Simcenterソリューションを使って高度な音質エンジニアリングと効率的な製品開発を実現したBSH
BSHの振動・音響部門は、Robert Boschの8つの部門にサービスを提供しています。研究センターは、ミハロフツェにあるBSH Drives and Pumpsで製造する電気モーターの音響・振動性能を担当しています。BSHが主要ブランドのBoschやSiemensとして製造している家電の数は、電気モーターの数と同じ年間1400万台です。
洗濯機や食器洗い機、冷蔵庫はそれぞれの機能を静かに、人目を引くことなく果たすのが当然と思われています。こうした家電を選ぶときに消費者が気にする主なポイントは、衣服をきれいに洗えるか、お皿の汚れがとれるか、食材がよく冷えるかであって、家電メーカーが最適な騒音・振動レベルを実現しようと競い合っていることなど、考えも及ばないでしょう。家電メーカーのBSHは、Simcenter Testlabを使って製品の音響・振動試験を最適化しています。BSHの振動・音響部門長、Otto Petraška氏は、「振動・音響パラメーターの重要性は年々高まっています。一部の製品では、連続生産を中止する判断基準にさえなっています。」と話します。
スロバキアのコシツェにあるBSHの振動・音響部門は、ミハロフツェにあるBSH Drives and Pumpsで製造する電気モーターの音響・振動性能の試験を担当しています。
2004年に設立した振動・音響部門は、BSHが主要ブランドのBoschやSiemensとして製造している家電の騒音・振動を最適化するサービスを提供してきました。部門内に16人の専門家を擁し、これ以外にRobert Boschの8つの部門も担当して、ガーデニング用機器から電気自動車のエンジンまで、あらゆる製品の騒音・振動パラメーターの最適化に取り組んでいます。
振動・音響部門は、さまざまな心理音響ツールを使って、顧客の期待に沿ったプレミアムな洗濯機や食器洗い機を実現させます。コシツェにあるBSHの音質研究室では、音響を検証する最新のツールと技術を使っています。ここでは両耳用ダミーヘッドを高品質の無響室で使って、音を正確に表現して解析することにより、家電の音質を測定します。
Otto Petraška氏は次のように話します。「われわれのチームは、複数グループの人に対して音のサンプルを流し、試験を実施します。その評価に基づいて、顧客の期待に沿うような音響目標を設定します。同時に、威圧的でなく、それでいてある種の力強さを感じられるパワフルな音になるように心がけています。」
BSHの振動・音響のシニア・センター・スペシャリスト、Rastislav Andrejco氏は、こう付け加えます。「消費者は、洗濯機であれば水をまくような音、換気扇であれば風のような音、コーヒー・メーカーであればコーヒーがしたたり落ちるような音を期待しているのです。」
製品を構成する部品はいずれも製品全体の音響に影響を及ぼします。製品開発において、音響エンジニアリングを成功させるには、変更や調整が必要です。「開発プロセスに早い段階から関与することで、プロセスの終盤になって騒音問題に発展しかねない製品の欠陥を早期に取り除くことができます。当然、最終段階になって問題に対処するより、コスト効率も高まります。」と、Otto Petraška氏は言います。
ミハロフツェにあるBSHの電気モーター開発部門の協力により、BSHが主要ブランドのBoschやSiemensとして製造するすべての家電用に開発する年間1400万個の電気モーターに対して、音響・振動試験を実施しています。ミハロフツェのチームが電気モーターの設計を担い、コシツェの研究チームが音響・振動パラメーターを提供します。
完備した半無響室で実施する追加の音響設計エンジニアリング
コシツェの音響研究者たちは、エンジン開発プロセスの初期段階から関わります。ミハロフツェの開発チームは、電磁回転子と固定子の設計 (1Dモデル) で構成するエンジンを設計し、デジタルツインを生成します。この仮想モデルを活用することで、エンジンの動作や負荷を物理面と機構面の両方でシミュレーションし、すべての出力を検証できます。
また、シミュレーション・モデルを活用することで、試作機を作成する前に、音響・振動設計パラメーターを微調整することができます。Simcenter™ 3Dを使うと、シミュレーション・モデルを作成できます。これにより、開発サイクル全体を通じて振動・音響解析を実施し、エンジンの振動・音響特性を評価して、個々の部品の騒音・振動源を特定します。必要に応じて、製品機能や製造コストに悪影響を及ぼさずにエンジンの騒音・振動性能を向上するための設計改善を推奨します。設計最適化の効果は、シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアが提供するSimcenter Testlab™ ソリューションを使って検証します。
「Simcenter Testlabによって、シミュレーション・チェーンのどの段階でも介入でき、変更が基本設計にどのように反映されるかを知ることができます。例えば、エンジンの構造に関して言えば、部品の一部から音が発生している場合、われわれのチームで技術的な処置を施すことができます。しかし、問題の原因が電磁設計自体にある場合は、電気モーター開発部門に戻して、基本設計を最適化してもらいます。新しいエンジンを開発する際は、このようなループを何度も経験します。」Otto Petraška氏は、このように説明します。
BSHの振動・音響部門は、2008年にシーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenterポートフォリオのシミュレーションおよびテスト・ソフトウェアを導入してデジタルツールを使い始め、データの完全な適合性を実現しています。
Otto Petraška氏は次のように述べています。「Simcenterによって、シミュレーションと実験的試験を密に相関させることができる点が非常に重要です。この機能がなければ、シミュレーションは絵に描いた餅に過ぎません。」
BSHでは、Simcenter TestlabとSimcenter 3Dシミュレーションを組み合わせて使っています。「BSHは、相互に連携し合うこの2つの製品を使うことのメリットを理解し、その相乗効果を利用しています。また、Simcenterの騒音・振動ソリューションはどれも効果的で使いやすいと感じています。」とBSHのシニア開発エンジニア、Ján Ondrejčák氏は言います。
実験的試験を通じて、シミュレーションのパラメーターが正しく設定できているか、シミュレーション結果が信頼できるものであるかを確かめることができます。また試験によって、すべての製品バリエーションのデバッグや微調整が可能です。Otto Petraška氏は「シミュレーションで最適な結果が得られたら、その製品の実際の試作機を作成します。最適な結果であると確信できるまでは、試作機は作れません。」と話します。
デジタライゼーションによって、開発時間は短縮し続けています。これまで何週間もかかっていた作業が今では数日で済んだり、数日かかっていたシミュレーションが数時間に短縮されたりしています。今後シミュレーション・モデルの性能がさらに高まるにつれて、シミュレーション・エンジニアは製品の長期的な挙動を予測できるようになるでしょう。
「当社の製品は、何年使っても購入当時と同じ騒音・振動性能を維持するということをお客様に確信を持って伝えたいのです。それが、われわれのブランドに対する信頼感を高めることになり、次世代の当社製品の購入にもつながると期待しています。」Otto Petraška氏は、このように語ります。