ユーザー事例

チューブポンプの効率を改善して、試作サイクルを短縮

シミュレーションを使用して時間を短縮し、コストを削減し、生命を維持するポンプを市場に投入

B&W Engineering

B&W Engineeringは、ハードウェア、ソフトウェア、機械、システム・エンジニアリングを含む医療機器全般を開発する専門企業です。

https://buw-engineering.com/

本社:
シュトゥットガルト, Germany
製品:
NX, Simcenter 3D Solutions, Simcenter STAR-CCM+
業種:
医療機器 / 製薬

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Simcenter STAR-CCM+には必要なツールがすべて揃っているため、これらの困難な予圧プロセスと計算を実行することができました。
André Gasko氏, シミュレーション・エンジニア, B&W Engineering

医療機器全般のコンサルティング

B&Wエンジニアリングは、医療機器全般を開発し、コンサルティングとサービスを提供しています。B&W Engineeringの経営陣の1人であるJoachim Schütz氏は、次のように述べています。「ハードウェア、ソフトウェア、システム・エンジニアリングに及ぶノウハウを持つ当社は、イノベーションを重視しています。私たちの目標は、新しいテクノロジーと効率的なプロセスを進歩させることです。お客様のニーズを最優先に考えています。」

優れた生命維持ポンプの設計

チューブポンプの設計原則は、一見単純に見えるかもしれません。ローラーがチューブを圧迫し、液体を送る蠕動力が発生します。医療用の場合、動作条件に対する非常に厳格な公差と規制要件があり、設計を困難にしています。流量は一定かつ正確でなければならず、逆流は許容可能な安全マージン内に制限されます。B&W Engineeringの最近のプロジェクトでは、静脈内注射および非経口注入、ならびに非経口栄養法に使用される生命維持チューブポンプの設計を改善することが求められました。

B&Wエンジニアリングには3つの目標がありました。第1に、この医療用チューブポンプの以前のモデルよりも、精度の高い駆動装置を開発することです。第2に、競合他社よりも低速でのドラッグ・デリバリーを提供したいと考えていました。これには、新しい輸液ポンプシステム設計を取り入れ、送達精度の向上に焦点を当てる必要があります。第3の目標は、前回のプロジェクトよりも迅速に市場に投入することでした。「理論的なアプローチとシミュレーションを使用して、このプロジェクトを設計サイクル1回のみで完了したいと考えました。」とSchütz氏は語ります。B&W EngineeringはSimcenter STAR-CCM+™ソフトウェアとNX™ソフトウェアを使用して、ポンプ設計に関する重要な知見を取得し、それに従ってポンプの設計と性能を改善することができました。Simcenter STAR-CCM+とNXは、ソフトウェア、ハードウェア、サービスを統合した包括的なポートフォリオであるSiemens Xceleratorに含まれています。

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内部の電子部品の拡大画像。防水保護規格に準拠して密閉されています。

温度がバッテリーの再充電に影響

ポンプのモーターは、他の電子部品とともに熱を発生させ、機器のハウジング内の温度を上昇させます。仕様では内部の最高温度を60°Cまでに制限しており、それを超えるとバッテリーの再充電容量に悪影響が及びます。
長時間の停電が発生した場合、バッテリーがフル稼働するために少なくとも2時間の充電が必要になります。したがって、バッテリーの再充電容量に影響を与えることはできません。

「設計の検証とは、最悪のシナリオを考慮することです。動作周囲温度と電力損失が最大であっても、バッテリーの再充電容量が影響を受けないことを、検証で確認したいと考えていました。」と、B&W Engineeringのシミュレーション・エンジニアであるAndré Gasko氏は述べています。

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表示装置や主要電子部品と一体化されたチューブポンプ取り付けシステムを示す内部部品の画像。

防水保護が妨げる熱の放散

この機器は、「どの方向から筐体に水が飛散しても有害な影響がない」とされる、国際電気標準会議 (IEC) の防水保護 (IP) 等級IPX4を取得する必要があります。そのため、ハウジングを周囲環境から密閉する必要があり、熱放散がより困難になります。「ハウジング内の温度を60°C未満に保つことには、
いくつかの課題があります。特に、火傷を負った患者の治療にポンプを使用する場合は、部屋の温度が40°Cに設定されていますから。」とGasko氏は語ります。設計を改善するにあたって、流体と熱の挙動を理解することが
鍵でした。

「Simcenter STAR-CCM+を使用することで、ポンプのシミュレーションに必要なすべての流体/熱/電磁
解析が可能になりました。」とGasko氏は述べています。

B&W EngineeringはNXを使用して、ハウジング、表示の枠組み、ホルダー、および内部の固定部分を開発しました。放熱率を改善するために設計を変更した点は、ハウジングの厚さを3ミリメートル (mm) から2.5ミリメートル (mm) に減らすことでした。Simcenter STAR-CCM+を使用したことにより、再検討の際に全体の温度を減少させることができました。

Gasko氏によると、「すべてが1つのモジュールにまとまっているため、プロパティを変更したり、モデルの最適化を実行したりする時間を大幅に短縮できました。他のソフトウェアと比較して、Simcenter STAR-CCM+を使用したことは、私たちにとって大きなメリットがありました。総合的なテクニカル・サポートを提供するソフトウェア・プロバイダーであることも、重要なポイントであり、シーメンスとのパートナーシップは正しい選択でした。」とのことです。

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Simcenter STAR-CCM+による温度結果。この動作ポイントでの
バッテリーの最高温度は57°Cで、最大許容値を下回っています。

チューブのシミュレーション

ポンプが液体を流す力を生み出す一方で、チューブは薬物の送達に重要な役割を果たします。流体構造連成解析の課題の1つは、チューブを元の形状からチューブポンプ内での最終的な形状に変形させる必要がある予圧段階です。変形の最後でチューブがローラーによってマウントに押し付けられるとき、時間ステップが収束を達成するのに十分でなければなりません。

当初はこの作業を試行錯誤しながら行っていました。Simcenter STAR-CCM+を使用することで、チューブが完全に押されたときの最大に変形した状態に対して、収束に問題ない、十分な大きさの時間ステップを定義できました。予圧プロセスでは、張力がないように、チューブの両端をポンプの方向に内側に曲げる
必要がありました。また、どれほど曲げるかを計算の開始前に定義する必要がありました。これにより、このプロジェクトの設計において、重要な側面であるドラッグ・デリバリー速度の正確な予測が可能になりました。

この計算のもう一つの課題は、チューブが押されたときに流体領域内の小さな隙間が変形することです。メッシュは、チューブを押すロールの曲率を取り込むのに十分な細かさがあると同時に、反復時間を長くできるほど粗い必要がありました。

Gasko氏は次のように語っています。「Simcenter STAR-CCM+には必要なツールがすべて揃っているため、これらの困難な予圧プロセスと計算を実行することができました。Simcenter STAR-CCM+は、超塑性材料での流体構造連成問題の計算や、
混相計算を非常に安定して行えます。」

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回転速度25rpmでのチューブポンプの流体構造連成解析。解析は、チューブ内で逆流を可能にする隙間を作成するメカニズムの製作公差を考慮して行われ、後に最適化されました。

試作サイクルの削減

B&W Engineeringは、設計プロセスを合理化し、シミュレーションを活用して、市場投入期間を短縮し、コストを削減しようと試みていました。ところが、1回の試作費用は8万ユーロ (約1183万円) 以上かかる場合があります。NXとSimcenter STAR-CCM+を使用することで、B&W Engineeringの希望が実現しました。

Schütz氏は、「試作サイクルを減らし、サプライヤー間の調整を行う必要がありました。重要な公差を個別に解析できるため、精度が向上し、最も関連性の高い問題に注力できました。これらすべてがコスト削減と精度の向上につながります。」と語っています。

Gasko氏は、こう述べています。「この新世代のポンプは、当時販売されていた他のポンプと比較して、最低速でのドラッグ・デリバリーを達成し、デリバリーの精度を3%向上させました。」

医療機器の需要は増加し続けています。コストを低く抑え、精度を高く保ちながら、より迅速に市場に投入しようとすると、課題が一層困難になります。B&W EngineeringはSimcenter Star-CCM+を使用して、その課題に対処し、明日の救命装置のためのイノベーションを創出しています。

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蠕動運動のドリップ・チャンバーへの影響を調べる混相シミュレーション。蠕動挙動は、チャンバー内の液滴生成の速度に影響を与える可能性があります。これにより、ポンプに表示される実際の体積流量値との不一致が発生する場合があります。

Simcenter STAR-CCM+を使用することで、ポンプのシミュレーションに必要なすべての流体/熱/電磁解析が可能になりました。
André Gasko氏, シミュレーション・エンジニア, B&W Engineering