Simcenterを使用して船舶エンジニアリングのエコシステムを構築したCETENAとジェノバ大学
CETENAは、海軍および海運分野の研究とコンサルティングを専門とするFincantieriグループの子会社です。CETENAは1962年以来、国内外の研究活動に従事し、造船所、船主、海軍、および大学向けの研究や、コンサルティング、技術支援を行ってきました。
MSCのExplora 1やSeven Seas Grandeurのような人気客船の建造には、多くの工数が費やされています。
こうしたユニークなプロジェクトの規模と複雑さは、気が遠くなるほどです。まず、船舶の設計や船体の統合など、昔からの造船技術の問題があります。次に、構造力学、振動音響、全体的な性能、燃料効率、新しい推進方法、最適化、海上公試、認証など、より高度な概念が加わります。これらすべての微妙な違いを管理するには、エンジニアリングの専門知識が必要です。
CETENAはFincantieriグループの子会社で、海軍・海事産業の研究とコンサルティングを専門としています。CETENAは1962年以来、国内外の研究活動に従事し、造船所、船主、海軍、および大学向けの研究や、コンサルティング、技術支援を行ってきました。CETENAは、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアおよびジェノバ大学とパートナーシップを結び、イタリアのジェノバ周辺の船舶エンジニアリングのエコシステムを支援しています。
最適な数値流体力学 (CFD) ソフトウェアを探していたCETENAは、同社のプロジェクトにSimcenter™ STAR-CCM+™ソフトウェアを採用することを決定しました。CETENAの上級造船技師であるDavide Grassi博士も大賛成でした。Simcenterソフトウェアは、ソフトウェア、ハードウェア、サービスのビジネス・プラットフォームであるSiemens Xceleratorに含まれています。
Grassi氏は次のように述べています。「新しいプロジェクトにはまず、Simcenter STAR-CCM+を使用しています。というのもこのソフトウェアによる技術的なサポートがどうしても必要だからです。船の進水プロジェクトもまさにそうでした。当社はオープンソース環境のツールも使用しますが、流体力学的問題のほとんどに対してSimcenter STAR-CCM+を基準ソフトウェアとして使っています。」
数年前、Grassi氏のチームは、造船シミュレーションにおいて見過ごされてきた問題である、本格的な船舶の進水に取り組みました。
軍用船や商船は大型化が進み、コストが大幅に増加しているため、最終的な完成品の安全な進水を保証することはきわめて重要です。
Grassi氏はこう言っています。「大型で背の高い新型船舶の進水にあたり、古い設備や時代遅れの方法を使用する造船所は、望ましくありません。失敗する可能性のある箇所はたくさんあります。船があまりにも遠くまでスライドしてドックにぶつかったり、沈みすぎて底にぶつかたりするかもしれません。さらに、自由表面効果が構造安定性に及ぼす影響や、最初の接触時の船体の抗力抵抗や船体からの波の影響があります。
Simcenter STAR-CCM+による船舶進水手順のCFDシミュレーション。
このような事態を防ぐために、チームはFincantieriのために進水船舶と、船台、進水プロセスの物理特性に基づいたデジタルツインを作成することにしました。開発プロセス全体を通して、チームはSimcenter™のエンジニアリングおよびコンサルティング・サービスを利用して、ツールを改良し、数値モデルの複雑な側面を解決しました。
包括的なデジタルツインにより、さまざまな設計判断の影響を事前に確認し、進水プロセスを検証し、潜在的な問題を修正し、船舶の安全な運航を保証することができます。
Grassi氏はこう述べています。「Simcenterシミュレーション・ツールを使用することで、今後の船舶の進水について貴重な知見を獲得し、さまざまな設計案による効果を解析できます。
Simcenter STAR-CCM+は忠実度の高いツールです。われわれはシミュレーション結果と実際のデータを比較したので、確信を持って言えるのですが、シミュレーション結果と実際のデータでは、精度にわずか1%の差しか見られないことがわかりました。つまり、Simcenterを使用すれば、操船を99%の精度で実行できるスマート・シミュレーターを作成できるのです。このため、船舶の進水などのリスクの高いアプリケーションのシミュレーションについて、Simcenter STAR-CCM+を信頼しています。」
CETENAチームとジェノバ大学の専門家は最近になって、新しい電気推進システムに関連した船舶性能の新たな問題を調査するためにSimcenterの別のツールを導入することを決定しました。
ジェノバ大学造船海洋工学部のMichele Martelli教授は、卒業研究プロジェクトでSimcenter Amesim™ソフトウェアを使用して、クルーズ船の1自由度 (DOF) の動的モデルを作成しました。エンジニアリング・チームはSimcenterを使用することにより、メカトロニクス・システム性能を仮想的に評価して最適化し、設計の初期段階から適切な選択を行い、要件を満たすことができました。同チームは、最終的なSimcenter Amesimシミュレーターを仮想ベンチマークとして使用し、クラッシュ・ストップなどの難しい操船において、電気推進計画の制御ロジックを試験することに成功しました。
Martelli氏はこう言っています。「衝突を防ぐためにクラッシュ・ストップ操作を使用しています。全速力で前進している船を停止して、推力を逆転させます。これは非常に困難な操船であり、船舶の制御システムによって適切に管理されなければ、危険だったり、損傷したりする可能性があります。」
リスクを回避するための最良の選択肢が船舶制御システムの仮想化であることは明白です。Martelli氏に指導を受けている修士生の一人は、CETENAのベンチマークデータを使用して、電気推進制御ロジックを試験するための信頼性の高い船舶モデルを簡単に開発しました。
「この学生はSimcenterの使用経験がありませんでしたが、数か月間で非常に優れたシミュレーターを開発できました。」とMartelli氏は語りました。
Simcenter Amesimを使用して学生が作成したシミュレーターは、業界の実験データとほぼ完全に一致しました。つまり、このシミュレーターによって、さまざまな操船時の制御ロジックを確実に試験できる、ということになります。
CETENAの船舶エンジニアであるGuglielmo Sommariva氏は、この論文プロジェクトの間、社会人メンターを務めました。彼は、電動船の開発に上流シミュレーターを使用することの重要性をすぐに指摘しました。
Sommariva氏によると、「クラッシュ・ストップ操作は、設計プロセスの初期段階では未知の自動パラメーターに依存するため、シミュレーションが非常に困難です。
特に新しい推進システムは、当て推量で開発され、制御ロジックや、波や風力などの外部要因は考慮されません。設計プロセスの初期段階で、より正確なシミュレーターが必要であることは明らかであり、Simcenter Amesimを使用してシミュレーターを作成しました。Simcenter Amesimとその検証済みライブラリを使用することで、ユーザーはパラメーターをすばやく変更し、さまざまなシナリオを試し、結果を素早くビジュアル化することが容易になります。」とのことです。
Andrea Gambino氏は機械エンジニアであり、CETENAチームの新しいメンバーとして、高度な安全シミュレーションに取り組んでいます。Gambino氏のチームは、耐航解析、弾道衝撃解析、衝撃応答スペクトル解析、1次元流体力学解析など、複数のシステムレベルのプロジェクトにSimcenter Flomaster™ソフトウェアを使用しました。
彼はクルーズ船の安全性に関する特定のプロジェクトに取り組み、Simcenter Flomasterを使用して、クルーズ船に設置された自動スプリンクラーのノズルに入る水の流体力学的圧力を評価しました。
Gambino氏は、「これらのノズルは最小の水圧で適切に動作する必要があるため、このシステムのシミュレーションは非常に重要です。船舶システム全体が正常に機能するかどうかを確認し、評価する必要があります。
このようなプロジェクトでシミュレーションを使用しない場合、ほかに考えられる唯一のやり方は、物理プロトタイプを作成してシステムを試験することですが、どう考えても、実用的とは言えません。
Fincantieriでは、国際安全基準で要求されている実際の船内システム試験を実施していますが、Simcenter Flomasterのシミュレーションを使用して、実際のライブテストですべてが計画どおりに進むように準備できるのは素晴らしいことです。 」と語りました。
また、Gambino氏は「Simcenter Flomasterを使用することで、困難な非線形問題を正確に解決できます。完璧な組み合わせだと言えるでしょう。数学とこのようなオブジェクト指向プログラミング手法をすべて自分で作成したとすれば、スプリンクラーを仮想的にテストするためのまともなシミュレーション・プログラムを書くのに、丸1年はかかるでしょう。」と述べています。
Simcenter Amesimに含まれるポッド推進船のダイナミック・シミュレーター。
何千時間にもわたる設計、開発、高度なエンジニアリング、統合、キャビン設計、そして性能シミュレーションの頂点に位置するのが海上公試です。
海上公試とは、認証や船主への納入に先だって造船企業が海上で行わなければならない必須の試験です。その主な目的は、最高速度、操縦性、機器、安全特性をチェックして、船舶の性能を限界まで押し上げることです。
クルーズ船の海上公試は平均して約8日かかるため、海上公試はコストも重要性も高いことは想像がつきます。このため、海上公試はできるだけ効率化する必要があります。
「デジタル・シミュレーションに移行していても、曳航タンクのモデルであろうと、海上公試中の船舶全体であろうと、物理試験がなくなることはありません。」と語るのは、CETENAのプラットフォーム・エンジニアリングおよびリサーチ担当マネージャー、Matteo Codda氏です。
Codda氏は続けて、「船主は、船が契約した性能特性に適合していることを確認したいと考えています。海上公試は、数値モデルを検証するための最良の方法ではありません。なぜなら、環境は制御も予測もできないからです。海上公試で唯一予測できることは、多額の費用がかかるということです。」と述べました。
今日では、標準的なスポーツボートから大型クルーズ船や軍用船まで、あらゆるタイプの船で海上公試が使用されています。乗組員は、数時間から数週間 (軍用船の種類によっては数か月) かけて船に慣れ、基本的な耐航性や操縦性から、燃料効率、排出量、騒音と振動の限界、最高速度、さまざまな安全機能などの性能指標まで、すべてを確認します。
クルーズ船での平均的な海上公試には約8日かかります。
CETENAの試験および海上公試の専門家であるFederico Gaggero氏は、2005年からSimcenter Testlab™ソフトウェアとSimcenter SCADAS™ハードウェアを使用しています。
CETENAの試験チームは、今も衝撃試験時の加速度測定から海上公試データの取得、船内音響試験に至るまで、さまざまな試験シナリオに、このSimcenterのソフトウェアとハードウェアを使用し続けています。
シーメンスのトークン・システムはなかでも、さまざまな用途でソフトウェアを柔軟に使用できると高く評価されています。
Gaggero氏は次のように話しています。「このトークン・システムにより、Simcenter Testlabで特定のモデルのオン/オフを切り替えられます。Simcenterの試験システムを非常に柔軟に使用できます。試験回数を増やしたり、顧客にいくつもの試験データを提供したりできます。
当社の作業の99%は、Simcenterの試験ツールを使用しています。結果の信頼性が高く、トリノオフィスのSimcenterのエキスパートとオンライン・ヘルプからしっかりしたサポートを受けています。
試験中に助言が必要になることはありますが、Simcenterのテクニカル・サポート・チームが常に問題の解決を支援してくれるので、海上公試で海に出ているときや、顧客から求められた非常に困難な試験を実行しているときでも、試験を続行できます。
船を方向転換し、港に戻って最初からやり直したり、最終的にあきらめたりすることを考えたらはるかに良いことです。Simcenterのテスト・ソリューション全体とテクニカル・サポート・チームは本当に素晴らしいです。」
シミュレーションとテストのすべてが相関しているため、最終的な海上公試は成功しました。
Codda氏はこう話しています。「船がまだ建造中であったり、完成していなかったりする場合に、海上公試の結果を推定するためにシミュレーションを使用することがあります。これらは、クラッシュ・ストップ試験のような操船中に船舶がどのように機能するかを示す性能指標です。
われわれは、造船材料に関するサプライヤーの要件から、船舶の認証、船主の要件、および軍の基準に従った最終的なシステム性能まで、すべてを詳細に検討します。」
CETENAのチームは、実験的な測定と試験により、シミュレーションと数値のモデルを検証することが重要であると考えました。
造船業界では、シミュレーションと試験の専門家が社内で緊密に連携することは非常にまれです。Codda氏のチームは、Fincantieriの研究センターで働いているため、連携できることを幸運に感じています。研究センターでは、船舶や、試験データ、検証済みのシミュレーションに直接アクセスできます。
Codda氏は、「複合領域シミュレーションと正確なデジタルツインが未来の姿だと確信しています。われわれは常に、より高度なシミュレーション・シナリオを必要とする、複雑な船舶を建造しています。さまざまなシミュレーションを統合して相互運用し始める際に、同じポートフォリオ内でシミュレーションとテストの両方が完結することは、大きなメリットです。」と述べています。
彼は最後に、「もちろん、これらすべての異なるシミュレーション領域をどのように統合するかは、実験的な試験と検証プロセスと同様に、私にとっての重要事項です。モデルが正しいことを確認するために、現場からのフィードバックがさらに必要になるでしょう。一般的に、シミュレーションとCAEは比較的正しいです。設計者は、ある決定が別の決定よりも優れているかどうか理解できますが、この情報を定量的に把握することは別の問題です。」と語りました。