貴重なペイロードを無事に発射台へと送り出す、Simcenterの動的環境試験専用ソリューション
エアバス社の防衛・航空宇宙関連製品、サービス事業を担うエアバス・ディフェンス・アンド・スペース SASは世界の宇宙業界をリードする企業の1つであり、防衛分野でも世界のトップ10に数えられています。35ヵ国の事業所に、86ヵ国の国籍を持つ40,000名の社員を擁し、エアバス全体の21%を占める収益を上げています。エアバスは航空宇宙と関連サービスのグローバル・リーダーであり、社員総数はおよそ134,000名です。
2013年12月にフランス領ギアナにあるEuropean Space Portから打ち上げられたガイア衛星は、約10億個の恒星の正確な位置と、特に明るい1億5000万個の恒星の視線速度を測定しています。稼動期間は2019年までを予定していましたが、2023年まで延長する可能性もあります。ガイアは私たちの住む天の川銀河の組成や、形成と進化の過程についての情報を地球へ送り返しているのです。このミッションのデータをもとに、宇宙にまつわる根源的な疑問のいくつかが解き明かされるだろうと、科学者たちは期待しています。ガイアが10億個の恒星のそれぞれに行っている分光観測は、銀河や太陽系、惑星系、クエーサー、さらには小惑星などの起源、構造、変遷を知る手がかりになるものです。
ガイアは、エアバス・ディフェンス・アンド・スペース社が欧州宇宙機関 (ESA) のために製造しました。複雑な構造をした重さ2トンの機械であり、2台の望遠鏡に取り付けた10億ピクセルの分光器アレイなどの精巧な計装機器類、原子時計、10メートルのサンシェードを搭載しています。衛星は高度150万キロの軌道をめぐり、宇宙の謎に答を与えてくれるかもしれないデータを地球へ送信し続けています。
このガイアのような貴重な宇宙観測装置を、いったいどうやって発射台から深宇宙へと、損傷も故障もなく到達させることができるのでしょうか。フランス、トゥールーズにあるエアバス・ディフェンス・アンド・スペース社の環境テストセンターに勤務するPaul-Eric Dupuis氏らのチームにとって、答は単純明快です。それは、世界一経験豊富な仲間がいる最先端のテスト施設で、顧客との緊密な協力のもと、シミュレーションとテストのための最新ソリューションを使うことです。
エアバス・ディフェンス・アンド・スペース社はフランスのトゥールーズに、かつてはInterspaceと呼ばれていた、世界有数の環境テストセンターを持っています。チームは1983年から国際的な宇宙関連の試験業務に携わっており、30年を超える実績があります。面積2万平方メートルのテスト施設は、同社の製造工場の衛星インテグレーション室と直接結ばれています。
この施設には2000年以降、1億1500万ユーロを超える資金が投入されており、フランスの航空宇宙業界の外からも注目を集めています。たとえば、米国のDIRECTV 15衛星もここで試験を行った後、2015年にフランス領ギアナで打ち上げられました。
センターは時に多忙をきわめます。チームの専門技術を求めて、何百万ドルもかけた機材の試験や検証を依頼してくる衛星インテグレーターや部品メーカーが、年々増え続けているからです。同社が信頼を寄せているのは、製品ライフサイクル管理 (PLM) のスペシャリストであるシーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアのSimcenter SCADAS™ハードウェアとSimcenter Testlab™ソフトウェアからなるSimcenter™ソリューションです。
エアバス・ディフェンス・アンド・スペース社でメカニカル・テスト・マネージャーを務めるCarine Pont氏は、次のように述べています。「私のチームには試験実施過程の加振機が多数あります。データ収集システムは2種類です。小さい方は、128チャネルのSimcenter SCADASハードウェア制御システムを搭載していて、年に10回から12回稼動します。一方、大型のマルチ・バイブレーション・システムの加振機には96チャネルのSimcenter SCADAS制御システムが搭載され、こちらは毎週稼動しています。試験対象は大きい衛星だけではありません。
通信衛星のリフレクターのようなサブシステムの試験も、私たちの仕事の大きな部分を占めています。最近、CHEOPSのミッションのために望遠鏡の試験実施の最初の過程を完了しました。皆、興奮していましたよ。」
チームが興奮したのも、うなずけます。CHEOPS (CHaracterising ExOPlanet Satellite) はエアバス社がスペインで進めている特別なプロジェクトであり、望遠鏡はESAとスイス宇宙局が管理しています。2018年に打ち上げ予定の衛星に積まれる装置は、Almatech社が開発したリッチー・クレチアン式望遠鏡、ただ1つです。衛星は、地球に似た太陽系外惑星の成り立ちを研究するために、高度800キロメートルの軌道を周回します。
CHEOPS、ガイア、米国のDIRECTV 15衛星のほかにも、センターは毎年多くのプロジェクトを手がけていて、長年の経験に基づいた高度で効率的なプロセスにより、どんな試験もこなすことで知られています。
「私たちは常に、独自のDynaWorksソフトウェアで効率よく試験を実施してきました」と語るのは、エアバス・ディフェンス・アンド・スペース社の環境テスト・プログラムおよびR&Dの責任者であるPaul-Eric Dupuis氏。「まさに、過去30年間にわたる弊社の宇宙産業における経験が凝縮されたソフトウェアです。今の私たちには、実行すべき明確なプロセスがあるのです。」
テスト・ソリューションには2000年から、世界に2つとないカスタムメイドのシステムが採用されました。このシステムはDynaWorks®のプロセスに統合され、しばらくは非常に効果的に機能していました。「数年後、メンテナンス上の問題がいくつか発見されました。15年後にはスペアパーツがなくなり、一方、サプライヤーは再投資を望みませんでした。」
使えるものは残しつつ、別のテスト装置ソリューションを探すことになりました。古いデータ収集システムは完全にプログラミング可能でした。すべての準備と各種センサーの設定は自動化でき、DynaWorksのプラットフォームまで トレースバックできました。センサーのタイプやチャネル・ケーブルの接続といった、あらゆる有用な設定情報が床置き型のデータ収集ステーションへと送られ、増幅器やチャネル接続のプログラミングに利用できました。試験がすむと、収集したデータは後処理とアーカイブ保存のためにDynaWorks へ送り返されました。
新規のハードウェアを選ぶにあたり、効率とセキュリティー面での強化が望まれました。しかし今回こそは、サポートや不可欠な予備部品の提供に前向きなサプライヤーが必要であり、新システムの入札ではそうした要件が厳しく吟味されました。
交渉したサプライヤーは8社。そして最後に選んだのは、Simcenterの動的環境試験向けソリューションでした。専用のSimcenter SCADASハードウェアとSimcenter Testlabソフトウェアで構成されるソリューションです。
Dupuis氏によると、「Simcenterで可能になった効果的な情報送信、効率の良いテスト機能は、まさに私たちがほしかった、現時点で最高のものです。DynaWorksとの連携により、市場でもっとも高速で効率的なソリューションになりました。以前はデータの回収に約30分、増幅器のプログラミングに20分ほどを要していましたが、今はずっと短時間ですみます。当テストセンターでは現在、1回の試験実施、つまり一連の3軸正弦波試験と音響試験を週5日の業務時間内に完了できます。ほかのテストセンターでは不可能でしょう。」
ツールの品質の高さとプロセスの効率性に加えて、社内に蓄積された知識やテストチームの経験も、Dupuis氏は評価しています。「弊社のテスト・エンジニアも技術者も優秀で、顧客と協力し合っています。1つの屋根の下にすばらしい設備とインテグレーション・ラボがあり、仕事をよく理解しているチームがいる。私たちはこの分野で30年以上の実績があります。顧客に最高のソリューションを提供するために、すべてのプロセスを最新の状態に保つよう、常に心がけています。」
Pont氏とそのチームにとって、これは嬉しい言葉です。12名のエンジニアと技術者からなるチームは最近、Simcenter環境試験ソリューションで、CHEOPS望遠鏡の試験を実施しました。「Simcenterの新システムによる最初の試験実施過程で、違いがはっきりわかりました。データ収集とプログラミングの効率が格段に向上しています」とPont氏は語ります。
ハードウェア面での大きな違いの1つは、アクイジション・ボードの汎用性です。どんなタイプのセンサーでも簡単に取り付けることができ、データ収集チャネルのプログラミングがとても楽になりました。
「制御システムのVCF4データ・アクイジション・カードのモニター出力機能は、私たちが特別にお願いしたものです。データ収集システムに制御チャネルの冗長コピーを記録できます。この機能はセットアップ定義ソフトウェアでサポートされていますから、セットアップ・ミスのおそれはほとんどありません。」
Simcenter SCADASハードウェアはコンパクトで、独特の特徴を備えています。ほかのシステムに比べて接続点の数が少なく、配線が汎用型であることにより、全体の品質が向上します。
「Simcenterテスト・システムではダイナミックレンジがはるかに広く、0.1gまたは0.2gでのスイープが可能です。前のシステムでは、これほど低いレンジでの試験は行えませんでした。結果にも非常に満足しています。」
古いデータ収集システムでは、時間履歴データからすべての情報を取り出すまでに長い待ち時間がありました。今データはほとんどテストの直後に得られます。分単位だったことが、秒単位でできるのです。Simcenter の新システムでは、時間をゆうに10分の1に短縮できています。
チームが試験中に気づいた改善はほかにもあります。たとえば、スペクトルのデータをSimcenter Testlabからオンラインでリアルタイムに受け取れることも、試験全体の時間短縮につながります。「Simcenterの新しいテスト・ソリューションのおかげで、仕事はとても楽になりました。」とPont氏。「問題の発生が少なく、プロセスはスムーズになり、解析チームはデータを短時間で入手できるようになりました。信頼性の高いデータを以前の10倍の速さで得られるのです。」
エアバス・ディフェンス・アンド・スペース社におけるSimcenter環境試験ソリューションでは、計512チャネルの入力にSimcenter SCADASハードウェアが対応します。2015年6月に新たに導入された現システムは、振動認定試験に特化した最大のデータ収集システムの1つであり、振動制御やデータ整約の機能も備えています。.
512ものチャネルに加え、チームがSimcenter SCADASデータ収集カードに搭載することを望んだ機能の中には、アナログ信号入力を出力部で複製できること、各チャネルに電気接地を選択できることなどがありました。オランダ、ブレダのSimcenter SCADASハードウェア・チームは特にこの要求を念頭に、新しい電圧 / 電荷 / フローティング / 4チャネル (voltage / charge / floating / 4-channel: VCF4) カードを開発しました。
「Simcenter製品を毎日利用している弊社の技術陣は、その卓越した品質を大いに評価しています。このカードは私たちの求める仕様を考慮し、特別に開発されたものです。製品が実際に要件を満たしているかを確認するために、最高のエキスパートたちがオランダからはるばる来てくれました。今では標準の市販製品と何ら変わることがなく、ハードウェアにもソフトウェアにも、ほかのSimcenter SCADAS製品と同様の手厚いサポートを受けられます。これこそ真のビジネス・パートナーです..」
エアバス・ディフェンス・アンド・スペース社には、試験活動を支援するソフトウェア部門とエンジニアリング部門があります。ツールーズのテストセンター、そしてDynaWorksプラットフォーム向けのソフトウェア開発とともに同社を有名にしているのが、エンジニアリング部門であり、世界の航空宇宙業界において環境試験ビジネスのコンサルティングに25年を超える実績を有しています。
Dupuis氏によると、「コンサルティング業務はブラジルで25年前に始まりました。特に最近の2年間は、世界各地のテストセンターで実施したコンサルティング業務を通して、非常に多くの経験を得ました。この成果を今後もお客様のために生かしていきます。たとえばエンジニアリング・チームは今、アルゼンチン、カザフスタン、マレーシア、トルコ、韓国といった国々でプロジェクトに参加しています。」
「私たちは決して押し付けはしません。顧客の試験実施には、ほかのデータ収集システムと弊社のDynaWorksとを併用するよう提案します。もっとも効果的なのは、Simcenterの試験データ収集ソリューションとDynaWorksの組み合わせです。たいていの場合、Simcenterとの同時導入を企業は強く希望します。それは私たちにも望ましいことです。Simcenterの試験ソリューションは1つ1つの試験実施での効率を顕著に向上させ、リスク因子を大きく減少させるからです。」