していた時代は過去のものです。今日の自動車OEMはどの国であれ、世界中の何百もの企業から部品の供給を受けています。自動車関連の企業は長年にわたり、各社独自の方法でエンジニアリング自動化を進めてきました。

自動車用部品とシステムのメーカーとして世界第二位の売上高を誇るデンソーコーポレーション (以下、デンソー) も例外ではありません。デンソーは1949年にトヨタのグループ会社として設立され、現在は独立系の自動車部品サプライヤーとしてほぼすべての主要OEMに部品を供給しています。また、家庭用暖房機器や産業用ロボットといった市場にも進出しました。フォーチュン・グローバル500社に名を連ね、世界中に200以上の連結子会社を所有する同社は、世界最大級の自動車ブランド各社から信頼されるサプライチェーン・パートナーです。デンソーはまた、電気自動車やハイブリッド車の研究開発 (R&D) においても自動車パートナー企業と緊密に連携しています。

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色分けされたCADジオメトリ

ボトルネックはシミュレーションにあり

今日、自動車部品の設計とシミュレーションでいかに生産性を向上させるかが課題です。ソフトウェア・ソリューションが登場する以前から、設計者はジオメトリの作成にのみ携わり、性能の試験と検証はアナリストにゆだねていました。しかし、シミュレーションチームは常に設計チームよりもはるかに小規模であるため、シミュレーション作業が開発プロセスのボトルネックになっていました。

近年はコンピューターの性能やソフトウェアの進歩により、プロセスが効率化しつつあります。どの解析ソフトウェアを使用しても、複雑な解析を数日ではなく、数時間で終えることができます。しかし依然として、設計チームとシミュレーションチームとの間で複数回のやり取りが発生しています。より良いシミュレーション結果を得るために、アナリストがモデルを精緻化したり、設計者に形状変更を依頼したりすることは珍しくありません。シミュレーションがボトルネックになると、部品や製品の複雑さにもよりますが、各サイクルに数日または数週間かかる可能性があります。

デンソーでプロジェクトアシスタントマネージャーを務める近藤 憂一氏はこう述べています。「製品設計プロセスのなかでもCAEの長さが問題です。コミュニケーションに多くの時間がかかっています。」近藤氏は、解析依頼をまとめる、データをCAEシステムに転送する、質問に回答する、シミュレーション・モデルを作成、実行する、解析レポートを出力する、それを設計案に反映させるといった一連の作業のなかで、設計チームとCAE (Computer Aided Engineering) チームの間のやり取りが進まないことに言及しています。最適な設計案に到達するまでには通常、設計案に何度か手を加え、複数回のテストが必要となるため、CADとCAEの間のデータ変換が繰り返し発生します。ここがボトルネックになることに企業は長年、悩まされてきました。

早い段階に設計者自身が基本的なシミュレーションを実行できれば、シミュレーションチームはより難易度の高い解析に時間を費やすことができます。

対応策を求めて

デンソーは長年、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアをパートナーに選び、設計と製造にNX™ソフトウェアを、シミュレーションにSimcenter™ソフトウェアを使用してきました。NXとSimcenterは、ソフトウェア、ハードウェア、サービスのビジネス・プラットフォームであるSiemens Xceleratorに含まれています。

NXは複数の設計領域を連携させ、設計意図を維持できる統合ツールセットであり、コンセプト設計から製造まで、デンソーの製品開発のあらゆる側面をサポートします。またデンソーは、シミュレーションにSimcenter 3Dを使用しています。Simcenter 3Dは複合領域を包括的に網羅する統合型シミュレーション・ソリューションです。Simcenter 3DとNXのプラットフォームは共通です。

シーメンスのツールを活用することで、設計と解析の2つの領域を行き来する従来のワークフローを効率化し、複数の設計領域を結びつけることができるかもしれないと、デンソーは考えました。コンポーネントの設計と解析は特に、シミュレーション・プロセスがルーチン化しているため、高い効果が期待できます。新たなワークフローでデンソーが目指したのは、反復作業を減らす、または無くすことでした。

統合プラットフォームによる手法

Simcenter 3DとNXは同じプラットフォームを共有しているため、CAD環境とCAE環境の間でシームレスにデータを受け渡しできます。シミュレーション・モデルが設計ジオメトリに関連付けられているため、上流で設計ジオメトリに変更が加えられても、シミュレーション・モデルを簡単に更新できます。CADデータとCAEモデルを連携させたことで、部品データの変換、チーム間のコミュニケーション、反復処理によるドキュメント生成などにこれまで費やされていた多くの時間を短縮できました。

設計ワークフローの改善を達成したデンソーは現在、さらなるイノベーションに取り組んでいます。それはNX CADとSimcenter 3Dを統合したプロセスの開発です。アナリストはシミュレーション・プロセスに精通しています。場合によっては何度もシミュレーションを反復しなければならないコンポーネントもあります。シミュレーションチームがモデリングとシミュレーションのベストプラクティスを取り込み、それをシミュレーション・テンプレートとしてパッケージ化しておけば、設計者がNXでそのテンプレートを使用できます。シミュレーション・テンプレートを使ってCAEデータを生成するためには、事前に設計者による一定のデータ入力が必要です。

これまでは、設計者がまずNXでモデルを作成していました。幅狭のブレンドや制約条件が固定のモデルなど、モデルの重要なジオメトリ部分を設計者が色分けします。部品パフォーマンスを解析する準備が整ったら、設計者自身が有限要素法 (FEM) テンプレートを適用すると、テンプレートのルールに基づいてFEメッシュが自動で処理されます。
ジオメトリが色分けされているため、品質の高いメッシュを生成できます。

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シミュレーション・テンプレートで定義した荷重条件と境界条件を含めた完全なシミュレーション・モデル

設計者は次にシミュレーション用テンプレートを適用します。このテンプレートも、適切な境界条件とパラメーターが正しく設定されるように、ジオメトリが色分けされています。

その後、設計者がモデルのシミュレーションを実行すると、解析結果が表示されます。解析結果に基づいて、荷重を小さくする、そのほかの性能特性を改善するなど、設計者がジオメトリを変更するとすぐにシミュレーションを再実行して結果を確認できます。モデルの色分けが終わっているため、追加の作業は必要ありません。後続の反復解析はより高速に行えます。

「これこそがNX CADとSimcenter 3Dを統合したことの大きな利点です」と近藤氏は語ります。色分け情報はモデリング履歴の一部であるため、設計作業中は非表示にしておくことも可能です。シミュレーションを実行するタイミングで設計者が再度、色分け表示を有効にできます。近藤氏は続けます。「色分け情報の表示と非表示を切り替えることができるため、とても分かりやすく、再利用も簡単です。」

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色分けルールに基づいて、FEMテンプレートから生成されたFEメッシュ

統合プロセスを拡張

Simcenter 3DとNXの統合プロセスは、アセンブリにも適用できます。初期のテストでは、1つのアセンブリに30以上のコンポーネントが含まれていました。目指していたのは、モデルを準備し、線形静解析を実行することです。アセンブリを構成するコンポーネントの1つ1つに、色分けされたジオメトリ部分が複数含まれることから、アセンブリ内のジオメトリ総数が膨大になる可能性があります。ジオメトリが色分けされているため、シミュレーション・テンプレートは、アセンブリ全体のメッシュ、境界条件、パラメーターを正しく設定できます。テンプレートを使用することによるスケールメリットはここにあります。

デンソーは、半自動テンプレート・システムを使用して、基本的なシミュレーションと解析のモデルを準備する設計者をガイドできれば大きな利点になると考えました。設計者が色分けを一度設定しておくと、シミュレーションで繰り返し使用できます。かつては設計者が色分けするのではなく、アナリストが手動でシミュレーション・モデルを編集しなければなりませんでした。現在は、すべての詳細がテンプレートに取り込まれ、自動化されているため、色分け部分が多くなれば、それに比例してより多くの時間を短縮できます。「より多くの色分けを行うと、それだけ時間の短縮効果も大きくなります」と近藤氏は述べています。

デンソーの推計では、プロセスを統合したことでデンソーは平均の解析時間が最大80%短縮されました。部門間のファイル共有やその他のコミュニケーションを少なくすれば、おのずと人的ミスが少なくなります。デンソーはまた、プロセス統合により、設計上の問題を早期に検出し、プロジェクトの序盤で修正できるため、品質の向上に繋がったことも認識しています。

「NX CADとSimcenter 3Dの統合プロセスとCAEテンプレートを使用することで、われわれのCAE解析時間は80%短縮しました」と近藤氏は述べています。

シミュレーション・データ管理のその先へ

今後を見据え、デンソーは、プロセス統合をデータ管理とライフサイクル管理にも広げる取り組みに着手しました。同社は、Siemens Xceleratorビジネス・プラットフォームのTeamcenter®ソフトウェアをすべての設計データ管理に使用しています。プロセス統合前は、マスターモデルをTeamcenterに保存しながらも、アナリストは別のシステムでデータを保存および管理していました。別システムでは、シミュレーション内部のCADデータやシミュレーション・データの追跡が不可能でした。

近藤氏は続けます。「このプロセスには、2つの大きな問題がありました。まず、TeamcenterからCADデータをエクスポートして、再度Teamcenterにインポートする時間と工数がかかることです。」ジオメトリデータがシミュレーションに適しているかどうかをアナリストが確認しなければなりません。また、CADバリアントのデータを手作業で追跡する必要もありました。チームのメンバーが変わると大抵は、シミュレーション・モデルを作り直さなければなりません。

近藤氏はこう述べます。「データはそれぞれのアナリストが個別に管理しているため、別のアナリストが作成したCAEデータにアクセスできません。したがって、後任のアナリストは、設計変更のたびに前任者のCAEデータを作り直す必要があります。」

新しいワークフローは、シミュレーション・データと関連テンプレートなど、すべてのバージョンのデータをTeamcenterに保存します。そうすることで、解析のたびにCADデータをエクスポートおよびインポートする必要がありません。

Teamcenterにはほかの利点もあります。ホスト用ソフトウェア (NX、Simcenter 3Dなど) がなくても、JT™データ形式で速やかにモデルを表示できます。JTファイルは、元データと比べてサイズが小さく、50分の1程度のサイズになることもあります。そのため、NXやSimcenter 3Dを常時使っているユーザでなくても、設計レビューを迅速に行うことができます。

デンソーは、NXとSimcenter 3Dの統合プロセスを立ち上げるとともに、新しいワークフローをTeamcenterに拡張する取り組みも進めています。早期に統合したサイトでは時間の短縮と品質の向上という効果がすでに見られており、新たに導入するサイトでも同様の効果を同社は期待しています。